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15話

「嘆きの森は別名、迷いの森とも呼ばれている。理由は簡単だ。木々が枝葉を幾重にも広げて道を塞ぐからだ」

「なるほど、わたしが道を見つけられなかったのは分かれ道が木々で塞がれていたためということですか?」

「理解が早くてよろしい。そして、もう一つとても重大なことを言うとだな――――その木々が襲ってくるという話でして」

「え……?」


リリーは道沿いに生えている木を凝視する。そこにあるのは鬱蒼と茂る木々があるだけだ。


「まさか……この辺り一帯の木が襲ってくると言っているのですか?」

「まあ、有り体に言えばそういうことになる」

「では、なんでまだ襲ってこないのですか?」

「すまんがそれは分からん……」

「分からないものは仕方がないです……。ですが、一つ腑に落ちたことがあります」

「何が?」

「嘆きの森の依頼が赤丸だったことです」



 何故、嘆きの森地域の依頼は赤色に分類されていたのか。

 冒険者ギルドの掲示板に依頼書が貼られており、その依頼書の左上には塗り潰された丸印が描かれている。


 この丸印には危険度に応じて色が異なっており、

青丸は荷物の運搬や猫探しなどの命の危険が及ぶことが少ない。

緑丸は採取系のクエストであり、これも比較的危険性が低い。

赤丸は討伐系のクエストであり、命を落とす危険性が高い依頼だ。


さらにその上に、黒の丸印が描かれた依頼があるという噂もあるがリリーは見たことがなかった。


 ある日、リリーがアンデッド系の依頼がないか探していたところ、嘆きの森の依頼には赤丸がつけられていることに気付いた。

 だが、さして興味もないためそれ以上知ろうとは思わなかった。


 そして、今、初めて知った。

この周囲にある木々、言ってしまえば嘆きの森一帯の木々はマナの影響で魔物と化しているのであれば赤丸であったことに納得が行く。



「赤丸とか懐かしいなぁ」

「昔の記憶はなかったんじゃありませんでした?」

「いやいや、部分部分で覚えていることがあるのよ。人の記憶って結構、複雑な構造しているのよ? 肝心なことは忘れて、どうでもいいことを覚えていたりすることあるでしょ?」

「なるほ、ど?」


 腑に落ちない点はあるものの粗方は納得した様子であった。


 その直後、ガサガサと何かが動く音が聞こえた。

音のした方を注意深く観察すると、幾重にも重なった木々の奥から何かが近づいてくるのがうっすらと見える。

 それは人にしてはあまりにも細い体躯をしている。


「人間ではありませんね」

「間違いない」


 視線を固定してその様子を凝視していると、ちょうど真後ろで木々の枝葉が擦れあうような大きな音が聞こえた。

 反射的に振り向くと、そこには――――

 たった今、掘り返されたような穴とその脇に立つ木の姿をした二足歩行の生物。

体長は5mほどであり、全身に年輪のような模様が浮き出ており、幹の一部に顔のような輪郭が浮かび上がっている。

その顔は皺だらけの老人のようであった。


「襲ってくるというのは……もしかして……この木人《トレント》のことですか?」

「大当たり」

「これほどまでに嬉しくない当たりは初めてです……」


 リリーの反応に抗議するかのようにそこら中から木々の騒めきが聞こえる。

先程、木々の隙間から見えていた細すぎる体躯をしたあの正体もおそらくトレントだ。

だとするなら、この一体だけではない。

さらに言うなら、現在進行形で増えて行っている可能性が高い。


「このままじゃいずれ、囲まれてしまいますよ!」と切羽詰まった様子でワイトに投げかけた。

「大丈夫だ、問題ない。俺にはとっておきの秘策がある――――」


 リリーは知っていた。

 この骸骨(ワイト)は意外と強い。

周囲一帯を一掃する広範囲魔術を会得していても何らおかしくはない。

この骸骨野郎に期待はしたくないが、状況が状況だ。

歯がゆい思いに反して、秘策とやらに期待が高まる。


満を持してワイトは言った。


「――――逃げる」

「え」


 リリーは口を半開きにしたままぽかんとしていた。

うまく聞きとれなかったのかと思いワイトはもう一度言った。


「逃げる」

「えぇ!?」

「逃げるんだよォ!!」

「ちょ、待――――」


 そう言って全速力で逃げ出したワイトを追いかけていく。

 後ろの方でざわざわと木々が揺れ出している。

走っている最中、リリーは後ろを一瞥したかと思うとすぐに前へと向き直り、速度を上げた。

その結果、ワイトと並走する形となる。


「あのほっそい足で追ってきていますが!?」

「だよなぁ! 逃げた獲物を追うのは植物だって同じというわけか!」


 逃げ出した二人の後ろから緑の生い茂ったトレントが植物とは思えない俊敏さで二人を追いかけていた。

このまま道なりに走っていけば、ワイトの家にたどり着くはずだが、その道は木々の中に隠れてしまっている。


「道がなくなってる……!」


だが、止まっている暇はない。


「道を隠して退路を断つのが奴らの常套手段だ! このまま廃坑に突き進む! 経験上あいつらは日の光が入らないところにまで追っては来ないはずだ!」


ワイトはそう言うと左の茂みを指さした。


「あの茂みに向かって、昨日俺にやったみたいにぶちかましてやってくれ!」

「分かりました! あの程度の茂みだったら消し飛ばせるはずです!」

「『ラーヴァテイン』――――」


 胸から噴出した黒い炎がリリーの右腕に収束するのと同時、跳躍しながら右腕を大きく引いた。

次の瞬間、リリーは叫んだ。


「――――焼き尽くせ!」


 リリーの突き出した拳から黒い炎が噴出したかと思うと前方に広がる茂みを燃やし尽くした。

黒く焼け焦げた道の突き当りに洞窟の入り口らしきものが見て取れる。


「ヒュー! やるぅー!」とワイトはリリーの一撃を賞賛した。

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