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5話

「はい、お二人のサインを確認しました。」

「では私はこの書類を行政へと持って行きますのでここで失礼します。」

そう言ってアルルは道具屋を後にした。

「さてタマキの嬢ちゃん、早速だが嬢ちゃんはどんな店を開きたい?」

「どんな店にするか…ですか…」

(正直ここまでの流れが早すぎてそこまで考えてなかった…)

「うーん…すみません…特に考えてませんでした…」

「カカカッ!正直だな!嬢ちゃん!」

そう言ってエドは俺の頭をガシガシと撫でた。

「俺ァな、ここに来る客達が皆笑顔で満足して貰える店にしたかったんだよ。」

「けど結局、俺には客どころか一緒に働く仲間すらまともに養う事が出来なかった。」

「俺ァ、人の上に立つような人間じゃあなかったってこったな。」

と言うエドの横顔は酷く悲しそうな顔をしていた。

「はぁ、悪いな嬢ちゃん…今日はもう遅い、明日の朝また来てくれるか?」

「はい、わかりました。」

そう言って俺は道具屋を後にした。

その時、何気なく振り返るとエドは道具屋を見上げており、その表情はまるで店に話かけているように見えた。


「エドワードさーん!タマキですー!いらっしゃいますかー?」

「うーん…」

エドに言われた通り、朝に道具屋に来たが反応がない。

「入ってみるか…」

俺は真っ暗な道具屋に入り、エドを探す。

「エドワードさーん?タマキですけどー」

やはり反応がない。

「うーん…、ここに居ないのか?」

出直そうと思い振り返った瞬間、眼前に男の陰部があった。

「わぁ!」

俺は驚き身を後方へ飛ばした。

「ってエドワードさんじゃないですか!なんで全裸なんですか!」

「なんでってそりゃ、朝の水浴びしてたからなァ…」

と腕を組み頷いている。

「と、とりあえず隠すか何か履いて下さい!」

俺はそう言ってそっぽを向いた。

「はいはい、まぁ少し待ってな!カカカッ!」

エドはそう言って奥の通路へと姿を消した。

そうしてしばらく経った後

「すまんなタマキの嬢ちゃん、待たせたな。」

エドは所謂作業着を着て現れた。

「よっしゃ!嬢ちゃん!やるぞ!」

「えっ…何を…ですか?」

「カカカッ!何をってそりゃ店の掃除だろ!」

とエドは笑う。

「えっ…そう言うのって清掃業者とかがやるんじゃ…」

と俺が言うとエドは真顔になり

「俺にそんな金はない!!!」

と言った。

「な、なるほど…」

「まぁ、二人でやれば1日で終わるだろ!気合い入れるぞ、嬢ちゃん!」

とエドは俺の背中を叩いた。

「あっ、二人だけ…なんですね…」

「金がないからな!カカカッ!」

エドはニコニコと笑っている。

「わかりました…少し本気だします…」

俺はそう言って鞄を下ろした。


スキル[分身]発動、スキル[イリュージョン]発動。

「とりあえずこれで人数はエドワードさん含めて9人になりました…」

「おいおい、どうなってんだ?嬢ちゃんが8人って…」

「忍者のスキルの分身とマジシャンのスキル、イリュージョンを両方使いました…時間は10分しか持たないのでサクッとやりましょう!」

「倉庫の嬢ちゃんから話には聞いてたがタマキの嬢ちゃんはやっぱり色々な職業を極めてるんだな…」

「ははは…」

(そのせいでお金が無くなっちゃったんだけどな…)

と苦笑いしか出なかった。

「よっしゃ!じゃあチャチャっと済ますぞ!」

「はいっ!」

俺とエドは全力で掃除を始めた。

10分後…

「ぜ、全然終わらん…」

「カカカッ!良くて10%ってとこだな!」

「こ、これで10%…」

「いやいや、嬢ちゃんのおかげで半日くらいで終わると思うぞ?」

「分身とイリュージョンのクールタイムは30分…それでも半日はかかる…」

(俺、掃除めちゃくちゃ苦手だから限界が来てしまう…)

「…仕方ない…こうなったら…」

俺は鞄をゴソゴソと漁る。

「あった、これこれ!」

と鞄の中から黒い瓶を取り出した。

「お?嬢ちゃんなんだそりゃ」

「これは強制的にスキルのクールタイムを0にする薬です…」

「代わりに30分間HPとMPが持続的に減っていきますが…」

「中々使いにくいアイテムだなァ…」

「一番酷いのは味で…ウプッ…これだけはどうしようもなくて…」

瓶の蓋を開ける俺の手が小刻みに震える。

「ヴァッ!クッサ!ヴォエッ!」

俺は吐きそうになりながら瓶を握る。

「おぉ…こりゃ酷ェ匂いだなァ…まるで腐った魚が浮いてるドブみたいな…」

とエドは鼻を摘み眉間に皺を寄せる。

「い、いくぞ…飲むぞ…!」

気合いを入れて中身を一息に飲み干す。

(舌触りも最悪だ…ドロドロでネバネバで…ほぼ固形…)

そして息つく間もなく水を含み飲み込む。

「はぁ…はぁ…もう飲むことはないと思ってたけど…」

「とりあえずこれで…」

と、ふとエドを見ると距離を置いている。

「ど、どうしたんですか…?」

とエドに話しかけようとした。

「す、すまん嬢ちゃん…今はあんまり近づかないで貰えるか…?くせぇから…」

エドはゴミを見るような顔で俺を見る。

(ひ、酷い…)

俺は肩を落として、少し離れた場所で清掃の続きの準備を始めた。


スキル[分身]、[イリュージョン]、[水のヴェール]、[風のヴェール]、[聖女の祈り]、[自然の恵]発動。

「これで水拭き、乾拭きを同時に行なってHPとMPを自動回復させてスキルの解除と倒れるのを回避する!」

「我ながら中々賢いやり方!だと思う…」

俺と俺達の分身は店内を駆け回り、隅々まで清掃していく。

「1時間で終わらせるぞ!うおおおおっ!」

(こんなに奮起したのは龍王との戦い振りかもな…)

そんな事を考えながら出来るだけ掃除以外の事を考えて床を掃き、窓を拭き、埃を取り除く。

「おぉ…こりゃすげぇな…」

と、エドは口角をあげ感銘を受けているようだった。


「はぁ…はぁ…お、終わった…」

俺は息を切らし、床に腰を落とす。

「カカカッ!悪いな嬢ちゃん、ほとんど一人でやらしちまってよ…」

とエドは俺に水を手渡す。

「いえ…これからは俺が始める店なので…これくらいはやらないと…」

そう言うとエドは俺に優しく微笑んだ。

「タマキの嬢ちゃんと出会えたのは奇跡かもなぁ…」

「この店も嬢ちゃんに引き継がれて幸せになるな!カカカッ!」

と言ってエドは懐から鍵を取り出した。

「この店の鍵だ!受け取れ、嬢ちゃん!」

「あ、ありがとうございます!エドワードさん!」

「おいおい、水くせぇな…エドで良いって言ったろ?」

「う、うん…ありがとう、エド!」

「おう!」

「で、だ。」

と、エドは話を切り替えた。

「契約金は持って来たか?」

「えっ?」

「おいおい、嬢ちゃん…忘れちまったのか?しゃーねぇなぁ…待っててやるから取りにいきな!」

そう言ってエドは俺を送り出した。

(契約金…?)

俺は頭を悩ませながらアルルの元へ向かった。

「ようこそ、タマキさん!お店の引き継ぎお疲れ様でした!本日はどうされましたか?」

アルルはぺこりとお辞儀をして俺を出迎えた。

「あ、うん…契約金って…」

「あぁ〜!畏まりました!では準備致しますね!」

そう言ってアルルは後ろの部屋に入って行った。

「お待たせしました!こちら契約金の25.000.000G、1.000.000G金貨25枚です!」

とお金の入った麻袋をカウンターに置いた。

(あはは…なんとなく嫌な予感がしてたんだよな…)

「ち、ちなみにアルル、俺の残りの貯金って…」

と俺は恐る恐るアルルに問いかけた。

「はい、大体4.000.000G程です!」

「あ、あっそう…うん、ありがとう…また来るよ…」

俺はそう言って倉庫を後にした。

そしてその足取りはこれまでになく重かった。

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