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短編 85 和風ゴブリン

作者: スモークされたサーモン


 ゴブリンは悪くない!


 ゴブリンを悪者にする人間が悪いんだ!


 そんな気持ちで書いてみました。




 ここはゴブリンの国。


 ……の東の果て。


 ここには少し変わったゴブリン達が住んでいる。


 

「今年も畑が豊作でござるー!」


「祭りでござるー!」


「ござるー!」


 ゴブリン……この地方では小鬼と呼ばれる彼らは少し方言が強かった。


 本土のゴブリンは語尾に『ごぶー』とか『ごぶ!』とか付けるのが主流。


 しかしここのゴブリン……小鬼達は『ござるー!』なのである。


 装備もコシミノではなくて、和風なフンドシ。


 武器は流石に棍棒であるのだが、何となく木刀にも見える。


『和風ゴブリン』


 彼らはいつしか本土の者達からそう呼ばれていた。なお、強さは普通にゴブリンである。



 彼らの一日は早い。


 まだ日が昇る前に彼らは起きて田を耕す。それだけではなく森で食料も探す。主な食べ物は畑の作物と果物や木の実にキノコ。動物を食べることはない。なので人間も食べない。


 誤解されがちなゴブリンであるが、彼らは本来草食系である。体臭も乙女のようなフルーティー。小鬼と呼ばれているが、鬼らしさは頭にある小さな角にしか存在しない。


「果物は、どこでござるー!」


「あっちでござるかー?」


「こっちでござるかー?」


「とりあえず探すでござるー!」


「ござるー!」


 森をちょこちょこ歩き回る小鬼は可愛らしくもある。


 実はかなり温厚な種族であるゴブリン族。創作物において、何故にあそこまで嫌われるのか意味が分からない程に小鬼達は平穏に暮らしている。


 ちょっと見た目が魔物チックなエルフ。そう言い換えても語弊はない。


「ぎょえー! 猪でござるー!」


「ドングリで気を逸らすでござるー!」


「うぎゃー! 間に合わないでござるー!」


「……逃げるでござるー!」


「あーっ! 士道不覚悟で、ご法度でござるー!」


「ぎょほー!」


「あひょー!」


 ゴブリンとは猪よりも弱き者。猪も本気で殺すつもりはない。楽しく遊んでいる節もある。瓜坊達はそんな母親の姿を見て育つ。ああ、あんな風にして牙を使うのね、マミーカッチョいい。


 森に向かった食料調達班は大体毎日このようにして襲われる。猪や小熊のオモチャにされてズタボロになるのだ。


「いやー、今日も激しかったでござるー」


「牙突き上げとか即死でござるー」


「防御力無視でござるー」


「フンドシだけだから紙装甲でござるけどー」


「ウケるでござるー!」


 ズタボロだけど気にしない。彼らは陽気な小鬼達。そんなこんなで食料を採ってきた彼らは集落で毎日宴会を開くのだ。


「大地の女神にありがとうでござるー!」


「ありがとうでござるー!」


 ゴブリンは本来このように慎ましくも賑やかに暮らす大地の民となる。


 女冒険者を連れ去ってうひひのひ! なんて事は創作の世界だけの話なのだ。


 ゴブリンを生理的に受け付けない女神による暴走でもあるのだが、それはまぁ、神々の世界の話になるので割愛する。


 毎日宴会を開く小鬼達。この陽気さで属性的に妖精の近傍種と考えられている。つまりフェアリーの親戚。誰も認めてくれないが、実態としては妖精よりも妖精っぽい生き物である。


 フェアリーは……実は腹黒くて金にがめつい事も広く知られている。あの見た目に騙されて酷い目に遭った事のある者は少なくないはずだ。


 それでも人気があるのがフェアリーの恐ろしい所だろう。あいつらマジであざとい。


「腹踊りでござるー!」


「ウケるでござるー!」


「よっ! 腹にゴブリン棲んでるよー! でござるー!」


 宴会は夕方まで続く。小鬼達のバカ騒ぎは、実は日中限定のものでもあるのだ。


 夕方になると小鬼達は宴会の片付けを始める。そして太陽が沈む頃には彼らも就寝してしまうのだ。

 

 ゴブリンは夜行性。それはデマである。ゴブリンも基本的に太陽の子なのだ。夜更かしするゴブリンもいるが、それは人間と同じで大多数というわけではない。


 夜は寝るもの。ゴブリンの常識である。特にかがり火を焚いたりもしないので夜の集落は寝息ぐらいしか聞こえない静かな場となる。


 夜になり静まり返った集落は、しかし幻想的な様相を醸し出す。


 夜のゴブリン集落には光の玉が現れることがある。通称『ゴブリンライト』と呼ばれる儚い蛍のような光。この光の玉が幾つもふわふわと集落を漂うのだ。


 幻想的であるが、どこか物悲しいその光に人々は空想を掻き立てられる。


 実際はゴブリンの排泄物的なものらしいのだが。


 ゴブリンはウンコしない。これはデマではなく事実である。ゴブリンウンコしない。これほんと。


 彼らは夜寝ているときに日中体内に取り込んだものを大地に還していると考えられている。


 その副産物的な現象として夜に『ゴブリンライト』が現れるのだ。燐と魔力が結合したものと考えられているが、決して触ることは出来ない不思議な光である。


 この光にはいくつかの意味があることが研究で分かってきている。


 ゴブリンのいる土地は豊かであるのが常である。肥沃な大地にゴブリンがやって来る訳ではない。彼らがいるから土地が豊かになるのだ。この『ゴブリンライト』が現れる土地は肥沃な大地に限定される。


 昔からゴブリン達が人間に迫害を受け、襲われるのは、つまりはそういうことなのだ。


 何も知らない者にとって幻想的に闇夜を照らす『ゴブリンライト』もゴブリンによって食われた人間達の魂に映るのだろう。


 ゴブリンは殲滅すべし。


 そして豊かな土地は我らのものだ。


 そのように考える人間のなんと浅ましいことか。少数ではなく大多数の人間が同様の考えになるのも、なんと愚かで傲慢なものなのか。


 かつては大陸全土に生息していたゴブリンが、今や辺境にしか確認出来ない理由はこれである。


 人間に土地を豊かにする力はない。多くの国で土地が枯れているのは自業自得の結果なのだ。


 それでも彼らは飽き足らず辺境に豊かな土地を追い求める。


 辺境に手を出した国のほぼ全ては魔物によって大概酷い目に遭う。そして辺境からの撤退を余儀無くされるのだ。魔物はゴブリンとは違って人間を攻撃してくるので当然だろう。


 ここゴブリンの国は世界中から追いやられたゴブリン達が逃げてきた場所なのだ。


 ここも最初は不毛の大地だったという。見渡す限りに砂丘が続く『終わりの地』もしくは『世界の果て』として。


 人間に追われたゴブリン達はここに住み着き何年も何十年も掛けて土地を改良していったのだ。そしてここが不毛の大地だった頃から数百年が経った現代。かつては砂丘だった土地は豊かな森となっていた。


 ここゴブリンの国が自然豊かなのは彼らあっての事。自然を守るにはゴブリンを守るのが一番の近道なのだ。


 それは研究によって広く知らしめられているはずなのに、それでもゴブリンへの偏見は無くならない。


 こうして声をあげても聞く者がいないのだ。今回の研究レポートも以前のように読まれることすらなく捨てられてしまうだろう。


 だが伝えねばならん。


 ゴブリンの本当の意味を。


 我らが辿っている道の、なんと愚かなるを。


 いずれ取り返しのつかない事態にならぬため警告するのが我らが務めである。


 経済活動、大いによろしい。


 だが。


 それは本当に未来ある活動なのか、疑問を呈して私はここに筆を置こう。


 金しか追わない国は必ず滅びる。滅びて来たのだ。


 願わくば我が祖国がその愚かなる国にならんことを願って……。


「朝でござるー!」


「畑を見に行くでござるー!」


「あ、お客さんの様子も見に行くでござるー!」


「もうそろそろ怪我も治ったでござるかな?」


「旨いものを食わせるでござるー!」


 ……小鬼達は暖かな種族。どうか心優しき彼らにこの先も安らぎがあらんことを。


「元気になったら、一緒に腹踊りするでござるー!」


 ……いや、それは遠慮させてもらおう。



 今回の感想。


 腹にゴブリン棲んでるよー! 


 所々から滲み出る真面目さが作品をおかしくしてる気がします。


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