5.新しい先生に実力を見せる
フローランス家にお邪魔してから1ヶ月、私は6歳になりました。
そして、今日から新しい魔法の先生が来てくれます。
女性の聖属性魔法の使える騎士の方です。
聖属性の魔法が使えると、無条件に聖女になるわけではないのが、この世界。
全くいないわけではなくて全体として5%程度しかいないだけで、ゲームで私が聖女になるのは、魔王を消し飛ばしたからだったはず。
「あなたが、エリーカちゃん。私はヴィルヴェルベント伯爵家のセラーナよ。よろしくね」
結構気さくな伯爵令嬢様が来たようだ。
16歳ぐらいだろうか?たしか、貴族学校が12歳で入学して15歳で卒業なので、卒業して騎士になったんだろう。
女王陛下の護衛とかで、女性騎士も一定数必要なのと、聖属性魔法は防御に特化しているところがあるので、護衛任務には向いているのかも。
お忙しい部署だろうに、わざわざ来ていただいてありがたい。
「せっかく騎士団に入ったのに、女王陛下結構引きこもりなせいで、仕事がなかったから助かったわ」
とんでもないぶっちゃけを聞いた。
これ不敬じゃないんだろうかコレ?大丈夫かなこの人。
「よ、よろしくお願いいたします」
若干引きつりながらもカーテシーをキメる。
「私のことはセラーナ先生でいいわ。では早速、使える聖属性魔法を全部試してみて!」
「えっと、セラーナ先生、前の家庭教師の先生は火属性でしたので、使い方は習っていませんよ?」
「嘘はだめ、あなた相当聖属性魔法使えるでしょ」
え、見抜かれてるの?
聖属性魔法にそんな魔法あったっけ?
「セラーナ先生、なぜ私が聖属性魔法を使えると思ったのですか?」
言質を取られるとまずいので、まだ使えるとは明言しない。
どうやって見抜かれたのか気になる。
「エリーカちゃん、自分から魔力駄々漏れなの、気が付いてないの?」
「え!?」
「え」
そんなはずがない、今は魔法を使っていないし、魔力って漏れるの???
「先生、魔力って漏れるんですか…」
「現に、エリーカちゃんは漏れてるわね。普段からものすごい魔力量を消費する魔法を使っていないかしら?」
「…先生から魔力を上げるためには、魔法を使って経験を積む必要があると教わったので、光魔法で一番簡単なライトの魔法は使っていますけど」
「ライトでそんな事には成らないわね。それだけ魔力が漏れるような出力でライトを使ったら、エリーカちゃんのお家は、消し飛んでるわね」
「ライトの魔法に攻撃力なんてあったんですか?!」
「もしもの話よ、普段から大量の魔力を消費でもしない限り、そんな症状は起こらないのよ。私も初めて見たわ」
「えぇ…お医者様にかかったほうがいい奴ですか?」
「いや、戦争でもないのに、日常的に最大限まで魔力を使うのをやめれば大丈夫よ。それ戦争病の一種だから」
まじか、確かに毎晩こっそり抜け出して、魔物を倒しまわっていたけれど、そんな弊害があるとは思わなかった。
「というか、漏れ出ても何ともないほどの魔力量があるのね、エリーカちゃん」
「そういうことなんでしょうか?」
「そういうことよ、じゃあ魔法を見せて」
私は少し考えてから提案する。
「では、森へ行きましょう!」
「何故!?」
「お屋敷周辺で使うと、問題があるからです」
というわけで、王都外れの森に来ました。
男爵家の裏口から出て30分ぐらい歩いたところです。
普段は身体強化して突っ走るので1分ぐらいでつきます。
「セラーナ先生、全力出していいですか?」
「まぁ実力把握のためだから、構わないけれど何するの?」
「魔物しばきます!」
「穏やかじゃない!!」
騎士服のセラーナ先生と違い、私はドレスのままだ。
まぁ何とかなるだろう
「アトラクト(誘引)!スプレメント!(身体強化)!デフェンジョン(物理防御強化)!メディダティオ(魔法反射)!アクセラレート(増速)!」
私は、魔物をおびき寄せる魔法を使い、自分にバフをかけまくる。
「ちょ!エリーカまって!!」
流石にセラーナ先生も慌てているが、こんなの序の口だ。
まだ、聖属性魔法唯一の攻撃魔法も使っていないし、物理攻撃完全無効や魔法全反射なんて付与してない。
「先生!来たみたいなので、離れててくださいね」
「まって、来るって魔物よね!しかも、あなた今どえらい魔力量で誘引魔法使わなかった!?」
ちょっとすると、ドドドと地響きがし始める。
この感じだと、オークの群れだ。
最近は狩りつくしていたので、珍しい集団が釣れた。
「よっしゃ!行ってきます!!」
「6歳の女児がオークの群れにぃぃいぃ!!!」
セラーナ先生の絶叫がこだまする中、私は向かってくるオークの群れを素手で殴りつける。
身体強化しつつ、こぶしの前に物理障壁を作り出し、全力で殴る。
つぎつぎとオークが吹き飛び、森の木々に激突して気絶する。
もしかしたら、私の拳で脳震盪を起こしているのかもしれないが…
「ひぃぃぃ!!うそ!うそぉぉぉぉ!!!」
ちらりと見たがセラーナ先生はしゃがみ込んで震えている。
騎士だそうだけど、こんな状態で丈夫だろうか?
あ、実戦経験がないのか。
「チェストー!!!!」
最後の一体に向けて、障壁を円錐形に展開して殴りつける。
オークのどてっぱらに大穴が空き、血が噴き出すが、障壁を展開してやり過ごす。
「さてと」
その場に崩れ落ちてピクピクしているオークの前に立つ。
地面は血の池になっているが気にしない。
「リペラーレ!リキュペラー!」
光の粒子がオークを包むと、傷がふさがり、意識を取り戻した。
オークは、慌てて起き上がり、後退さる。
にっこりとほほ笑みかけると、慌てて逃げだした。
「エクスキューショナー!!」
逃げるオークに向かって、聖属性魔法唯一の攻撃魔法をぶちかます。
光の杭が直接飛んでいき、オークに激突すると光になって消える。
「ふぅ、こんな感じです」
振り返ると、セラーナ先生は頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
「見てました?」
「エリーカちゃん、あなたどうなってるの…」
「どうなってるといわれましても、聖属性魔法を使っているだけなのですが」
「いやいやいや、エクスキューショナーが使える聖属性魔法使いなんて、初代聖女と呼ばれるキューア様が使っていたという記録しか…」
「え、そうなんですか?こんな便利なのに」
そういえば歴史の勉強中、王国創設期に居た聖女が変身ヒロインっぽい名前だった気がする。
「エリーカちゃん、あなたがこれらの魔法を使えることは秘密にしておきましょう…いろいろまずい気がする」
「ですよね?だから使えないって言ったのに」
「完全に使いこなせてるよね!?なんなのこの子!!」
とにかく、そんな全力で魔力を毎日開放していると、使ってもいないのに魔力が消費されるような状態になるので、しばらく魔法禁止と言い渡されてしまった。
しかし、その程度のことでへこたれる私じゃない。
強くはなっているが、唯一まだ達成できていない目標があるのである。
そう、変身できていないのだ。