5.王女姉妹
ハイドランジア王国の二人の王女、ファイン・ハイドランジアとコロネ・ハイドランジア。
王の血を継ぐのはこの王女姉妹だけであり、王位継承権第一位と二位である。
姉のファインは艶のある薄紫の髪に白磁の肌、強い魔力を持つ者に現れる赤い瞳が宝石のように輝き、その優しさはハイドランジア王国一と謳われる心優しい美しい少女だ。
歳はタキオンとナルサスと同じ十七歳である。
妹のコロネは外見はファインによく似ているが、たれ目気味のファインに対して少し性格がきつそうなつり目は姉と同じに赤く、宝石のように輝いていた。
歳は姉の二つ下で十五歳である。
どういう訳かコロネは姉の持ち物に異様に執着する性質があり、ファインの持ち物を何でも欲しがった。
おもちゃも洋服も時計もぬいぐるみも侍女も友達も、ファインが大事にしている物も者も欲しがるのだ。
王女姉妹は決して仲が悪い訳ではなく、寧ろ良好と言える。
あるいはファインがコロネの欲する物を渡しているから成り立っている関係なのかもしれないが……。
これはまだタキオンが死に戻りする前の事。
ハイドランジア王国第一王女であるファインは、王宮の庭園にあるガゼボでお茶を楽しんでいた。
侍女の入れる国の名産であるハイドランジア茶は独特の渋みこそあるが、なれると癖になる魅力のあるお茶でファインのお気に入りであった。
「ごきげんようお姉様。ここにいらしたのね」
「ごきげんようコロネ。貴方も一緒にいかがかしら?」
「お誘いはとても嬉しいのですが、私にはハイドランジア茶は苦すぎますわ。甘いお茶が好みですので。それよりもお姉様にお願いがありますの」
ファインを探していたらしい妹のコロネが声をかけてきた。
コロネはミルクとハチミツを入れた甘いお茶が好みなのだが、用意がなかった為誘いは断られてしまう。
お願いがあると言うコロネに、またおねだりが始まるのかとファインは少しだけ身構えた。
「実は私欲しい物がありまして、お姉様の婚約者のタキオン様が欲しいわ。お願いお姉様、譲ってくださらないかしら?」
ついにファインの婚約者、タキオンまでもを欲しがってしまう。
コロネがお願いをすると、なぜか頭がぼんやりとして思考することができなくなるファインだが、タキオンだけは譲れないと強い意志で意識を覚醒させた。
「だめよコロネ! タキオンだけはだめ……貴方にも譲れないわ」
「そんなにタキオン様がお好きなのですか? ますます欲しくなりましたわ。お姉様がお断りになるのならお父様に相談してみます」
コロネの発言にファインの顔は青ざめる。
父である国王はとにかく妹に甘い、ファインを蔑ろにしている訳ではないのだがどういう訳かコロネのおねだりを何でも聞いてしまうのだ。
自分と同じく、強い魔力を宿す赤い瞳を持つコロネの能力がそうさせているのではないかと、ファインはコロネにお願いされた時の感覚を思い出し考えていた。
(コロネは話してくれないから分からないのだけれど、あの子は魅了や洗脳といった能力を持っているかもしれないのよね。その能力でお父様にお願いされたら私には止めることはできませんわ)
「お話は以上ですわ。それでは、ごきげんようお姉様。おーっほっほっほ」
「待ってコロネ! タキオンだけは……」
言いたいことだけ言うと、コロネは高笑いを上げて立ち去ってしまう。
放っておいたらコロネの思い通りになってしまうと思ったファインはすぐに行動を開始した。
「こうしてはいられませんわ。出かけます、マリナも付いてきてください」
「はい! お供いたします!」
手遅れになる前に動かなければと、ファインは侍女のマリナを連れてタキオンのいるピドナ公爵家へ急ぐのだった。