7.少年窃盗団
タキオンの冒険者登録が終わり、呪いの件はギルドでも調べてくれるとギルドマスターのオレンジが約束してくれた。
呪いについてタキオンは自分でも調べるつもりだがギルドが協力してくれるのを心強く思い、依頼を受けて冒険者ギルドを後にする。
今回受けた依頼は近頃町を荒らしている少年窃盗団の捕獲依頼。
貧民街で暮らす身寄りのない子供達が徒党を組んで、食料や金品を盗む事件が多発しているのだ。
住民は衛兵に相談したが動いてくれず、冒険者ギルドに依頼することになった。
「今回の依頼はガキ共の捕獲か、あいつらも生きる為に盗みなんてやってるんだろうが、悪事は悪事だ。見過ごす事はできないよな」
「気の毒ではあるけど、それで困る人もいるから……ちょっと昔の私達を思い出しちゃうね」
「昔は2人とも尖がってたよな」
「ちょっと! 止めてよタキオンさん……昔の事だよ」
昔の事に触れられたくないのか、リリスは顔を赤くして恥ずかしがる。
ナルサスとリリスは小さな頃孤児だった。
荒れていた子供時代にタキオンと出会い、戦い、仲良くなったのだ。
昔を懐かしみつつ三人は貧民街へ向かった。
貧民街はハイドランジア王国の城門の外にあり、多くの浮浪者や悪人が根城にしている無法地帯である。
もちろん王国政府も貧民街を良くは思っていないが、そこに人員を避けるほど暇ではないし、貧富の差が出るのは仕方のない事だと判断して放置していた。
その為、貧民街は年々広がるばかりであった。
城門を抜けて外壁に沿って歩くと貧民街に入る。
簡易テントや木造のボロ屋が点々と立ち並ぶ、ツンと鼻を刺す異臭が漂う場所だった。
人の姿は見えないが気配はあるので閉じこもっているのだろう。
「久しぶりにきたが、相変わらず空気の悪い所だぜ」
「依頼だからしょうがないけど、できればきたくない場所よね。お腹を空かせてた頃を思い出すし」
貧民街出身の二人は故郷を懐かしく思うよりも嫌悪感を抱いたようだ。
過酷な環境で生きてきたのだろう、不快そうに顔をしかめている。
「俺はここで二人と出会えたから、悪い思い出ばかりじゃないな」
「へへ……こっぱずかしいこと真顔で言いやがって……だが、その通りだな」
「さすがタキオンさん! プラス思考!」
二人にとっては辛い過去を思い出させる場所だが、タキオンは2人と出会えた場所でもあるとプラスに捉えている。
タキオン自身子供の頃貧民街に置き去りにされた過去があるのだが、二人の友達に出会えた事で悪いイメージを持ってはいなかった。
三人が調査を開始してしばらくすると、後ろから走ってきた子供がタキオンにぶつかった。
「ぼさっと突っ立ってんじゃねえよ兄ちゃん! 気を付けな!」
ぶつかってきた十二歳くらいの少年は捨て台詞を吐くと足早に立ち去って行った。
「大丈夫かタキオン? 何か盗まれてないか?」
「ああ、腰に吊るした財布を盗まれた」
「ふふん! 罠にかかったようね。追うわよ!」
リリスは自分の発案した作戦が上手く行き、得意満面な笑みで二人を促した。
少年窃盗団を誘き出す為に腰の目立つ場所に財布を吊るして餌にし、後を追ってアジトを突き止める作戦だ。
少年の後を追って行くと、貧民街のはずれにある木造のボロ屋に入って行った。
「あそこがアジトか? しかし、こんなに上手く行くとはな」
「あたしの作戦を信じてなかったの? お兄ちゃんがモテないのはそういうとこだよ」
「ナルサスだって信じてたはずさ。で、突入するか?」
ナルサスの軽口から兄妹喧嘩が始まりそうになったのでタキオンがフォローに入る。
ナルサスは目線で(すまん)と謝り話し出す。
「そうだな、仲間がいるかもしれんし慎重に潜入するか」
三人が気付かれないように気配を殺して建物内を窺うと、ゴロツキ風の男が三人、子供が十人程いた。
ゴロツキ風の男はタキオンから財布を奪った少年を殴り飛ばす。
目立たないように顔は狙わずに首から下を殴りつけていた。
所謂焼き入れである。
「稼ぎが少ねえんだよクソガキども! 死ぬ気で盗ってこいや!」
「うぐぅぅ……」
「何とか言えよガキが! 孤児は言葉も分からんのか!」
殴られた子供は息が詰まり返事ができず、それが男をさらに苛立たせ余計に殴られる事になる。
凄惨な光景に我慢できず、タキオンの顔つきがみるみる変わり、限界に達すると飛び出して男を殴りつけ叫んだ。
「クズ共が! 楽に死ねると思うなよ!」
鬼の形相で怒るタキオンに気圧され男達が後ずさる。
「一人で先走るなよタキオン!」
「あたし達も戦うよ!」
「何なんだお前ら! 俺の金蔓を奪いにきたのか!」
ゴロツキ達が激昂して襲いかかってくるが、荒事を得意とする冒険者であるタキオン達はあっさりと制圧する。
ゴロツキを拘束し子供達の方を見ると、恐怖に怯え真っ青な顔をしていた。
ナルサスは自分たちの戦闘に怯えてしまったと思い声をかける。
「坊主、もう大丈夫だぞ。悪い奴はやっつけたからな」
財布を盗んだ少年の頭を撫でながら話しかけると頬に平手打ちが飛んできた。
バチンと乾いた良い音が鳴る。
「バカ野郎! オレは女だ! 坊主じゃねえ!」
男だと思っていた少年は少女だったのだ。