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20話

 ウィル・オー・ウィスプの淡い光が坑道を進む二人の速度に合わせてその前方を照らしている。

廃坑内のあまりの静けさに、二人の靴音が周囲の岩壁に反射して周囲に響き渡っている。

ピチャンピチャンとどこからか水滴が落ちる音さえ聞こえていた。


 かつては、鉱夫らの力強い掛け声がそこら中で響いており鉱石採掘で栄えていたのであろうが、何らかの事情で鉱石が採掘出来なくなり衰退の一途を辿ることになってしまったのだろう。


 リリーは栄えることと衰えることは切っても切り離せない関係だと師が言っていたのをふと思い出した。

それを何と言っていたか――――

「えいこせいすい……」とリリーは呟く。


 その言葉は暗闇のなかに吸い込まれるようにしてただ消えていくかのように思えたが、意外にもワイトが拾い上げた。

「栄枯盛衰か? 難しい言葉を知っているんだなぁ」

「知っているんですか?」

「ああ、知ってる。ちょうど、お前ぐらいの時だったかな。その時に習ったよ。あの当時は言葉の意味なんて全く分からなかったけどな」

「今は分かるんですか?」

「俺をいくつだと思っているんだ――――さっぱり分からん」

「分からないんですか。そりゃあ、自身の歳も思い出せないような忘れん坊骸骨が分かるわけないですよね」

「全く、こんな骨野郎に何を期待してるんだ……。今を楽しく生きていれば良いんじゃないかってのが俺の考え方だ。まあ、俺、死ん――――」


 ワイトが持ちネタを披露しようとしていたが、空かさずリリーが言葉を差し込んだ。

「……言わせませんよ?」

「恐ろしく早いディフェンス、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」



 二人が他愛もない会話を続けていると、両側の壁がなくなっていることに気付いた。

それどころか天井も見えなくなっている。

それはつまり広めの空間に出たという事実を示していた。


 その空間には、錆びついたレール上に残されたトロッコや、人ひとりが容易に入ることの出来るサイズの木箱、無造作に放置されたシャベル、大きめの机とその周囲に8脚ほどの椅子が見受けられたがそれらは長年、使われていないためか。

いずれも、煤けてしまっている。


「やっと採掘拠点まで来たかぁ」とリリーを抜かして先を行くワイト。

リリーもその後ろを付いて行く。


 周囲には複数のレールが敷かれてありそれぞれどこに繋がるとも分からない穴の向こうへと延びていた。


「あとどれぐらいでイスラフィルに抜けられるのですか?」

「ここまで来れば、そんなにかからないはずだ」


 そう言って、広場の中央にまで足を踏み入れる。

ワイトの前方、奥の方に半円形の光が見えた。


「あ、もしかして、あれが出口ですか?」

「そうそう、あれだあれ――――」

そう言って、ワイトが指をさすと出口の光が突如、消えた。


「ん――――」と疑問に感じているワイトに向かって3体ほど何かが飛び掛かってくる。

ワイトは最初の一体を右に殴り飛ばし、次の一体左に殴り飛ばし、最後に残る一体は正面に蹴り飛ばして首尾良く撃退した。

 それぞれ3方向に蹴り飛ばされたそれらは放物線の軌道を描きながら光が届かない暗闇の中に消え、ガシャガシャガシャンと妙に大きな音を立てて沈黙した。


「何事ですか!? 賊ですか!?」

「……賊ではないな」とワイトは即座に、胸の前辺りで手を開いてそれを重ね合わせる。

「――――強き光よ、ここに集え」


 ワイトがそう言うと、周辺に散っていたウィル・オー・ウィスプが集結し、一つの大きな光となった。

 その光が急上昇し周囲一帯を照らすと採掘拠点の全容が明らかになった。

その光景を見た二人は「これは……」とリリーは息を呑み、ワイトは「囲まれちまってるなぁ」と呑気に答えた。


 襲撃してきた3体が飛ばされた先には複数のスケルトンがおり、大きな音が出た原因は他のスケルトンにぶつかった音であった。

 二人の周囲には数にしておよそ100体ものスケルトンがいる。

全身が鉄の鎧で覆われているものから、無装備のものまで。

剣、槍、弓、斧など多種多様な武器を構えて今にも襲い掛かろうとしている様子が見て取れた。


「逃げたいところだが、さすがに数が少し多いな」とリリーに視線を向けた。

「対アンデッドに自信とかあったりする?」

「大有りですよ」とリリーは意気揚々に答え、『ラーヴァテイン』の黒い炎を右腕に纏わせた。

「やる気満々だな、おい」と舌を巻いているワイトに対しリリーは「だけど、ちょっと、心が痛みます――――」と零した。

「まあそうだな……。死んだ身とはいえ元は人間だからな――――無理はしなくていいんだぞ」とリリーの身を慮るワイトであったが、当の本人であるリリーは意外そうに唇を曲げる。

「いや、そうではなくて、だって骨ですし……。ワイトの親戚だって考えると……」

「あー、そうそう。あれが叔母で、こっちが叔父、そこにいるのはおとんとおかん……って――――なわけあるか!」

「ふふっ……。知ってました。冗談です」


 リリーは小さく笑みをこぼした直後、跳んだ。

 狙うは正面にいるスケルトンの集団だ。

廃坑からの出口を塞ぐように横に展開する20体のスケルトンに対して一切、物怖じせず、高速で接近し真ん中に陣取っている者に狙いを定めて拳を引く。

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