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2話

 王都の周りをアンデッドの群れが包囲していた。

 城壁の歩廊から王国の兵士が弛まず迎撃を続けている。


 城の周辺を囲んでいるアンデッドは一体一体は取るに足りない下級モンスターなのだが、相手は不死であり物理的な手段では何度倒しても蘇ってくる上、その数は万を優に超えていた。


 当初は王宮魔術部隊による広範囲光魔術により早々に撃退出来るものだと考えられていた。

 だが、現実には光属性はおろか、そもそも魔術を発動することが出来なかったのだ。


 魔術の源であるマナが異常に不足していることが原因だとされた。


 魔術が使えないのだから、当然、転移魔術などを使って逃げることさえも出来ない。

 そのため、前線で戦う兵士のサポートに回っていた。


 他にも方法はあり、他の国へ救援を要請するという手段もあった。

 だが、あの山脈を超えるには早くても1週間はかかる。

 王都から遠方の村で最初のアンデッドが報告されてから王都に到達するまでに掛った時間は4日。

 アンデッドの進行スピードはその緩慢な動きからは信じられないほど早かった。


 アンデッドがまだ王都にたどり着く前に、大陸の二大国家であるイスラフィル国とアズラエル国を含めた周辺諸国へ援軍の要請を伝令兵に頼んでいた。

 だが、3日ほどで伝令兵は帰還し、その際に告げられたのは衝撃の事実であった。

 国境沿いに謎の黒い結界が構築されており国一帯から逃げることが出来なくなっているということだった。



「ヘーラ、城の備蓄は後何日保つ?」

「残り1か月が限度かと……」

「そうか、あまり時間は残されていないな」

「はい……」


 ヘーラは力なく頷いた。


「こんなことになるのならやはり、もう少し税を高くするべきだったか」

「もしかすると、陛下は少しばかりお優し過ぎたかもしれません……」

「お前もそう思うか」


 王は表情を変えずに呟いた。


「ですが! 陛下はこの世界で一番の王に有らせられます! 不作だったら飢饉にあえぐ民衆のために私財を売り払って食料を配給し、学問を修めんとする若人には資金を援助する仕組みを制定されました。民の事を一番に考え! 自身のことなんて二の次で……! この国は今、未曽有の危機に陥っていますが、民は友愛の精神を忘れていません。暴動なども全く起こっていないのです! それは一重に陛下の、王としての在り方が正しかったことの証左に他ならない! 私は陛下にお仕えすることが出来て本当に良かったですとも!」


 ヘーラは王に仕えて抱いていた積年の感情を吐露した。

 その真っ直ぐな気持ちに王は「そうか……」と一言だけ答えた。

 その様子はどことなく誇らしげであった。


「余は才には恵まれなかった。だが才ある者には恵まれたようだ」


 王は何かを決意したかのように、足を踏み進めていく。


「陛下、どこに行かれるおつもりですか?」

「宝物庫に向かう」

 彼女の隣を抜けようとしたところで、背中から震えた声が聞こえた。

「何を……?」

「奴らを一網打尽にした後、あの結界を破壊する」

「まさか角笛を……?」

「そうだ、あれを使うかどうかは迷ったが、たとえ王が死んでも民が生きてさえすれば国はなんとでもなる」


 そう、この国にはとある宝具が存在している。

 その名も竜化の角笛。

 この角笛を吹けば、竜になることが出来ると語り継がれている宝具である。

 だが致命的な欠陥があり、それが使用者は死ぬということ。

 王国の歴史において未曾有の危機に瀕した際にこの角笛を吹くことによって難を逃れたが、その当時の王は灰となって消えてしまったと記録に残されてあった。

 強大な力の引き換えに自らの命を無くす。

 人の力では御しきれないアイテム、アンコントロールと呼ぶ者もいた。


「やめてください。……この国には陛下がまだ必要なのです」

「そう買い被るな。余が死んでもアレクがいるからな」

「ですが……」

 第一王子アレクはイスラフィル国に留学中であり、クラウディア王妃もその留学に付き添っていた。


 まさか、国が存亡の危機に瀕しているとは思いもしなかったであろう。


「あいつは才はあるが如何せんまだ若い、だからお前が支えてやってくれ」


  ヘーラはそれでも引き留めたかった。

 王が手ずから国を治める者の心得を説いて欲しかった。

  だが、そんな我儘が通るような状況ではない。


 国が滅ぼうとしている。

 多くの者の明日が消え失せようとしている。

 それに何よりも王は既に覚悟を決めている。

 民を守るため、この国を存続させるため、自らを犠牲にする選択肢を選んだのだ。


 だとしたら、自身に出来ることは何か。

 その最善は王の覚悟を見送ることだった。


「私は陛下にお仕え出来て光栄でした……!」


「お前のような者に慕われて余も幸せであったよ」

「陛下!! ご武運を!!」


 側近は敬礼し、口を固く結びながら王の後ろ姿を見送った。


  国王が玉座の間から出ていこうとしたその時。

 向こう側からバンッと扉が勢いよく開かれた。

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