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19話

「まあ、良いでしょう!」

「さっすが、リリー! 俺じゃ出来ないことを平然とやってのける! そこに痺れるッ! 憧れるッ!」

「その独特な語彙センスはどうにかならないのですか!?」


 リリーの訴えに対し、ティターニアがかぶりを振りながら答えた。


「……無理よ。昔からそんな感じだった。いや、昔より酷くなっているわ、これ」

「そうなのですね……。やっぱり、やめようかな」

「大丈夫大丈夫! 慣れる! 絶対、慣れるから。そうだ! 自信を持って!」

「どうして、わたしが自信を持たなければならないのかが謎ですが、いちいち、突っ込んでいてはキリがないので……」


 ティターニアはリリーの傍から離れて、二人の前に躍り出て言った。


「何はともあれ、あなたはリリーちゃんのおかげで外に出られるんだからね?」

「ああ、分かってる。これはリリーのおかげだ。誠心誠意尽くさせていただく所存であります!」


 ワイトは自分よりも幾分、小さい少女に向かって敬礼を行った。

 それを見たリリーは「はいはい」と軽く流した。

その後、ぽっかりと空いた廃坑の入り口を前にして「それじゃ、ティターニアさん、わたしたちはそろそろ行きます!」と振り返って言った。


「森の中の生活もそう悪くはなかったぞ! まあ、比べようがないからなんとも言えないんだけどな! カッカッカッカ!」とワイトは上機嫌にリリーの後を追っていく。


 そんな二人に対しティターニアは「ええ、気を付けてね! 無理はしないように」と声を掛けた。

 その声に気付いたリリーは後ろを振り向いて手を振っている。

ワイトは正面を向いたまま分かっていると言わんばかりに右手を上げたのみだ。


 そうして、廃坑の中へと入っていく二人を見送る。

 その後ろ姿を神妙な面持ちでティターニアは見つめていた。

そして、誰に言うでもなくぽつりと呟いた。


「運命は交錯した……。後はどう転ぶかかな」



 薄暗い坑道の天井や壁には崩落を防ぐために打ち付けられた坑木の他に、魔灯と呼ばれる空気中のマナを取り込んで光を放つ照明が等間隔に設置されていた。


 だが、長い間手入れされていなかったためか。

 灯りが完全に消えているものや、切れかかっているものなど数多く見受けられた。

そんないつ闇に飲まれてもおかしくない坑道であったが、二人は平然と会話をしながら歩いていた。


「ティターニアさん、良い人……じゃなくて良い妖精さんでしたね」

「俺は閉じ込められていた身だから複雑な心境なんだが……って、あー……なんで森の中に閉じ込められていたのか聞きそびれちまった」

「それ、聞きましたよ。わたし」

「え、ほんとにー? 教えてくれてもいいぞー?」

「どうしようかなー」


 あの時、ワイトの質問にティターニアは答えておらず、これはリリーにのみ話してくれたことだ。

 だが、この事を話してはいけないとは一言も言われていない。

 それに、これはワイト本人のことだ。

だったら、話しても良いだろうとリリーは判断した。


「誰かと再会しないといけないからみたいなことを言っていましたよ」

「再会……? だから、森の中に閉じ込めていたと? だったら、どうして外に出してくれることになったんだ? あ、もしかして――――」


そう言って、ワイトの足が止まった。

何か思い付いたのだろうか。


「何か気付いたんですか?」とその横に立つリリー。

「再会しなければならない相手って、リリーのことだったんじゃないかって話」

「は?」

「ごめん、嘘です。許してください」

「謝るのが早かったので許します。それは絶対有り得ませんね。だって、わたし、あなたのこと知りませんもん」

「だよなぁ。俺が目覚めたのも3年前のことだしなぁ……とにかく記憶が完全に戻らないことには何も分かりそうもないかぁ」


 リリーは再び歩き出そうとするが、先に行くのを躊躇した。

 10歩ほど歩いた先より向こうが全く見えない。

 入り口付近はなんとかかろうじて灯っているものがあったが、魔灯が完全に切れてしまっているのだろう。

視線の先は暗闇にのまれている。


「あの、一つ思ったのですが……?」とリリーはある問題点に気付いていた。

「なに? どした?」

「ここから先はどのように進めば良いのでしょうか」


 いくら夜目の効くリリーであっても、そもそも灯りが何もない真っ暗闇の中においては、それは意味を成さない。

そのような状況下でどのようにして進むのか。


「あー、それは問題ない」と大した問題ではないかのようにワイトは答えた。

「松明でも持っているのですか?」

「いや、持っていないけど」とワイトはおもむろに右手を宙にかざす。

「我が呼び声に応えよ――――『ウィル・オー・ウィスプ』」


 右手の先に柔らかな淡い光を放つ大小様々な球体が突如、姿を現した。

 大きなものは顔ぐらいの大きさであり、小さなものは指先ほどの小ささである。


「せせせ精霊召喚、それも光の精霊……!?」


 リリーはその光景に目をぱちくりとさせた。

 精霊を召喚できる者は魔法を扱える者と比べて少ないと言われている。


 魔法はただの物質であるマナを魔術式に組み込んで発動するのに対し、精霊とはマナが自意識を有した存在。

 要は精霊が召喚に応じるかは精霊の気分や好みによって判断されるからだ。


「クックック……。どうです? 俺って結構有能骸骨でしょ!?」


 自身を指さしながら得意げにそう言ってのけるワイトに対してリリーは「くっ……悔しいですが今回は認めざるを得ませんね……」と不服ではあるもののその有能さを認めた。


「ですが、アンデッドが光の精霊を召喚するなんて、普通は自殺行為ですけどね」

「いやぁだから、何度も言っているでしょうに。呪いによって骸骨に変えられてしまっただけの愛と勇気と正義の味方だって」

「なんかふたつほど増えてますよね。はっきり言ってそれは盛りすぎです」

「すまん、欲張り過ぎた」

「分かればいいのです。それでは道案内頼みましたよ」

「へい、お任せあれ」


 ワイトを用心棒というよりは舎弟のように扱いながら、リリーは真っ暗闇の坑道のさらに奥へと足を踏み入れていく。

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