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コスモファギー

作者: 望月叶奏

 悪夢を見ていた。広大な宇宙の中で、自分一人取り残される夢。息もろくにできない、泳ぐこともできない。声を出しても、空気が無いから届かない。振動という現象が起こらない。振り返ると、青い地球が見えた。自分は、こんなにも苦しんでいるのに地球は何事も無く回っている。地球に少しでも近づけるように、手を思い切り動かす。バッティングセンターで、空振りを繰り返すヘタクソな野球少年の気分を味わう。自分がアホらしく思えてきた。そろそろ、酸素が足りなくなってきた気がする。頭がボーッとする。ダメだ、と思う。もう、ダメだ。その時、誰かに腕を掴まれた気がした。


「喜びがない〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 姉の真白は、僕がバイトをさせてもらっている蕎麦屋「神風」でまた弱音を吐いている。また、面接落ちだ。これで何度目なのか分からない。


「幸人、私のES見てよ。完璧でしょ?そう、完璧なの。一流大学卒、大学院卒のポスドクの生物研究者。捨てられたペットたちを見て、なんとか救いたいと思い立って、大学卒業したら就職するつもりだったけど、私は院進という途方もない道を選びました〜〜〜。そこから、毎日研究の日々。毎日、うさぎちゃんやわんこちゃん、にゃーごちゃんたちと欠かさず会話。動物ちゃんたちの声を聴きたい。にゃんにゃん。みんな、見て見ぬふりしてるでしょ、ペットの無断放棄。命、捨てないで〜〜〜。お願いだから、私のところに持ってきて〜〜〜。私の、ペット愛、伝わってるでしょ?」


 こんなの誰が聞いてたいのだろう。一つ一つの言葉に、隙がなさすぎる。早すぎて、もはや何を言ってるのか分からないし、それを言ってる表情といったら、弟としても、人としても恥ずかしいくらいヤバい。必死すぎて、どう慰めたらいいのかわからない。そのことに、姉は気づいていない。気づけ。頼む。


「姉ちゃん、他のお客さんの迷惑になるから、静かにしてよ。今日は、何食べるの?」


「うぁあぁぁぁぁぁぁん!もう、私、狂い咲きしそう。脳みそから、バラ、咲きそう。花咲けパッカーんだよ。もう。はなかっぱだよ、パッカーんよ。山菜そば、ミニ卵カツ丼セット、漬物抜き。」


「はい。お静かにして、お待ちください。」


 姉の注文を聞いて、その悶々とした気持ちもキッチンに持っていく。対して仕事をしたわけでも無いのに、精神的な疲れが僕に押し寄せる。その雰囲気が伝わったのだろうか。


「幸人、どしたん?今日、めっちゃ顔色悪いよ。ちょっと休んだらどうだい?」


 店長のヨウスケさんに、心配そうに声をかけられる。うわ、面倒くさい。


「山菜そば、ミニ卵カツ丼セット、漬物抜き入りました。」


「おお!真白ちゃんか、就活うまくいってそうかい?今作るでの。」


「それが全然みたいで、、、すんげぇ愚痴みたいな話聞かされましたよ。もう、毎回毎回、面接落ちたらここ来るのやめてほしいですよ。」


「うちの売上、上がるからいいんじゃい。話してる場合じゃないけん。」


「そうですけど、、、」


 ど正論で突き飛ばされてしまった僕は、何も言い返すこともできず、その場に立ち尽くしてしまった。姉の悲しみは、痛いほどわかる。僕も、今就活中なのだ。僕は、どの会社にエントリーしようかなと考えていて、まだ戦場には立っていない。逃げてるみたいに聞こえるかもしれないけれど、極論そうかもしれない。自分が、何をしたいのか、まだ全然わからない。自分には可能性という三文字が横たわっている、と信じている。信じているだけで、何も動きやしない。猫から逃げ回るネズミのようだ。


「じゃあ、幸人帰るね。よ〜〜〜し!!!気を取り直して、もっかいES作って、面接受けるぞーーー!!!んじゃ!」


「ゆっくりやりなよ。面接もそうだし、人生も。」


「んあっ?人生?なーーーに言ってんのよ、あんた。私より若いくせに、老けたこと言ってんじゃないよ〜〜〜。」


 そうだよな。僕ってちょっと、大人びてるところあるんだよな。って、自分で思うのもなんか変だけど、自分だけで思ってる分には全然大丈夫か。僕も、就活もっと頑張らないと。


「店長、先上がります。お疲れ様です。」


「おうよ、いつもありがとの。次いつだっけ?」


「来週の月曜日です。大学終わったら、来ます。」


 いつも通りの毎日。これでいいのだろうか、と思うことが最近多くて、毎日楽しく生きてられない。そもそも、生きることって楽しいのかな。これまでも、楽しいと思うことはたくさんあったけど、それだけかな。もっと、悲しい経験、辛い経験もしてきたよな。ただ、忘れてるだけなんだよな。きっと。

 バイト帰りに、近くのスーパーに立ち寄る。スーパー「サンフランシスコ」。僕がたくさんあるスーパーの中で、ここを選んで行く理由はたった一つ。ポイフルがたくさんあるからだ。僕は、小さな頃からポイフルが好きだ。この粒々の食感と、多様なフレーバー。レモン味が一番好きだけど、それ以外も最高だ。小中高大と、ずっとポイフルばかり食べてきた。顔が丸いのは、そのせいかと言われると自信はない。けど、そうであったら少し嬉しい。いつものように、一週間分を購入する。大抵一日一つと決めているが、たまに二袋食べてしまう時があるので、予備で二つほど多く買って計九つ買ってしまった。まあ、実家暮らしだから自分で儲けたお金は自分で自由に使うことができる。ポイフルに使おうが、服を買おうが、ディズニーに行こうが、パチンコで負けようが自分の責任だ。僕は、人生でやってはいけないことをリストアップしている。その中の一つが、ギャンブルだ。ギャンブルで得られる高揚感は、一時的なものだ。だから、そんなものに無駄金を使うなら僕だったら映画を見に行くだろう。たまにはいいと思うけど。


「ただいま。」


「あら帰ったの〜、幸人。もう少しでご飯できるわよ。」


「はーい。」


 母と毎日のように同じ会話をしている気がしてならない。もうすぐ社会人になると言うのに、一人暮らしを一度もしたことがない僕は、やっぱりこれでいいのだろうかと先行きが不安になる。

 自分の部屋に入って、しばらく録画していたアニメを観ていた。「三等分のチーズケーキ」「恋愛クロニクル」「人間以上、蟻未満」「河合さんは話したい」「ドラクロワ伝説」。今日って、土曜日かぁ。好きなアニメが結構あって、今日は全部見れないな、と思ってなんだか幸せな気分になる。思えば、大学に入ってからずっとアニメばかり見てきた気がする。そのおかげで、大学にはアニメが好きな友達ができた。そいつらは、結構自分と趣味の合う奴らで、同じストーリーを追っているおかげで長い間友人関係が継続している。幸せなことだと思う。

 ちょうど、「人間以上、蟻未満」を観ている最中に母にご飯だと呼ばれた。今日は、すき焼きだった。僕は、あんまり好きじゃないけど、姉がすき焼きが好きだった。就活難民の姉を慰めたいという母の想いが、すき焼き越しに伝わってきて、僕も泣きそうになった。その涙を隠すように、卵をかき混ぜる。

 今日のアニメやっぱり最高だな、と心の中で思って今日は寝ることにした。ドラクロワ伝説の、アーティの剣を操る能力の正体がわからなくてモヤモヤしてるし、恋愛クロニクルの三角関係はたまらないし、河合さんは話したいのお互いわかってるのに、素直になれない感じも好きだし、なんか話し出したらキリがなさそうだな。お昼の姉の気持ちが、少し分かった気がする。やっぱり、僕は弟なんだなって。

 お風呂も入って、寝る支度をしていた。僕は家族の中で、一番寝るのが遅いからいつも電気は全部僕が消す。

“カチッ”

 いつも通り電気を消した、つもりだった。


「やあ、幸人くん。我は、スカウトマンのボードレールだ。君をスカウトしにきた。ついてきたまえ。」


 突然のことで、頭が混乱していたのだろう。暗闇の中に、よくわからない発光生命体が僕に話しかけている。なんなんだ、こいつ。気味が悪い。だが、何も考えていないのに、身体が勝手に動いてそいつの後をついて行ってしまった。


「なんなんだよ、君。宇宙人?それとも、ロボット?てか、なんで僕の家の中にいるんだよ。不法侵入だよ、警察訴えるよ。」


「幸人くん、つべこべうるさいんだよ。黙って我についてきたまえ。まさか、忘れたわけじゃないよね?つい最近、宇宙に取り残される夢を見ただろ?あれは、夢じゃないんだよ。君は、ジュネに襲われたんだ。そうして、地球から連れ去られた、わけなんだけど、ジュネがうっかりしてて、君を宇宙の途中に置いてきてしまった。だから、この我がまたお迎えに来たと言うわけだよ。」


 やっぱりわけがわからない。何?あの悪夢は、夢じゃなかったってわけ?じゃあ、あの苦しいと思ったのは本当だったのか。全然、信じられないし、そうだとしたら、僕はどうやって帰ってきたんだよ。


「君は、真白が助けたんだよ。君のお姉ちゃんだよ。厄介なやつだね、我らの敵だ。せっかく君のことを、引っこ抜こうと頑張っていたのに邪魔するとはね。我らの計画の邪魔はさせないよ。」


 気がつくと、また宇宙にいた。太陽に向かっている?のか。ボードレールとかいう謎の生命体は、一体僕に何をするつもりなんだ。身体は、自分の意識で動かせられないから、きっとこいつが僕に何かしたんだろう。


「そうさ。君は今、ただの操り人間さ。目的の地に着くまでは、おとなしくしてもらうよ。しばしの辛抱だ。」


 くそっ。心を読まれていた。これじゃ、何も考えられない。埒が開かないじゃないか。しばらく、何も考えないことにした。


 目的の地に着いたようだ。いかにも、と言った感じの悪者の基地で、例えるならバイキマンが立てこもっているあの城みたいな場所だった。

 

「君は、自分の使命を思い出さないといけないよ。」

 

 ボードレールはそう言うと、謎の城に僕を案内した。荘厳な造りで、何かヤバいやつが奥にいそうな雰囲気を醸し出していた。だが、現実は違った。


「やぁ、幸人くん。二度目だね。私はジュネだ。君を一度連れ去ったが、途中でうっかり落としてきてしまってね。ボードレールにもう一度頼んで呼んできてもらったよ。さあさあ、こちらへ座りなさい。」


 現れたのはチビでツルッパゲで紫色の宇宙人だった。いかにも、人間が考えつきそうな宇宙人の典型的な姿だった。こいつが、なんだと言うのか。


「幸人くん、君は知らねばならぬ。君は、宇宙を喰い散らかす悪魔なんだ。私たちよりも、もっと悪い悪魔なんだよ。人間のふりをして、生活するのもそろそろやめたらどうだね。ねぇ、サドくん。」


 自分の中で、稲妻が落ちる感覚がした。心臓がバクバク動く。何が起きてるんだ。なんなんだよ、僕が宇宙を喰い散らかす悪魔?なんだよ、それ。サドって?僕の名前?僕は、幸人だよ。ねぇ、そうだよね。僕は、ゆき、、、。


「俺がお前を自由にしてやるよ、幸人。いつまでも、叫んでいろよ、幸人。自分は違うんだと、思ってればいいじゃないか。ジュネ、儀式の準備を始めろ。」


 サドは、ジュネに命令する。


「ははっ。サド様。」


 ジュネが持ってきたのは、地球や水星、金星などの惑星のレプリカのような見た目をした本物だった。サドは、地球に触る。地球では、震度15の地震が起きる。人間は、あっけなく絶滅した。


「物は試しだな。地球は、やっぱり脆かった。今頃、真白も死んだだろ。」


「サド様、儀式の前に困ります。ここまで、それぞれの惑星の生態データを取得するのにどれほど時間がかかったと思っているのですか。せっかく育てた人間も殺してしまうなんて、台無しですぞよ。」


「1500年もあれば、また近い生物は生まれるだろう。それに、宇宙飛行士なんていう奴らもいるからな。あいつらは、人間が絶滅した後に嫌でも生殖しないといけない義務を負ってる。種というのは、分散させるのが手っ取り早い。まあ、もうその必要もないか。俺が全て、喰べるからな。俺は、この宇宙を喰い、新たな宇宙を創造するもの。コスモファギスト、サドなんだよ。」


「重々承知であります。それでは、儀式の方を始めさせていただきます。ではいきます。すーいすーいきんきんちっかちっかどってんかーい!」


「おい、木星忘れてるぞ。」


「これは失礼。すーいきーんちっかもっくどってんかーーーーーーーーい!!!いでよ、コスモファギスト、そして宇宙を呑み込みたまえぇぇぇ。」


 やがてサドは、すべての惑星と、その周辺の宇宙をも取り込み、始まりに向けて〇〇したのだった。〇〇によって放出された××が△△と混ざり合い、遂にはビックバンを起こした。それが今の、宇宙四世ということになる。


「幸人、アクセンチュア受かったよ!」


「よかったね、姉ちゃん。」

今回は、自分でも理解できる小説を書いたつもりですが、またいつも通り現実離れしたストーリーになってしまいました。反省反省。面白かったら、感想ください。

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