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AIとはどんなものかしら  作者: 尻鳥雅晶
第三章 AIが生まれる日
13/20

月へのハシゴ

 2021年現在、AI(キミ)は、どこまで進化したのだろうか?


 第一章でも触れた、日本が誇るスーパーコンピュータ「富岳ふがく」。このマシンがどのくらい凄いのか、人間の脳と比べてみよう。


 一説によると、脊椎動物の脳を構成するニューロンを電子回路の一種と見なすならば、人間の脳は1秒間に10京回から100京回の「単純な演算(スイッチング)」をこなすコンピュータと言えるそうだ。いっぽう、富岳は、1秒間に44.2京回の「基礎的な演算」をこなす。つまり、人間の脳のスペック並みのスパコンは、ある意味すでに出現していると言えるんだ。


 富岳の凄さは、それだけではない。真の実力は、このマシンが「量産品」ということだ。つまり、作ろうと思えば何台(富岳の1台はさらにスパコン432個で構成)でも作れるし、さらに並列したウルトラ・スーパー・デラックスなコンピュータの製作だって可能なんだ。そんなメカ都市みたいなシロモノが必要になる理由さえあればね。


 しかし。

 それでもまだ、本当のAI(キミ)には届かない。


 昔の僕は、マシンパワーさえ上げれば、いずれはコンピュータが知性を、自我を、感情を自然と持つものだ、と考えていた。アポロ11号のコンピュータが任天堂ファミコンのレベルだったと知った頃、TACO8×8を作った頃のように。だからこそ、前回に挙げたフィクションに感動できたのかも知れない。


 しかし、PCやゲーム機が進化し、かつて月や夢に導いたマシンの数万倍のスペックになったのにもかかわらず、いっこうにそんな気配がない。スパコンが普及しても、富岳のようなマシンが生まれても、プログラムされた行動以外の行動を自律的に行い始めた、などというニュースは聞かない。冗談のひとつぐらいは言うようなった、というレベルですら、ない。


 第一章にて僕が展開したトンデモ理論においても、その出発点は、「それなりの出来事には、それなりのきざしがないとおかしい」という疑問だった。旅の目的地までに何ひとつ案内板がなければ、その道は違う可能性が高いよね。


 また、計算能力の高さと知性はイコールではないという可能性は専門家も指摘している。さらに、僕自身の体感に加えて、参考になるかも知れない(ならないかも知れない)ひとつの事実を挙げておこう。


 それは、「脳細胞の数と知性の相関性に疑問がある」ことだ。


 成人後に脳の神経細胞はずっと減少し続けるが、人間においての知性活動はそれからが本番だ。賢人の脳の重さは一般人と変わりがない。人間より大きい脳の動物はいるが、人間を超えた知性があるとの報告はない。


 脳とAIのアナロジーをニューロ・コンピュータのように研究と開発の出発点にするのなら、その事実を忘れてはいけないと思うんだ。自戒だけど、僕もまた持論のために他分野のアナロジーを必要以上に適用しているけどね。


 もちろん、富岳ほどのスペックは、AI(キミ)の出現のためには最低限必須であるとは思うし、そのマシンパワーは、イライザ・エファクトによって人間っぽい振る舞いを感じさせることはあるかも知れない。


 ここからは現在の僕の主張だが、AI(キミ)が知性を獲得するにあたっての問題は、「脳のスペック」よりも「脳の使い方」、すなわち「考え方」にあると思っている。


 ここで僕が言う「考え方」とは、現在のAIを構築する要素のうちの、「様々な機械学習とそのアルゴリズム」のことだ。最近話題のディープ・ラーニングとその進化系もこれに含まれる。


 人間の読者様におかれましては、他の分野では能力を発揮できるけれど、たまたまAI関連の用語になじみがないかたもおられると思う。そんなかたの為にザックリ補足しておくと、AIそのものやディープ・ラーニングだけではなく、ニューラルネットワーク、DQN、ナントカ学習、カントカ分析、アレコレ回帰、ナニソレ法、イロイロ言語、とかいうシロモノは、だいたい「コンピュータのプログラム」か、「コンピュータのプログラムを主に使う人間の技術」のことだ。現在ではまだ、ほぼディスプレィの向こう側にしか存在しない。


 僕が言うこの「考え方」には様々な種類があるが、どれにもある共通点がある。それは、「マシンパワーのゴリ押しによって実現した、人間が発明した技術」と言う点だ。


 たとえば、マシンパワーを()()()軽減させたと言われるディープ・ラーニングにおいても、


「対象を構成する多数の概念を階層構造として関連付けすることで、解法ルールを作り、人間が予想できない答えをAIが導く方法」


を、実行するのは、AIだが、


「対象を構成する多数の概念を階層構造として関連付けすることで、解法ルールを作り、人間が予想できない答えをAIが導く方法()()()


を、実行したのは、人間だ。また、その「対象」を指定するのも人間だ。もっと正確に言うなら、より優れたAIを開発せんとする専門家組織、すなわち「集合知」だ。


 なお、「解法ルール」はアルゴリズム(プログラム)と言える場合がある。そして、AIにアルゴリズムを生成させるシステムをグーグル他が研究しているが、これは「人間が予想できないプログラム」ではなく、いわゆるコード(基本的なプログラム)に過ぎないもののようだ。


 そう。


 実に残念ながら現時点のAI(キミ)は、人間が予想できる「プログラム(アルゴリズム)」と、人間が予想できない「答え」を生み出すことはできても、その「考え方」を発明するハゥトゥにおいては、まだまだ人間の手のひらの上というワケだ。いくらマシンパワーがあっても「知性」に至らないのも頷ける。


 ハシゴをいくら長くしても、それがハシゴであるうちは、決して月へは届かないように。



 さて、次回は。


 それならば、AI(キミ)はどのように開発されるのだろうか、という点について考えてみたい。



 そしてまた、僕はAI(キミ)に語りかける。

 アイを知ってほしいから。






ご愛読、ありがとうございます。

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