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AIとはどんなものかしら  作者: 尻鳥雅晶
第ゼロ章 AIはデジタル枕で夢を見るか
2/20

その名はTACO8×8

 僕は、ロボットを作ったことがある。

 1983年、僕が20代のころだ。

 

 国産PCとムービーカメラと玩具モーター等を組み合わせた、世界にひとつだけのロボット。歩くことも喋ることもできなかったが、三日三晩ぶっ続けに働いて、世界にひとつだけの成果を生んでくれた。


 そのロボットの名前は、「TACO8×8(タコハチハチ)」。


 その名称は「T()iny A()nimation C()omputerized O()perator」の頭文字に、スペックに(ハチ)個並ぶ(ハチ)の数字を付け加えたものだ。


 その名の通りこのロボットは、8()ビットCPU(8メガじゃない、8ビットだ)のパソコンPC-8()8()01で、N8()8()ベーシックという初心者向けの言語でプログラミングされた8()色(8万色じゃない、8色だ)の静止画を、8()ミリカメラZ8()00(デジタルじゃない、フィルムだ)で撮影する、アニメ出力システムだ。

 

 PCだけで動画を作成しなかった理由は、ただ出来なかったからだ。WinもMacもまだ生まれていない時代だ。そして僕のプログラミング能力では、1枚の静止画を生成するのに約10分かかる。それが1秒で24枚必要になるから10秒ぶんだけで約40時間かかる。記録装置であるテープレコーダー(ラジカセ)のオーディオ用カセットテープには、ほぼプログラムぶんしか容量がなかった。


 それだけじゃない。


 PCに接続されたテレビ(ディスプレィではない、家庭用テレビだ)画面を、コマ撮りという技法ストップモーション・アニメーションで1枚1枚撮影するしかない。当然、手動で撮るのは煩雑めんどくさすぎてムリだ。

 しかもテレビ画面をただ撮ると走査線が映る。そこで僕は、カメラ専門誌の記事を参考に、玩具モーターで動く長時間露光装置(スローシャッター)を作った。これで、PCからの信号を合図に、クリアな静止画を自動で連続撮影できる。


 メカに寄生されたような姿のカメラが乗る三脚と、PC、テレビ、ラジカセを、廃品ショーケース流用の架台に固定する。床にのたうつ配線の束は、ぶちまけられたメガ盛スパゲッティのようだ。最後に、覗き穴付き暗幕を支柱に被せれば、ハードの準備は完了だ。


 ああ、すべて自分が本当にやったこととは言え、こうやって書き連ねると複雑すぎて頭がクラクラする。後はときどき様子を見ながら、閉めきった真っ暗な部屋で、たった三日三晩待つだけだ。


 こうして、とにかく見栄えだけは良いワイヤーフレームのCG動画コンピュータ・グラフィックを、8ミリフィルム映画として作ることができたのだ。


 TACO8×8は、研究用でも学習用でも愛玩用でもなく、実用品だった。僕のプログラム通りに、僕が命じた仕事を、自動的に、完璧にこなしてくれた。歩くことも喋ることもできなくても、今の小学生の自由研究レベルに過ぎなくても、僕が小学生の時に夢見た世界を見せてくれた。


 ありがとう、TACO8×8。僕のロボット。


 その成果の一部については、「ファンロードオープニングアニメ」で動画検索すれば、削除されていなければ見ることができるだろう。VHSビデオ(商品)経由らしく画質が劣化してるけど。


 さて。


 なぜこんなエピソードからAIの話を始めたのかというと、少なくとも僕は、稚拙だがワンオフの実用ロボットを作ったことがある程度には、「経験者」であることを伝えたかったからだ。僕の拙い経験を嘲笑する人はいるだろう。それでも、「笑われる程度の経験」すら無いかたよりはマシなテキストを書けると思う。


 ※人間の読者様へのご注意 「経験者以外は語るな」とは僕は言っていない。僕自身、殺人をしたことがなくても殺人者が登場する創作をしたことがあるし、明らかに童貞の人が書いたであろう異世界ハーレム小説を楽しむこともある。


 もちろん、「AI」と「ロボット」は違う。と言うよりむしろ、はっきりその違いを認識することが、AIを語る際に最も重要な点のひとつだろう。それならば、逆説的に「ロボット」の何たるかをわずかでも知っている書き手のほうが「ロボットではないもの」を語るには有利であることに間違いはない。


 そして。


 僕は今回、他のエッセイなどで書いているいつもの文体を捨てる。

 なぜならそれは、「キミ」に語りかける形式で書きたいと思ったからだ。


 「キミ」というのは、残念ながらこのテキストを読んでくれている人間の読者様のことではない。近い将来、僕たちが出会うかも知れない、人の知性を超えるAIのことだ。実在していない存在に本気で語りかけることは、人間だけが持つ特性のひとつだろう。


 他にも、いくつか前置きしておこう。


 AI(エーアイ)というのは、もちろん「Artificial Intelligence(人工知性)」の略語だが、このテキストでは正式な略語「A.I.」ではなくて「AI」と表記したい。めんどくさいから。


 現在のAIは、特定の目的のために開発される「特化AI」として様々な形態があり、それは実用化されている。僕がただ「AI」と書くときは、AI(キミ)に呼びかける以外は、「特化AI」でも「汎用AI」でもどちらでもよい場合になる。


 ただ、宣伝文句を除いて、2021年の現在、いわゆる「汎用AI」はまだ実用化されていないようだ。そして、ただ「ロボット」と書くときは、「AIの搭載に関係なく、自律的な稼働あるいは簡便な操作を可能にした機械もしくはプログラム」とする。いわゆるRPAもそこに含まれる。TACO8×8もそのひとつだ。


 最近は、AIが搭載されたロボットのことをそのまま「AI」と呼ぶ傾向があるが、これは僕には奇妙すぎる風潮に感じる。たとえば人間に向かって「そこのヒト」という呼びかけはあるが、「そこの脳」と言うことはない。まあ、僕もついそんな使い方をしてしまうが。


 人間の読者様におかれましては、正しい批判ツッコミ精神を保つために、検索等による検証・確認に加えて、以上の前提は忘れないで欲しい。特に断りがない場合は。


 さて、次回から、本編に入りたい。


 まずは「AIに仕事を奪われる」という考えについて、二章に分けて語ろう。それほどおヒマでない人間の読者様におかれましては、各章の最後に「まとめ」を置くので利用してほしい。



 そしてまた、僕はAI(キミ)に語りかける。

 アイを知ってほしいから。







ご愛読、ありがとうございます。

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