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18話

「いや、本当は然るべきところに案内して、『実は私が女王でした!! どうびっくりした!? 驚いた!?』というのをやろうと思っていたのだけれど、やっぱりやめたわ。面白くなさそうだもの。……それに森の女王は自称だしね」


 昨晩、とある骨から似たようなことをされたリリーがうんうんと頷いている。


「それは……やらなくて大正解だと思います」

「やっぱり、そうよね。 私の判断に間違いはなかったわ」


二人の意見は一致している。

その一方でワイトは首を傾げていた。


「そうかなぁー。俺はそうは思わないけどな」

「これは女の子にしか分からないことなのよ、そうよ、ね?」

「あ、はい、そうですね……!」

「今、ちょっと、圧を感じたけどな」

「あーもう、やだやだ。そうやってすぐ穿った考え方になるなんてもう見てられないわ。森の外に出る権限を与えようって話も無かったことに――――」


この言葉を聞いて、ワイトはあからさまに態度を改める。


「ティターニア女王陛下の高貴な考えに理解が及ばない憐れな骨太郎をどうかその天空のように寛大な御心でお許し下さい。それにしても、いやぁ、昔に比べて翅のツヤが上がってますよね。いや、もう、ほんと眩しくて見えないなぁ」


ワイトは人が変わったようにティターニアを褒めちぎるが、勿論、彼女には何も響いてはいない。


「あらそう? あぁ、それで、森の外に出すって話だけど、条件を付けさせてもらうわ」

「なんだかロクでもない条件を付けてきそうな気がする」


 その条件とやらを警戒するワイト。

 一方で、リリーは先程、ティターニアから聞いていた話と食い違っていると感じていた。

ある存在と再会するまでワイトはこの森の外へと出られないはずだ。


 それなのに、外に出られるということは、その何者かと既に再会しているということになるが、ワイトが助けた冒険者の中にその人物が含まれていたのだろうか?

だったら、その条件とやらはその冒険者に起因する事柄のはず……。

リリーはそのように予想して、次の言葉を待った。


 だが、その内容はリリーの想定していたものとは異なっていた。


「リリーちゃんと行動を共にすること。それが条件よ」


条件を聞いて二人は口々に言った。


「え、そんな条件で良いんですか!?」

「まさかのわたし……ですか?」


 両者は驚いていた。

 ワイトは想像していた条件よりもずっと簡単な条件が来たことに驚いていた。

リリーも驚いてはいたが、それは自身の予想と大きく外れていたためだ。


「えぇ、だけど、あくまでも主導権はリリーちゃんの方にあるのよ。だから、こんなのと行動を共にするのが嫌なら、嫌だとはっきり言ってもらってもいいわ」


「えー……うーん……」とワイトの方を見るリリー。


 ワイトは安っぽい鉄製の鎧で全身を覆い、鉄兜を脇に抱えている。

彼からすれば森の外へと出られるまたとない機会だ。

リリーに向かって、自分自身をこれでもかというほどアピールし始めた。


「ほら、俺って意外と使える奴なんだよ!? 浮遊魔術で使えるし、戦闘もそこそここなせるし、俺レベルの冒険者なり傭兵を雇おうとしたら、50万……今の通貨単位は何だっけ?」

「デンです」

「そう、デンだ! 50万デン! 金貨に換算して5枚!」


 金貨が10万、大金貨は100万。

金貨1枚あれば、一か月生活出来ると言われている。


 傭兵の事情はよく分からないとして、トップレベルの冒険者の報酬が大体それぐらいという話を聞いたことがある。


 だが、ワイトの自己アピールは逆効果だった。


「本当ですかぁ……?」と疑いの眼差しを向ける。

 このまま森生活続行かと思いきや、意外なことにティターニアがフォローに入った。


「嘘っぽいけど、本当よ。こうなる前の彼はそれだけの強さがあった――――」

「そうだそうだ、ティターニアは俺の過去を知っているからな――――って、なんで過去形!?」


 ワイトが口を挟んでしまったが、その言葉には続きがあったらしく、ティターニアが話を続ける。


「ただ、今となってはただの骨と化してしまっているから、どれだけ能力が落ちているのかちょっと想像がつかないわね……」

「コラ! 余計なことを言わないの! それ、ちょっと気にしてたんだから――――あ」

「ワイトさん。つまり、それは自身の能力を盛りましたね?」

「いやいや、だだだ大丈夫だ、問題ない。いくらこんな骨の身になったからとはいえ、そこまで力は落ちてはいないはずだ! それに――――」

「それに?」

「昨晩、宿を貸してあげたでしょうが! ここはひとつ、憐れな骨太郎を助けると思って――――」


 ワイトがまだ言い終わらぬうちに、リリーは「恩着せがましいにもほどがありますね」と見事に断罪。

 その直後、スーっと顔の横に近寄ってきたティターニアが耳打ちをする。


「リリーちゃん、気を付けなさいよ。こういう輩は昔の恩を返せといつまでもいつまでも言ってくるからね」


「うーん……」と腕を組んで悩む仕草を見せるリリーであったが、実のところ、ワイトと行動を共にするメリットはあった。


 ワイトは浮遊魔術も使えるし、自分の目的の達成のために一緒にいるのは心強い。

唯一のデメリットは骨の身体を誰かに見られてしまった場合だ。


 普段は鎧で隠すことが出来るが、万が一、鎧を脱がなければならない事態になった時、どのように弁明すれば良いのか。

厄介な呪いにかけられたと正直に伝えるか煙に巻いて逃走するか。

その二択になってくるわけだが、そもそも、鎧を人前で脱がなければならない事態なんて――――と考えたら、兜を外せと言われる現実的な場面を思い付いてしまった。


 これは考えたところで埒が明かない。

 ちょっと可哀そうだけど、最悪、ワイトには街に入らないように言えば良いと思うし……とリリーはやれやれと言った様子で答えた。

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