4話
「なんだこのバカでかい部屋は…」
俺の背の倍はある棚がいくつも並んでいる。
「カカカッ!驚いてんなァ…ま、無理もねェ俺の道具屋は世界一の道具屋だ!」
と大男は大きな声で笑う。
「ま、それももう過去の話だがなぁ…」
(やけに落ち込んでるな…)
「あ、あの…」
俺は恐る恐る声をかける。
「あぁ、悪いな嬢ちゃん、変な話してよ…とりあえずはこのポーションについて聞こうか。」
そう言って大男は地べたに座り込んだ。
「嬢ちゃん達も座ってくれ、わりぃな椅子の一つも出せないでよ」
「い、いえ!お気遣なく…はは…」
「はい、私も大丈夫です。」
「私はいないものと思って構いませんので、どうぞお話を進めてください。」
アルルはそう言って会釈したあと紙とペンを取り出し座り込んだ。
「よし、じゃあ話の続きだ…」
「それで、このポーションを嬢ちゃんが作ったってのは本当か?」
と、大男はポーションが入った箱を指差して言った。
「は、はい!錬金術のスキルを強化する過程で…」
「ほぉ…錬金術ねぇ…」
「す、すみません!やっぱり失敗作じゃあダメですよね…」
そう言って俺がポーションをしまおうとした時、大男は俺の腕を掴んだ。
「ひぇ…!すす、すみません!」
「待て!嬢ちゃんさっき失敗作つったか?」
「は、はい!すみません…」
俺はそのまま俯く。
「だぁ!さっきから謝るのやめねぇか!俺ァ別に怒ってるワケじゃねェよ!」
「失敗作って言う事は成功品もあるって事だろ?」
大男はずいっと俺に近づく。
「は、はい!一応3つ作ってあるので…」
そう言って俺は成功品のポーションを鞄から取り出した。
「これは錬金術の極地の技術が使われた究極のポーションです…」
「こんなポーション中々みねぇぞ!ランクもつけれねェ…」
「多分このポーション自体が禁忌のアイテムに近いから…だと思います…」
「ほぉ…それで、効果は?」
「このポーションを使えば身体に大穴を開けられても元に戻せます。」
「す、すげぇじゃねぇか!なるほど…そりゃ禁忌にも触れるわなァ…」
そう言って大男は何かを考える様子を見せた。
そして、「ちなみに一つ聞くが装備品なんかも出せるのか?例えば嬢ちゃんが首に巻いてるスカーフ、とかな」
と言って、大男は俺を指差した。
「こ、このスカーフ…ですか…?えっと…どうしてでしょうか…?」
「カカカッ!今更隠せねェよ、嬢ちゃん。」
「そのスカーフ、ランク黒、つまり最上級のモンだろ?」
大男はそう言ってニヤリと笑った。
「…あはは…やっぱりわかっちゃいますか?」
と言って俺はスカーフを外して大男に見せた。
「ふん…魔導具か…」
「はい、それをつけると魔法の詠唱時間を半分に出来ます。」
「半分にか!?」
大男はそう言って驚いた表情を見せた。
かと思うと
「と、言っても俺に魔法の才能はないんだがな!カカカッ!」
と言って大声で笑った。
「なるほど…でしたらこれはどうですか?」
俺は腰に巻いていたもう一枚のスカーフを外して手渡した。
「ほぅ…これはランク金か!これも嬢ちゃんが作ったのか?」
「あはは…自分用に調整してあるので他の人にも効果があるかはわからないですが…」
と言って俺は頬をポリポリと掻いた。
「それは身体速度を強化させる魔導具です。代わりに攻撃力と防御力が下がってしまいますが…」
「なるほどなぁ…」
と言って大男は2枚のスカーフを見つめている。
「「……」」
しばらく会話のない静かな時間が流れた。
すると突然大男は2枚のスカーフを鼻に当て、スーッと鼻から空気を吸い込み匂いを嗅いだ。
「えっ!!ちょっ、な、なな、何してるんですか!?」
俺は焦って大男に飛びかかった。
「カカカッ!なんだなんだ、恥ずかしがるんじゃねェよ!」
と言って俺の頭を押さえて笑っている。
「い、いや恥ずかしいとかじゃなくって!」
「まぁまぁ落ち着け、嬢ちゃん、合格だ、合格!」
「いやいやいや!って、えっ…合格…?」
「悪かったな…変な事してよ!俺ァしみったれた空気が苦手なんだよ、カカカッ!」
「元々このポーションを見た時に嬢ちゃんに決めてたんだよ」
と言って大男はポーションの入った箱を指差した。
「えっ、でも…商人のレベルとか鑑定眼のスキルの確認とかって…」
「あぁ…そこは大丈夫だ、嬢ちゃんこの時計気になってたろ?」
大男はそう言うと腕時計を外して俺に手渡した。
「あ、あはは…バレてましたか…」
(確かに、初めてあった時からずっと気になっていた、見た目は普通の腕時計なのに物凄い魔力を感じる。)
「その時計は商人の上位職、株主じゃないと違和感を感じない。」
「嬢ちゃん、その時計のランクをどう見る?」
「は、はい…正直どう見てもランク白、最低ランクです…」
と、俺は大男に伝える。
「カカカッ!正確だ嬢ちゃん!その通り、この時計はランク白だ。」
そう言って時計をひょいと取り上げた。
「てなわけで、条件は全部クリアってワケだ。」
「そ、そんなスルッと…」
「問題ないな?倉庫の嬢ちゃん。」
と大男はアルルに問いかけた。
「はい、エドワードさんとタマキさんに問題がなければこちらの書類にサインをいただければ契約成立となります。」
と言ってアルルは俺達の間に書類を差し出した。
「ほぅ…あんたタマキって名前なのか、いい名前じゃねぇか。」
「あはは…ありがとうございます…」
「道具屋の道は甘くねェぞ?覚悟は良いか?」
そう言うと大男は俺の前に拳を差し出した。
「大丈夫です…!ここで頑張らないと全てが無駄になりますから…!」
と言って俺は拳を合わせた。
「契約成立だ、タマキの嬢ちゃん!俺はエドワード、気軽にエドか黒ひげって呼びな!」
エドワードと出会いものの数時間、何故かサラッと道具屋の受け渡しが決まってしまった。