3.思ったより快適な生活
男爵家での生活は、思った以上に快適だった。
5歳の私にまで個室がある。
屋敷自体はそれほど大きいわけではない8LDKって感じ。
メイドさんは5人ぐらい居て、3食白いパンが食べられるし、お風呂もトイレもある。
なんでもお父様は、王国ができてから、ずっと騎士として使えている家系の次男だったんだそうで、御爺様が伯爵家なんだとか。
お父様は、功績をあげて、爵位を獲得したらしい。
今は中隊長で大尉だそう。
で、心配していた正妻さんの事だけど、すでにお亡くなりになっていた。
元妻は、学生時代からお父様の追っかけをしていた、子爵家のお嬢様だったそう。
ただ、結婚して少ししてから流行病を患って以来、精神を病んでしまったのかみるみる衰弱して、昨年亡くなったとか。
しかし、お父様との仲が悪かったようで、元妻との間に子供はおらず、お母様がお手つきにあったということらしい。
側室として迎えてもよかったけど、元妻が嫉妬深く、お母さんが虐められそうなのと、私の身の危険も考えて、生活費を渡されて今まで生活してきたということだった。
お母さんは内職をしていたけれど、その割には普通にお父さんがいる家庭のような生活ができていた理由が分かった。
どうも、いまだにお父様とお母様の仲は良好っぽい。
近いうちに弟か妹が生まれそうな気がする。
残念ながら、ヒロインに弟妹がいたかは覚えてない。
さて、突如として男爵令嬢になった私は、急に貴族教育を受けたり、お勉強したりということになった。
が、文字を覚えてしまえば勉強は簡単だった。
算数は高等教育まで受けた私の敵ではなかったし、文法も日本語っぽくて問題無し。
そのため、歴史と魔法を重点的に習うことになった。
前世の記憶万歳。
私は、年号の語呂合わせは苦手なんだけど、大まかな流れを理解するのが好きなので、それなりに覚えられた。
聖属性魔法そのものを教えられる先生は偉い人しかいないので、魔力量の増やし方や、魔力そのものの制御を習った。
おかげでかなり魔力量は増えたと思う。
魔法は呪文よりもイメージが大切と習ったので、今は前世の知識を生かして、聖属性魔法をアンロックしている。
厳密には使えるか試しているのだけど、人間を使って試せない内容が含まれてしまうため、いざというときに本当に使えるかは分からない。
あと、あんまり幼い時からいろいろな聖属性魔法を使えることが、公になるのもよろしくないとおもい、先生には見せていない。
夜中に屋敷をこっそり抜け出して、身体強化をかけて物理魔法防御を上げて、魔物をボコボコにした後、回復させたり、欠損部位を直したりと、能力を確認してみたりしながら、ゲームで出来ていたことを一つずつ確認している。
あとは、男爵令嬢としてのマナー教育を受けたりしたが、意外と私のオタク知識は役に立ち、少し姿勢を矯正されたぐらいで、合格点をもらえた。
「エリーゼお嬢様は呑み込みが早く、とても優秀です。可能であれば、すぐにでも上級教育を受けさせるべきでしょう」
家庭教師の先生が、私の状況を報告してくれた。
ちょっとした家族会議状態なので、お父様とお母様の向かいに、私と家庭教師の先生が座っての打合せ。
「魔法学校1年生の授業なら、もはや教わる必要は無いかと」
「それは本当か?」
「エリーカ、あなたそんなに頭がよかったの?」
両親に驚かれてしまったが、事実なのであまり謙遜もできない。
素直に頷く。
「うーん、父上に相談してみよう。私の伝ではこれ以上の家庭教師は探せない」
「フローランス伯爵に、ですか?」
「エリーカ、私の父だから御爺様と呼んでよいのだよ?」
「いいえ、まだお会いしたこともない爵位が上の方を勝手に御爺様呼ばわりはできません。そう習いました」
お父様が目を丸くしている。
だって、貴族では爵位が上の人に勝手に話しかけてはいけないって、いろんな作品で言われているし、そういう風に家庭教師の先生からも習った。
幾ら伯爵家の令息とはいえ、爵位が男爵の娘でしかない男爵令嬢が、顔合わせもしていない状態で、勝手に御爺様呼びしては失礼なはず。
「しっかりしすぎていて、怖い」
「はい、とても5歳児とは思えません」
「私もエリーカに負けないように男爵夫人として頑張らないと」
なんだか、お母様に火が付いたようだ。
私と同じように男爵夫人として、貴族社会で恥をかかない様に、勉強しているらしい。
「エルザ、エリーカ、今度父上に現状を報告に行くので、一緒についてきてくれ」
「わかりました、お父様」
私は立ち上がってカーテシーをする。
「ね、エリーカお嬢様完璧でしょう?」
とても誇らしげに言う家庭教師の言葉が、なんだか可笑しかった。