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9.潜入下水道

 ゴロツキからルージュを助けた日の夜、ファイン王女救出作戦を開始する為貧民街に集まった。

 メンバーはタキオン、ナルサス、リリス、ルージュの四人である。


「しっかし酷い臭いね。ほんとにここに入るの?」


 場所は貧民街にある下水道の出口、汚水を排出する箇所だ。

 貧民街が酷い臭いを漂わせているのは、この汚水排出口があるせいであった。

 あまりの臭いにリリスは顔を顰めてしまう。


「姉さんは鼻が利くようだな。ここは町の汚水が集まってるから鼻が利く人には辛いぞ。だがな、町の汚水が集まるって事はどこにでもつながってるって事なんだぜ」


 ルージュが自慢げに語るとリリスはがっくりと肩を落とす。

 一方タキオンは感心したように気になる事を聞いてみた。


「なるほど、ここから侵入して盗みに入ってるのか?」


「大物を盗む時にしか使わないけどな。オレは見た事ないんだが化物が出るって噂があって危険な場所なんだ」


「それって有名な怪談話だろ? 確かハイドランジア王国三不思議の一つ、下水道の魔獣、または下水道の白い悪魔とも言われるな」


「さあな、分からねえがここに入って戻ってこなかった奴がいるのは確かだ。オレの仲間にも何人かいる……」


 タキオンはよくある怪談の一つだと言うが、魔獣の話をするルージュの表情には暗い影が差していた。




 ハイドランジア王国三不思議の一つ、下水道の白い悪魔。

 それは今から二百年前、初代ハイドランジア王が魔獣の巣から持ち帰った卵を孵化させた事から始まる。

 孵化させた魔獣をペットとして飼っていたが逃げ出し、野生化してしまったと言うものだ。

 逃げたペットは住処を探して王国中を歩き回るが、捕獲に向かった兵士から逃げる為下水道に入り、そのまま住み着いたと伝えられる伝説の魔獣である。

 その魔獣は白く巨大な体躯に堅牢な鱗、大きな口には鋭い牙が生えていた為、白い悪魔と呼ばれ恐れられていた。

 実際逃げ出した当時は腹を空かせた魔獣が民を襲い数百人の命が奪われたと文献に残されているが、白い悪魔の被害は十年程するとピタリとなくなる。

 人々は白い悪魔は死んだと喜ぶが誰も死体を見た者がいない為、行方不明者が出る度に白い悪魔の仕業ではないかと今でも恐れられているのだ。




「そんな伝説を信じてるなんて以外と可愛いとこあるじゃねえか。もし魔獣が出やがったら焼肉にして逆に食ってやるよ!」


「もうお兄ちゃんたら、あたしは逃げるからね!」


 ナルサスは自信満々に勇ましく宣言するがルージュの表情は暗いままだ。

 ルージュを元気づけようとしたナルサスだが上手く行かなかった。

 四人は少しの不安を抱きながら下水道に入って行った。




「中はさらに酷い臭いだな」


「くさーい、鼻がひん曲がりそうだよ……」


 ナルサスとリリスが不満を漏らすのも無理はない。

 下水道内は中央に汚水が流れ端に足場が付いているのだが、水の流れが悪いのか汚物が流れずに残っていたりするので臭いのも頷ける状況である。

 定期的に掃除はしているのだが、白い悪魔の恐怖は王国の人々の間で根深く、ここ数年は人が集まらず行われていなかったのだ。


「いかにも何か出そうな雰囲気だな。本当にいるのかも知れないな白い悪魔……」


「止めてよタキオンさん、そういうのフラグって言うらしいよ」


 四人が不気味な雰囲気を感じながら網の目のように王国中に張り巡らされた下水道を進んで行くと、「グルルルルルルッ」と何かの唸り声が聞こえてきた。


「マジで出たのか! 白い悪魔!」


「いや、大ネズミだ! 気を付けろ毒を持ってるぞ!」


 タキオンがランプを翳すと複数の光る目がこちらを見ていた。

 現れたのは大ネズミ、下水道に生息する人間の赤子程の大きさの魔獣である。

 個々としては弱い魔獣だが、毒を持ち群れで行動する為油断ならない相手だ。


「俺達が戦うからルージュは後ろに下がるんだ」


「ああ、そうさせてもらう。頼むぜ」


 剣を抜き放ち戦闘態勢を取ると大ネズミが一斉に飛びかかってきた。

 ランプを持っている為戦いにくいが、大ネズミ程度に後れを取るタキオン達ではなく、特に苦戦することもなく撃退することができた。

 タキオンは後ろに下がらせたルージュが気になり姿を探す。


「ルージュどこだ! 戦闘は終わったぞ!」


「どうしたタキオン? あの男女(おとこおんな)がいないのか? 帰ったんじゃねえか?」


「バカ兄! そんな訳ないでしょ! ルージュちゃんどこ!」


 状況の深刻さを感じたリリスが焦り交じりの大声で呼びかけるが返事はなく、代わりにメキャ、ゴリ、ガリ、と何かを噛み砕くような音が聞こえてくる。

 嫌な予感を感じながらもタキオンがランプを翳すと、白い鱗に覆われた巨体の魔獣が()()()()()()()()()の体をガリゴリボリと齧っていた。

 それは大きな口に鋭い牙、腹が地面に付く程に短い手足の四足歩行の魔獣だった。

 美味しそうに食事を楽しむ姿は恍惚の表情に彩られていた。

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