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16話

「これぐらいは出来ますよ!」とリリーは得意げに言った。

「それよりも、あの先に見える洞窟が廃坑ですか!?」


 200mほど先、山の斜面にぽっかりと口があいている。

その入り口を補強するように、板が打ち付けてあった。


「ああ、そうだ! 全力で走っていけ!」

「走っていけ……って!? あなたはどうするのですか?」

「俺か? そんなの決まってんだろ」


 ワイトは焼け焦がされた道の手前で立ち止まる。


「先に行ってろ。ここは俺が食い止める……!」


 迫りくる複数のトレントを前にワイトは立ちふさがるつもりだ。

それは一重にリリーをこの先へと行かせるためであった。

 

リリーは「ですが――――」と躊躇いを見せる。


 自分だけが逃げることに抵抗を感じていた。

そんなリリーの心情を察してなのか。


「大丈夫だ。粗方、片付いたらすぐにトンズラしてそっちに向かう!」と言い残し、向かってくるトレントに向かって「うおおお!!」と雄叫びを上げながら突進していった。


 リリーはその後ろ姿を見届け後、踵を返し、廃坑の入口へと一直線に走っていく。

入り口まで残り30mといったところで、やっぱり加勢した方が良かったのではと自責の念に駆られた。

そう思ったときには身体は止まっており、そのまま後ろを振り向いた。


「ハァ?」


 リリーは自分の見ている光景に驚いた。

 そこにはトレントらと仲良く歩いてくるワイトの姿があったからだ。

中心にはワイトがおり、その周囲には取り巻きのように数十体のトレントが群がっている。


 リリーは頭を抱え、自責の念に駆られたことを深く後悔し、目の前の廃坑の入り口を目指してゆっくり歩き始めた。


 やがて、ワイト一行も入り口に辿り着いた。

山の斜面を背にして立つリリーの口元が尖っているように見えるのはおそらく気のせいではない。


「おお! リリー! そんな不機嫌そうな面をしてどうしたんだ!?」

「別に、全く、不機嫌ではありませんよ。それよりも、その後ろに引き連れているトレント達はどうしたんですか。何があったんですか。友情でも芽生えたんですか。わたしが納得いくように説明してください」

「いや、それがな――――」


 あの時、時間を稼ぐつもりで突っ込んでいったら、トレント側が急遽、立ち止まった。

 敵意を感じられず、何かおかしいなと思って様子を見たところ、トレントの中に人語を話せる者がおり、その者からの話によって自分らが大きな誤解をしていたことが分かった。


 トレントは襲い掛かってきたのではなく、自分たちの女王の下へと案内するために姿を現したのだと。

 追いかけたのは変な道に迷いこんでしまったら危ないということで止めようとしてくれていて、廃坑への道を塞いでいたのは廃坑が危険だからという理由であった。


 それを聞いてリリーは真顔かつ早口で言った。


「女王の下に……? いいえ、これは罠ですね。間違いない」

「ちょっと、リリーさん、人の好意を根拠もなく踏みにじるのはよくありませんね!」

「黙れ、この腐れ骸骨」

「なんてひどい言い草なの!? お兄ちゃんはあなたをそんな子に育てたつもりはありませんよ!!」

「誰がお兄ちゃんですか! 妹はいますが、兄と姉はいません! 勝手に兄を名乗らないでください!」

「仲が良いのね~」

「誰が仲が良いですか!」と声を荒げたが、よくよく考えるとその声の主が分からない。


 柔らかな雰囲気を持つ透き通るような女性の声だった。


 しかし、この場にいるのは、木人(トレント)骸骨(ワイト)、それからわたし……と辺りを見回す。

 だとするなら、今の声はトレントが発したものだと推定される。


(トレントってあんな綺麗な声が出るの……? あのシワシワな見た目から……?)


「その困った顔から察するに、多分、誰の声なんだろーとか思っているんでしょ?」


 数十体はいるトレントの中からまたあの声が聞こえた。

途端、トレントの集団から小さな何かが飛び出したかと思うとそれはリリーの前へと出現した。


「こんにちわ。わたしはティターニア、この森に長く住む妖精よ。あなた達をこの森の女王の下へと案内しようと思ったけど、それはダメ?」


 自身をティターニアと名乗るその妖精は人の顔ほどの大きさで、その背にはアゲハ蝶のような黒い翅が生えており、白を基調とした優美なドレスを着用していた。

 髪は金色であり、肌は光沢を放つほどの白さ。

少しばかり差し込んでくる日の光だけであっても、溢れんばかりに輝いて見える。


「え、いや、そのダメというわけではないのですが……その、ちょっと――――」


 リリーは顔を俯ける。

ちょっと不機嫌だったから否定的になっていた自分の後ろめたさに加え、ティターニアのあまりの可愛らしさと高貴さに直視が出来ないのだ。


「ちょっと――――なぁに?」


 ティターニアは俯いたリリーの顔の下へと潜り込むと悪戯っ子のような笑みを浮かべ追撃する。

リリーは「ひゃ!」と顔を手で覆い隠した。

 見るからに打つ手なしでお手上げといった感じではあるが、ここでワイトがある事に気付き、口を挟んだ。


「てか、あれな。さっき俺に話をしてくれたのも、お前だったのか!」


 ワイトはてっきり、トレントが話をしているものだと思っていた。

 これに対してティターニアは両手を肩の辺りにまで上げて呆れた様子で返す。


「まあ、そうよ。トレントは人語を話せないからね。むしろ、私はあなたがどうして話が出来ているのかが気になるわ」

「これはマナを震わせているだけだな。空気振動と同じようなことをしているに過ぎない。欠点はマナを受け取る器官が存在しない人間には何も聞こえないってところだな」

 ワイトは腕組みをしながら簡潔に答えた。


 一方のリリーは「意外と高度なことをやっていたんですね……」と言ってサッとワイトの横へと移動し何事もなかったかのようにさっきの話を流そうとした。


だが、ティターニアは目を合わせまいと斜め上を見るリリーにゆっくりと近付いていく。

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