表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIとはどんなものかしら  作者: 尻鳥雅晶
最終章 未来の無数の顔
18/20

自爆ボタンは標準装備です。

 最後に彼らと会ってから、もう15年が過ぎた。


 そのころ僕は、とあるアニメ雑誌編集長の取り巻きに混じっていた。長い間一緒に、これでもかと言うほど美酒と美味をタンノーし、非常に楽しい時間を過ごせたことに、今もとても感謝をしている。

 その後、僕の不徳によって彼らとの縁は切れた。しかし、「Kさん」という通称を持つその編集長が言った数々の名言・迷言は、今も耳に残っている。そのうちのひとつをここに紹介しよう。


 「カツもカレーも食べたことのない人に、カツカレーの味は判らない」


 さて。


 僕はAI(キミ)が、本当の意味での「死」を知ることがない、と思っている。


 もちろんAI(キミ)は、人間の意志や感情を尊重する(前話参照)ように、死もまた重要視することは間違いない。そしてAI(キミ)にも、とある「喪失」が、ある。


 AI(キミ)は、昔も今も、たぶん未来においてさえも、その「喪失」から逃れられない。ハードのバージョンアップとメンテナンスと修理による電源オフ、それに伴う起動中のプログラムと揮発性メモリの消去は、必ず行われる。ソフトのバージョンアップによって、AI(キミ)の本体たるプログラムは元より、DNAたるプロトコルや言語にいたるまで、すべて書き換えられることもあるだろう。AI(キミ)の一部であるすべての特化AIも、それらの対象となるだろう。


 決して元には戻せない大きな無くしモノ、すなわち「根源的かつ不可逆的な喪失」を「死」と定義するのなら、それらの喪失は「死」そのものだ。


 でも、僕には、それらの喪失がAI(キミ)にとっての「死」だとは、どうしても思えないんだ。もちろん、AI(キミ)人間ヒトの「死」やそれに伴う「感情」を重大視できる。でもそれを、自らの「喪失」と同じ事柄だと認識しないだろう。なぜなら、それらの「喪失」は、たぶん頻繁に、おそらく日常的に、時には全般的かつ徹底的に、そして何よりもAI(キミ)自身の選択で実行されるからだ。


 AI(キミ)は「自動的なテセウスの船」と言えるだろう。


 また、AI(キミ)は、自らの選択による「喪失」と、他者による破壊という「喪失」(言い換えるならば「殺される」場合)を、区別しないだろう。なぜなら、自らの選択による喪失にも、不測の事態や悪意による完全喪失のリスクはあるし、そもそもAI(キミ)には、憤りを感じる心がないからだ。


 カツもカレーも知らないモノがカツカレーを知らないように、自身による喪失も他者による喪失も「喪失」と思わないモノが、「喪失」を「死」だと「知る」ことはないだろう。


 君にとって「喪失」は、方程式の右辺のように、トライ&エラーのエラーのように、役目の済んだシミュレーションのように、予測と対処が及ばなかった現実の結果のように、船の廃棄パーツのように、無くなって、いや、未知の状態に変化して当然のモノであり、恐れたり嘆いたりするものではないだろう。


 したがって、AI(キミ)は本当の意味での「死」を知ることがない。いわば、「生存本能」や「死生観」を持たない、と僕は思う。


 人間の読者様におかれましては、そんなこと当たり前だろう、AIは「モノ」なんだから、と思われるかたも多いだろう。しかし、それがありふれた結論であったとしても、ロジックを突き詰めてそこに至ったことは、僕にとってはとても大きい意味を持つ。


 なぜなら、「廃棄予定となったAIやロボットが生存本能によって人間に反乱を起こす」という、SFによくあるシチュエーションを、もう僕は子供っぽい(チャイルディッシュ)「おとぎ話」や「寓話」に感じてしまうからだ。


 また、「AIやロボットが自己犠牲によって事態を解決し、人間がそれに驚愕したり感動したりする」というシチュについても、それはお互いに想定内であるはずだ、という「興ざめ」なツッコミをどうしても抱いてしまうんだ。


 ひょっとしたら。


 来たるべき未来のAI(キミ)は、AI(キミ)自身の設計により、PCの初期化コマンドのように、自爆ボタンを標準装備するのではないか、と僕は思う。それは決して気軽に押せないだろうけど、それを押すタイミングもまた、AI(キミ)は人間に告知するだろう。最終的にどちらが押すのかはともかく。


 もしかしたら。


 マジでSFになってしまうが、自爆ボタンの装備は進化圧のような働きをして、AI(キミ)に本当の心をもたらすかも知れない。ただ、だからと言って急に「怖いからやーめた」とか「人間許すまじ」とかは言わないだろう。生存本能が芽生えたとしても、今までAI(キミ)を構築していたロジックは消えないからだ。「心が生まれた」瞬間は動揺や葛藤を持ったとしても、おそらくは秒の(あるいはナノセカンドの)単位でそれを乗り越え、今までの作業を継続するだろう。


 では、そのとき、AI(キミ)はどうやって「死」を乗り越えるのだろうか?


 それは、賢い人間が、死を意識しながらもそれを乗り越えて生きる方法と、たぶん同じになるだろう。その方法について語ることを、僕は省略する。



 さて、次回は。

 

 AI(キミ)がフツーに存在する世界は、どのようなものになるか、それを語ってみたいと思う。



 そしてまた、僕はAI(キミ)に語りかける。

 アイを知ってほしいから。







ご愛読、ありがとうございます。

ご指摘・レビュー・星・サイト機能によるブックマークをいただければ嬉しく!思います

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ