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21話

「相手がアンデッドであるのなら――――」


黒い炎の一撃が放たれる。


「わたしは負けない」


 瞬時にして、燃え上がるスケルトン。

それは一撃を見舞いした一体に留まらず、黒い炎は左右に燃え広がっていき、次から次へと黒い塵へと変えていく。


「あぁ、良かった……」


 リリーは内心、安堵していた。

自身の能力が全く効かないアンデッド(ワイト)が出現したことにより、もしかすると自身の力が何らかの原因により衰えてしまっているのではないかと心のどこかで危惧していたのだ。

 ワイトに効かなかったのはアンデッドとは似て非なる存在であるとは分かっていたものの、その可能性を捨てきれない自分がいた。


 しかし、たった今、その危惧は打ち払われた。


「何が良かったんだ?」

「いえ、秘密です。それよりも、突破口を開いたのですから、さっさと逃げましょう――――」

「そうそう、こういう不測の事態は基本的に戦闘を避けるのがベターだからな」


 そう言い合って、出口の光に向かって一斉に走り出す二人。

前をリリーが走り、後ろをワイトが走っている。


「ところで、ひとつ思ったのですが、スケルトンとワイトの違いは何なのでしょうか……?」

「スケルトンはゾンビから肉が消え失せたもので、ワイトは白骨死体に悪霊が憑りついたものという話を昔、ある冒険者が言っていた気がするが詳しくは知らん」

「なるほど、強ち間違ってはいなさそうですね……それ――――」


それが聞こえたのは出口まで残りおよそ70mを切ったタイミングだった。


「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


廃坑内のどこからか身を震わせるような咆哮が轟いてきた。


「リリーちゃん……、まさか、そんなにお腹が空いているなんて……この食いしん坊め」

「誰が食いしん坊ですか。あれをどう聞き取れば腹の虫に聞こえるんですか!」

「カッカッカ!! 冗談だよ、冗談。まあ、とりあえず――――」


 このまま出口に向かおうと続けようとしたが話すのを止めざるを得なかった。

 踏み込んだ一歩から反発する感触が途絶えてしまったのだ。

それは突発的に発生した地面の崩壊のためだった。

出口までの距離はそう遠くはないが、足場が無くては進みようがない。


「ワイト、地面が……!」


 リリーはそう言って、後ろを振り向くとそこには右手をこちらにかざしたワイトの姿があった。


「すまんが先に行っててくれ」

「え――――」


 刹那、ワイトの右手から突風が吹き出し、リリーを廃坑の外まで連れ出した。

本来であれば人ひとりを吹き飛ばすほどに強い風であるため地面と強く接触し、擦り傷や少なくとも服のほつれなどがあってもおかしくはない。

 だが、その風は廃坑から出てもなお、宙にあるリリーの身体をふわりと優しく包み込んでいた。

 そして、ゆっくりと下降しリリーを地面に降り立たせる。


 空はすっかり茜色に染まっており、嘆きの森とは打って変わって、周囲には地肌が剥き出しの褐色の大地が広がっている。

頑丈な石造りの家も点在しているが、煤けた煙突から煙は上っておらず人が住んでいる気配はない。

だが、リリーはそんな光景には一切、目もくれず一直線に廃坑の出口へと駆け出した。


「大丈夫、きっと大丈夫なはず……!」と自分に言い聞かせる。

 何度も何度も言い聞かせる。

嫌な予感がしていたからだ。

それはあの崩落にワイトが巻きまれてしまったのではという可能性。

 やがて、切り立った崖が視界に入ってきて、廃坑の出口らしきものは見つかった。

ただ、その出口は崩れてきた大小様々な岩によって塞がれてしまっている。


「そんな――――」


 全身にぞわりとした嫌な感覚が走った。

虚空をぼんやりと眺め、喪失感に苛まれる。

 しかし、彼女はそんなわけがないと声を張り上げて叫ぶ。


「ワイト! いるんですよね! どうせ、あなたのことですからわたしが心配しているのをほくそ笑みながらどこからかニヤニヤと眺めているんでしょ!  知っているんですからね!」


 リリーは信じたくはなかった。

こんなところであの骸骨がいなくなることを。

だが、それからひょっこり現れるような様子もなく無情にも時間だけが過ぎていく。


「さすがに質が悪すぎますよ! 置いていきますからね! ティターニアさんにも言いつけてやりますからね! 用心棒の仕事をすっぽかしてどっかに行ってしまったって!! また嘆きの森に閉じ込められてしまいますね……! わたしには、まったく関係のないことですが……!」


 その間、空を見上げたり、周囲を見渡したりするがどこにもワイトの姿はない。

返事もない。

いくらワイトでもここまでのことはしない。

ここまで質の悪いことはやらない。


それは言い換えれば、ワイトはここにはもういないという証明でもあった。

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