9話
商人は繁華街から10分ほど歩いた埠頭で立ち止まった。
「カンナさん、ここで少し待ってて貰えますか?」
俺はカンナに少し離れた物陰で待機してもらうよう指示を出した。
カンナはこくこくと頷き俺と目線を合わせた。
(うーん…見えないけど何人か人の気配がする…)
「ここはあの子に任せるか…」
スキル[ゲージ]発動。
「おいで、チュチュ。」
俺は魔力で構成された檻の中からネズミを1匹呼び出した。
「チュ、チュチュ!」
ネズミは俺の肩に乗り、頬に擦り寄った。
「あはは、はいはいまた後でね。」
俺は指先でネズミの頭を撫でた。
「チュチュ、ここに俺達以外で人が何人居るか見てきて。」
「チュ!」
ネズミは素早く俺の元から離れ、物陰に溶けて行った。
「あ、あの〜タマキさん?さっきのネズミは…」
となんとも絶妙な表情で俺に話しかけた。
「あぁ、あの子は俺のペットです。」
「そ、そうなんやね…あはは…」
カンナは苦笑いをしている。
「もしかしてカンナさんってネズミ、苦手でしたか…?」
「えっ!あ、あはは…まぁ…」
「ありゃりゃ…すみません…」
そんな会話をしていると、チュチュが戻ってきた。
「チュ!」
「早いねチュチュ、流石だ。」
「うん、なるほど…」
「わかった、ありがとう。」
そう言って俺はまた、ネズミの頭を撫でた。
「7人かぁ…うーん…」
と、頭を悩ませていると
「チュチュチュ!」
「え、手伝うって?でもチュチュ戦闘は苦手なんじゃ…」
「チュ〜!」
(かなりやる気みたいだし…ここは素直に手伝って貰うか…)
「わかった、じゃあ頼むよ。」
と、言うとチュチュは頷き身体から煙を出した。
「うん!私に任せて!」
「チュチュお前、人化出来るようになったのか!」
「うん!だから終わったらいっぱい褒めてよね!」
そう言って人化したチュチュはニコリと笑った。
「来たかジューク、あの店はどうなった?」
「…」
「おい!質問に答えろ!」
「……」
「お前ら気を付けろ!こいつなんかおかしいぞ!」
「うぉぉおおっ!」
「チッ、しゃあねぇやっちまえ!」
向こう側が騒がしくなり始めた。
(おっ、始まったみたいだな…)
「行こうかチュチュ!サクッと終わらせるぞ!」
「了解!タマキくん!」
スキル[狂乱]発動。
「もっと暴れな!商人のおっさん!」
精神を乱すスキルにより商人達の乱闘に拍車がかかる。
「な、なんだこいつら!」
「悪いけど説明する暇も義理もない!さっさと観念しな!」
(そしてはやく帰ってタマキくんに…ぐふふ…)
スキル[影踏み]発動。
「タマキくん!そっちお願い!」
「いいね、任せな!」
スキル[分身]、[パラライズ]発動。
「なっ、身体が!」
「くそっ!なんでこんな事に…!」
商人達は状況を把握する間もなく一斉に捕縛された。
「チュチュ、これで全員か?」
「あれ…?私が見たのは全部で7人なんだけど…」
「1.2.3…全員で6人しか居ないぞ?」
「おっかしいなぁ…」
と俺とチュチュが話していると
「おい!お前ら動くな!」
7人目が現れた、カンナを人質にして。
「タマキさんごめん!バレてもうた…」
「カンナさん!しまった…効果範囲外に出ちゃったか…」
「うるせぇ!そいつら解放しろ!じゃないとこいつ殺すぞ!」
と、男はカンナに刃物を突きつける。
「おいおい、落ち着けよ…な?」
「そうそう、あんまタマキくんに手間かけさせんな〜?」
「うるせぇうるせぇ!お前らさえ居なきゃ!」
男はすごい剣幕で叫ぶ。
「さっさとしろ!本当にぶっ殺すぞ!」
男の刃物を握る手に力が入る。
「タ、タマキさん…」
カンナは今にも泣き出しそうな顔でスカーフをぎゅっと握りしめた。
「わ、私は大丈夫やから…な?」
「何が大丈夫だ!喋ってんじゃねえ!」
そう言って男はカンナの顔を切り付けた。
「っつ…!」
「あっ!あぁ…終わったな…あいつ…」
チュチュは頭を抱えて横に振った。
スキル[剛力]、[神速]、[ショック]発動。
「!」
瞬く間に男は泡を吹き、その場に倒れこんだ。
「女に手を上げるどころか顔を切り付けるなんてどんな神経してんだ?お前、殺すぞ。」
タマキは気絶して動かなくなった俺の胸倉を掴み睨みつけている。
「ちょ、ちょっと!タマキくん!あの人の手当て!手当てしなきゃ!」
私は必死でタマキを落ち着かせる。
「そ、そうだ!カンナさん!大丈夫ですか!?」
タマキは男を放り投げ、カンナと言う女の安否を確かめた。
「よ、よかった…このくらいなら治せるよ…」
スキル[リカバリー]、[聖女の祈り]発動。
どうやら当たりどころが良かったらしく、傷は浅かったようで見る見る内に傷は癒えていった。