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「極めて!早くに!静かに!丁寧に!安全に!」

気温は低くないのに息は白い、肺が苦しい。

己を高めろ、止めるな、この足は何のために存在する。危機から離脱するためだ。腕を振れ、

振った腕はむなしく空をきる。それでもよいのだ、振っていけ!

私を構成する物質が燃えている、炎属性だ。いまならフレイム!とか、が。出来るかも。

「出来ねーよ!」

思わず突っ込んでしまった。私としたことが不甲斐ない。走り続けて脳にまで酸素が届いて

いないようだ。といか酸素と酵母ってパッと見似てるよな。

「似てねーよ!」

第一この天才ホスト「プラチナカインド」に汗をかかせるなんて愚かだ。愚かすぎる。

「愚かなのは、お前の脳みそじゃボケェェェェェ!!!」

音の方向に振り替える。刹那。

「グヘボアッボッ!!!」

認識をする前に私は殴り飛ばされた。

んだよね?死んでないよね俺?

「こんのぉぉぉぉ!オーーーーナーーー!!!!!何で吹っ飛ばしたの!?痛かったんだ

けども。痛かったんだけども。」

殴られた私は激昂する。

「痛くないわよ!痛いのは…。アーシの心よ。」

「うるせええええ!!!誰だってゲンコツで上から頭をつぶされたら痛いだろうが!感覚

麻痺ってるのか?そうなのか?脳筋ゴリラだから、わからないか。」

「脳筋ですって!!ゴリラですって!!!麗しき純潔清純おプリンセスとお呼びなさ

い!!!」

「その見た目と体つきは下劣低俗なドワーフだろ。あ、こんなやつと一緒にしてしまってド

ワーフごめんな。」

「アーシは努力しているのよ!毎日美顔ローラーかけて、半身浴して、白湯も一日三回飲ん

でるのよ!はーい!究極的美!!!」

「あー、はい。はい。それじゃ失礼いたしました。」

ズドンッ。オーナーのゲンコツが俺の顔の横にあるコンクリの壁に突き刺さる。

「逃げちゃだめよね?」

「は、はい…。」

まさに詰みでした。

ホスト「エデンの園」狂ったり沈んだりするネオン、謎にたくさんの煙と謎の情報を吹かす

煙突、これが私のホストクラブだ。

「わかったのー。白銀ちゃん。」

私をそのでかい指でつつくな。こいつがオーナー。それで私は労働者です。私は今、シフト

の時間を忘れた罰で椅子に縛られています。助けて。

「おーい!白銀ちゃーん?」

オーナーの顔が私の顔に迫ってくる。

「わかりました!オーナーがとてもきれいという事が。と・く・に・ね。」

オーナーは頬を赤らめ明らかに喜ぶ。

「もおおお。そんなこといわないでいいのよ!うへうへ。」

キモイ。死ねばいいのに。この肉だるまオーナー。つか、解けよ、縄を解けよ。痛いんだよ。

いつまで私は椅子に縛られてねぇといけないんだ。早く説得しないと。

「オーナー…。」

「もう!オーナーなんて!やめて!アーシはオペよ!ホストハウス「エデンの園」の麗しき

美女オペ様とは私の事よー!!!」

ムキムキの体を晒すな、目の毒だ。私は女性と美しきものを愛しているのだ!

「なーに、辛気臭い顔してるの?私に惚れちゃったかしら―。」

「はい!そうです!だから解いてください!縄を!」

「はいダメ―!」

「ダメ!?」

「あのねぇ、あんた。仮にもこのホストクラブのナンバーワンを張ってるのよね?それなら

適当なオカマのあしらい方ひとつ覚えておきなさいよ。」

いや!自分でオカマって自覚してるのかい!それいいの!?

「あしらい方ですか…。いや、無理だろ。こんなのに目を付けられたら逃げれるわけないで

すよ!」

「ケンジー!!!」

オーナー―の怒号が鳴り響いた。人のそれとはない音。これを聞くのはそう久しくない気も

する。いや、ほぼ毎日か。いずれにせよ私は体を震わせながら彼を見つめるしかない。

それと急に怒りすぎじゃない?辛いわ。

「ホストの命は観察よ!何を学んできたの。」

わかっている、理解している。

「第一に…」

お客様を見る。見ることでお客様の顔・体形・服装・センス・経歴・過去・趣味・思考が予

測できる。美人なら役員妻かと。ブスなら頭がピーターパンかと。服装が明るきゃ自分に酔

ってる。暗けりゃネガティブか。もしくは隠れビッチか。センスが無いのは当然、ここに来

るものは何かを患っている。お客様の過去も見ることは可能だ。人間の一つ一つの動きには

意味がある。よそよそしいのは、逃避への罪悪感かもしれない。横暴な者は何かしらの暴力

の真似か連鎖かもしれない。無意識に人間は情報を垂れ流す。見る作業ではお客様の視覚的

情報を集め、お客様に合わせた対応をする。

「…ってわけよね。」

「はい。」

「ケンジちゃんあなた別にたるんでるわけじゃないわね?」

「はい。」

オーナーには何もかも見透かされるな。

怖すぎるわ、このオーナー。

「何か隠しているでしょあなた。」

オーナーの目が鋭く光る。だが私は沈黙を選んだ。

「なによ、その目?アーシが悪いみたいじゃないやーだー。そういう人に罪を押し付けるの

はいかがとアーシ思うんだけどー。」

オーナーが再び顔を近づけて詰め寄る。しかし私は毅然として態度は変えない。

「ほんとに何も無いのかしら?」

変えない。

「あー。わかったわ。好きにしなさいね。シフトはしっかり守ってね、それとあんまり落ち

込まれていても困るのよ。」

オーナーはそう言い残しながら手刀で私の椅子の縄を切り、扉から出ていった。

「悪い。オーナー。それと手刀で斬るの怖かった。」

私はそう言い残すことしか出来なかった。

バリバリ働くは圧倒的イケメンオブプラチナで輝く星!

その名は白銀謙二!これが私の名前だ!美しいだろう!きわめて!神秘的だろ!

高身長(187 センチ)抜群の体格。纏うものは白の執事服!

さぁ!今日も!君たちをお出迎えにいこう!

ここはホストクラブ「エデンの園」飲み、食し、歌い、叫ぶ。欲のるつぼである。

「みーんなー待たせたわね。本日のメイーンホストをご紹介しますわよ!」

オーナーの声がマイクを通してフロアに響き渡る。フロアは大熱狂だ。

「プラチナのー!ケンジー!!!!!」

ケンジの声とともに私は現れる。スポットがすべて私に当たる。まさに神の様だな。

「キャー!!」

「ケンジー!」

「抱いてー!」

「俺も抱いてくれー!」

「ウホウホ!」

私の魅力は恐ろしく、異性はもちろん、同性。最近ではゴリラにまで魅了してる。

愛とか恋とか欲とか羨望とか崇拝とかそんな様々な視線を全身に受けてる私は口を開いた。

「私をおせ!」

瞬間。鳴り響く歓声!!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

お!!!おしてきますううううううううううううううう!!!」

「さあ!私をおすのだ!」

ホストクラブ「エデンの園」の宴はこの歓声を皮切りに始まるのだ。

「それでは、みなさんごゆるりと、くつろぎください。」

私は笑顔で会釈してお客様の心をつかむ。近くで私の笑顔が眩しすぎて倒れたものがいる

のが目に入る。いつものこと過ぎる。私はきっと恒星なのだろう。そこらにいる反射して互

いをを認識できるものとは一線を画する存在だ。

「おい、やっぱすげぇな。プラチナ様は。」

「すごいですよ。すごいんですよ。

二人の少年がどうやら私について話しているな。聞いてみるか。

「まずさ、身長高いじゃん。そんでさ、白の執事服!これさ普通の生命体なら似合わんだ

ろ!」

「わかるんですよ!あの白の執事服はプラチナ様のために存在するといっても過言ではな

いんですよ!」

「それとさ、あの立ち振る舞い!しびれる!俺もあんなポーズとか仕草をしたいぜ!」

「バカヤローですよ!あのポーズはプラチナ様にのみ為し得れる唯一無二のモーションだ

ぞですよ!お前程度できるわけないですよ!」

全く、騒がしい少年たちだ。

「私はそんなことないと思うけどね。美しさって変化だし。」

「プラチナ様!急に僕たちのところに!」

「美しさは変化とは何ですかですよ?」

私は食い入る少年に対して、コホンと咳ばらいをして二人に向き合う。

「美しさの定義は人それぞれという事だよ。君たち二人の価値観も違う。もちろん美しさの

価値観もね。私に対する美しさの見え方も二人の間では大きな違いがあるのかもしれない。

だから、簡単に友人に向かってお前程度なんて言っちゃいけないよ。彼も人によってはプラ

チナなのだから。」

「あ、ありがとうございます!」

「は、はい!ですよ。」

少年はシャンと飛び上がる。顔は真っ赤になっていて、白い煙が出ている。可愛い少年だ。

「それじゃ、ゆっくり楽しんでくれよな。」

私はゆるやかにほほ笑む。

「はい!」

「ありがとうございますですよ。プラチナ様!」

二人の少年はそう言って手を繋ぎ駆けていった。

パチパチ…パチパチパチパチパチパチ。パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

パチ!

と音がフロア全体を包み込んだ。

四方八方から私を囲んでお客様が拍手をしているのだ。その姿はどこか機械じみている気

もした。何かしら反応を示さないとマズそうなので動く。

「お客様、ありがとうございます。この度は私の粗相で皆様のお時間を頂戴したことを大変

申し訳なく感じております。さあ、気を取り戻し宴をはじめましょう!」

拍手は歓声へと音は変わり。圧倒的かつ抜群の盛り上がりと熱気がフロアが包み込む。

これが私白銀謙二の魅力なのかもしれない。無条件の賞賛・絶賛。とても嬉しくも思うが。

私は他のホストと同じことをしただけ、取り柄は見た目だけなのかもしれない。少し心がチ

クリと痛む。しかし私が美しいならそれに応えるのが美しいものの答えだ。今宵の宴もお客

様に夢を与えよう!

「プラチナ様!今日は最高でした。私の視覚に、嗅覚に、聴覚に、味覚に、触覚に、五感全

てでプラチナ様を堪能できました!」

「あんた、抜け駆けするんじゃないわよ!プラチナ様!私はこの女よりも五万年も前から

あなたを愛しているんです!歴史が。重さが。違うのです!」

宴も終わり。二人の女性をお見送りして今日の仕事は終了ですね。

笑顔で甘く話す脊椎に向けて。

「お客様、ホストクラブ「エデンの園」はすでに閉店時間を回っております。私のために、

また来てくださりますよね。」、

「はい!もちろ~ん!で~す!」

私はさらに笑みを増して、女性二人の頭を撫でる。私の背丈が高く覆いかぶさってるように

見えるかもしれないがしっかり頭を撫でさせていただいている。二人の髪の一本一本を優

しく触っていく、女性の髪は細くて好きだ。手で触るとよくわかる。女性はすでにメスの顔

になってしまうが関係ない。発情するものが悪いのだ。気にせず掘り進めようとした。

刹那。

「プラチナちゃん。」

オーナー―が背後にいる。私はさっと手を引き上げる。オーナーは私の後ろから溢れ出ない

ばかりの肉体ではち切れそうな執事服を纏い現れる。オーナーオペ。筋骨隆々で私とほぼ変

わらない背丈を持ち、執事の長をする者。何故オーナーの服だけピンク系統でパンツがスカ

ートに変更されていて、トップスは体に対してピチピチなのか。それはこいつが執事なんか

じゃなくてゴリラオカマだよ!あ、ほらお客様怖くなって帰っちゃったじゃないですか。至

近距離でこの未確認生命体を見たら何かしら覚悟をしますよ。

「オーナー。お客様が帰られたのですが。」

「そうね、それはアータのせいよ!!!」

バキャ!

「何故暴力!?痛いのですが!」

「また、お客様にちょっかい出したでしょ!あほ!ばか!ゴリラ!」

ゴリラはお前な。

「仕方ないでしょ、あんなに近くに髪あったら嗅ぎません普通。」

「嗅がないわよ!仕事場で合法セックスしてるんじゃないわよ!不純なのはダメでーす!

いやらしいでーす!エッチでーす!」

「わかりました。わかりました。気を付けますから。明日もまたよろしくお願いしますね。

それではお疲れ様です。」

私は早々に逃避する。

「ああ、もう!送っていくわよ!」

「いいですって、昔じゃないんだから。」

手を軽く振って意思を示す!

「かわいくなーいの!」

瞬間、私の頭の横を酒瓶が通り抜ける。10 メートル先の壁にぶつかり酒瓶は粉々に割れた。

お前がかわいくねーよ。なに投げてんだ。

ピンク色の裏口を開けて灰色の路地を出て黄金色の雑多な繁華街をに着く。

ここが私の庭だ。私はこの町で 21 年過ごしていた。

オーナーに雇われてからいつの間にかホストクラブではプラチナと呼ばれている。白銀だ

からプラチナ。食べることには困ってないし私はきっとこのままだらだらとこの繁華街を

さ迷って生きていくのだろう。

にしても、疲れた。ラーメンでも食うか。脂っぽいラーメンがいいな豚肩ロースをゆっくり

コトコト煮込んで、厚く切ってもらって。頂きたい。麺いらないな、求めている部分は肉だ。

肉食いたいなー。だったら、肉だけ食えばいいのか。ステーキ、から揚げ、トンカツ。違う

な、私はラーメンに入った肉を食らいたいのだ!

「食べるぞー!!!ラーメンの上のぶあついチャーシュー」

私は繁華街で唐突に食欲の吠えをした。

ドンッ

何かにぶつかった。目線を下すとそこには凄艶かつ蠱惑的な少女が存在していた。

少女の髪は深遠のような漆黒であり刈り上げショートカット。肌は空虚なほど白く。服は何

故か真っ黒のジャージを着ている。しかし黒さが彼女の白い肌を一層誇張させていた。

「ふぅ、私は君が好きだ。」

「…。」

あー!私はいきなり何を言っているんだー。なーにがふぅだ。死ね。死んでしまえ。痛い、

痛すぎる。少女の紅い目が私を更に狂わせる。

「好きだ、好きだー。スキンだ!そうスキン!スキンケア!!!申し訳ございません。お肌

大丈夫ですか?痛かったですよね。ほら、ハンカチこれ使ってください!あげますこ

れ!!!」

え?なんで私ハンカチを渡したの?別に血とか出てないしそんな少女は汚れてないよね。

これ失敗だよね、失敗だな。なんだか虚しさ、焦りが、こみ上げてくる。

「失敗だー!!!あああもう!やだよー嫌われたくないよー!うえーん!」

「…。」

チヤホヤされすぎた人間の弱さかもなこの状況は。今まで己の容姿に甘えてきたせいだ。

少女は依然として沈黙しているままである。変化と言えば私のハンカチを持ってるくらい

だ。

ハンカチ持ってる少女可愛いな。ハンカチの白さに負けない、圧勝だ。あー、いいわあ。美

しいわ。

カツカツカツカツ

少女が一人で動き出した。ってえええ!!!ジャージにハイヒール!?壮絶!圧倒的ダサ

さ。少女の綺麗さでお顔しか見ていなかったが、こいつダサい。極めてダサい。ジャージに

黒のハイヒール。どうなっているんだ?測れない、私の過去のお客様にもここまでのタイプ

はいない。

カツカツカツカツ

行ってしまう!そんな事実は許されない。私は彼女を知りたい欲求に包まれ彼女の手を掴

もうした。しかし私が掴んだものは空であった。逃げられてたまるかと声を上げる!

「少女!名前を教えてくれ!」

彼女は一瞬だけ振りむきまた背をむけた。

「大和。大和 祐だ。」

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