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14話

「これに関してはマジ」

「そうですか、では、どうしてあんなところにいたのですか?」

「あんなところ?」

「はい、()()()()あなたという存在に出会ってしまった昨晩のことです」

「そこは()()()()の間違いだと思うけど、まあいいや。あれは誰かが近づいてくる気配を感じたから小屋から出てきたんだよ。ほら、ここって、嘆きの森だし。もしも新米冒険者だったりしたら物言わぬ骸骨になりかねないからね、要は善意の施しをしようと――――」


 話を区切り、何か言いたげにリリーを一瞥するワイト。

 昨日の出来事を振り返れば、それは嫌というほど分かる。


「そうしたら、逆に殺されかけるというね! あ、もう死んでるか(笑)」

「はっきり言いますけど。そのギャグ全く面白くも何もありませんから」


リリーは歯に衣を着せるつもりは微塵もなく冷たく言い放った。


「なん……だと……」


 効果は抜群のようで、ワイトの肩が下がった。


 この訳の分からない骸骨には辛酸だか苦渋だかを飲まされ続けていたリリーであったが、ようやく一本取ることが出来たと嬉しがり、残っていた干し肉も一気に平らげた。

 お腹も膨れたことだし、もうそろそろ屍竜を探しに行かねばと椅子から立ち上がった。


「では、お世話になりました。わたしは父を探しに向かいます」

「えぇ、もう行っちゃうの~? コーヒー残ってるよ?」

「あ……」と出されたコーヒーを一気に飲み干すと、残念がるワイトを尻目にそそくさと身支度をして、開きっぱなしの玄関から外へと飛び出した。

 しばらく、歩いたところで小屋を振り返るがそこにワイトの姿はなかった。

「見送りぐらいしてくれても……」と思いつつ歩を前に進ませていく。



 ワイトの小屋から離れて、しばらく、リリーはまだ嘆きの森の中にいた。

目的地はイスラフィル王国である。

 昨日、いくら北の空へと飛んで行ったとはいえ、そこからどこへ飛んでいったのか手掛かりの掴めない父を探すためには情報は欠かせないと考えていた。

そのため、イスラフィル王都『ティアレイン』の冒険者ギルドへと情報収集に向かおう考えたのだ。


「たしか、この辺に分かれ道があったはず……」


そう呟きながら昨日辿った道を引き返していく。


 あの骸骨(ワイト)が廃坑に繋がる道がイスラフィル王国へのショートカットになっていると言っていたのを覚えていたのだ。


 だが、一向に分かれ道が現れない。

 注意深く時折、後ろを振り返りながら歩いているのだが分かれ道らしきものに出くわさない。


「おかしいな……そろそろ見えても良いはずなんだけど……」と独り言を漏らす。

「そうだよなぁ……。おかしいよなぁ……。ワイトもそう思います」

「そうですよね。もうそろそろ見えても……って、え――――」


 冷静に考えて返事が聞こえたことがおかしいことに気付き、後ろを振り返るがそこには誰もいなかった。

前へと向き直るもそこにも誰もいない。

それどころか、辺りを隈なく見回しても誰もいない。

そこから導き出される答えは――――


「もしかして幻聴……?」


 ぽつりと呟いた。

まさか、知らない間にあの骸骨に質の悪い呪いでも掛けられていたと猛烈に後悔する中で幻聴がまた聞こえてきた。


「幻聴だと思った!? ところがどっこいリアルボイスなんだよねぇ!」

「この絶妙にふざけた感じはあの骸骨で間違いない……だけどどこに――――」


 そこで気付いた。

その声は上からしていたことに。


 即座に頭上を見上げるとそこには腕を組んだまま、リリーを見下ろしているあの骸骨がいた。


「あ、バレちった」

「バレちったじゃないですよ! なんでいるんですか! というかなんで浮いてるんですか! 浮遊魔術は上級魔術に類するほど難しいんですよ!」

「骨だけだからやっぱり軽いんだろうね」

「わたしまだ浮遊魔術、会得できてないのにー!」


 悔しさのあまりにリリーは頭上のワイトの足首を両手で掴むと地へと引きずり落そうとして命一杯に力を込める。


「やめろ! 引きずり降ろすんじゃない! 下賤なる者よ! 身の程を弁えろ!」

「死んでからもなお意地汚くこの生者の世界にしがみついてる死者(アンデッド)のあなたが何言ってるんですか!」

「それは一理あるな」


 かくして、ワイトは地上に引きずり降ろされた。


「それで――――」と深いため息を吐いた後、ワイトに詰め寄った。

「なんでいるんですか?」

「我思う、故に我あり」

「哲学的な回答は求めてないんですよ。なんですか、なんなんですか、ストーカーなんですか?」

「スススススストーカーなんかじゃないんだからね! ちょっと、気になったから付いてきただけなんだからね!」

「それを世間一般的にストーカーというんですよ。信じられない、16歳そこらの少女の後を付けるなんて到底許されるものではありませんよ、どうやって償うつもりですか?」

「心配だからと子供を見守ったり、子供に挨拶をしたりすることは果たして罪深い行いであるのか。それはさておいて――――」


 ワイトは大きく息を吸った後に、とっておきの提案をした。


「道案内が欲しいとは思わないかい?」

「道 案 内……!」


 リリーは思わず復唱する。

それは、道に迷っていたリリーがちょうど欲していたものだった。

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