4.呪い
この世界には気力と魔力の二つの力がある。
気力は略して気とも言われ、生き物の生命力を源とする力であり、生命力が源なので誰でも持っている力だが普通は無意識に使っている為、気を自覚し制御することができない。
気のコントロールができれば身体能力を強化して強い力を出せたり、身体を頑丈にできたりする。
武器に気を流して強度や切れ味を上げることもできるので、近接戦闘職には必須と言えるだろう。
誰でも持っている力だが気を自覚することは難しく、自覚できたとしても制御するには修行と才能が必要になる。
次に魔力だが、魔法を使うための力である。
これは百人に一人くらいの確率で生まれながらに持っている力だ。
魔力には属性があり火、水、風、土を基本属性とし、雷、光、闇などのレア属性も存在する。
持って生まれた一属性しか扱うことはできず、気と同じく魔力も制御が難しいので使いこなすには修行と才能が必要である。
気と魔力の両方を扱える魔法剣士、魔法戦闘士も存在する。
気も魔力も自分の中にある力を消費して使うので使いすぎると気を失ってしまうが、どちらも強くなることで最大値を増やすことができる。
能力測定魔道具の詳細は下記の通り。
・気力の才がある場合ガタガタと振動する。揺れが大きいほど能力が高い。
・火属性の魔力があると赤く光る。
・水属性の魔力があると青く光る。
・風属性の魔力があると緑に光る。
・土属性の魔力があると茶色く光る。
・その他の色もある。
・光量が多いほど魔力が高い。
・揺れながら光れば気力と魔力どちらも才がある。
受付嬢カレンは初めて見る魔道具の反応に動揺していた。
「な……何ですかこれ! 初めて見ましたよ! 揺れてるのは気の才ですが、黒は闇属性ですか?」
初めて見る現象に動揺するカレンにギルドの奥にいた男が気付き近寄ってきた。
「すぐに魔道具から手を放すんだ!」
「くっ……離れない!」
近寄ってきた男はタキオンの腕を掴むと力を込めて魔道具から手を引き剝した。
男は嘆息するとタキオンに声をかける。
「これは一見すると闇属性にも見えるが……呪いの類だな。心当たりはあるか?」
「実は死に――」
死に戻りの件を話そうとしたタキオンは突然心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われ、息が詰まり地面に膝をついた。
(くそっ! 前回と同じか……油断していた)
「おいっ! 大丈夫か?」
「タキオンさん!」
地面に膝をつくタキオンを心配し、ナルサスとリリスが声をかける。
「その様子だとやはり呪いか……。恐らく特定の発言に制限がかかってるんだろう。彼はナルサスの知り合いか?」
「ああ、友人のタキオンだ」
「タキオン? もしやファイン殿下の婚約者にしてピドナ公爵家の?」
ナルサスの知り合いらしい男はタキオンがピドナ公爵家の人間だった事を知っているようだ。
しかし、タキオンはもうピドナ公爵家とは関係がない。
「先日ピドナ公爵家を追放されました。もう公爵家とは関係ありません。貴方は?」
「俺はハイドランジア支部のギルドマスター、オレンジだ。追放か……まあ、ピドナ公爵家は良い噂を聞かないから、逆に解放されて良かったんじゃないか?」
「俺もそう思います。ただ、ファイン殿下の事が気がかりですが……」
タキオンはピドナ公爵家を追放された事に後悔などないが、弟のオニオンがファイン殿下の婚約者になると言われた事を気にかけていた。
なぜならオレンジの言う通りピドナ公爵家は、利益になるなら公爵の権力を使って悪い事でもやるろくでもない貴族なのを知っているからだ。
ファイン殿下の名前を聞いたオレンジは苦虫を嚙み潰したような表情を見せる。
「追放されたって事は……やはり婚約破棄か」
「はい、弟のオニオンが新しい婚約者になるそうです」
「よりによってあのどら息子とはな……。なんとかならんのか?」
「もちろんオニオンなどに渡したくはありませんが、今の私はタキオン・ピドナではなく、ただのタキオンです。どうすることもできません。少なくとも今は」
ハイドランジア王国には姫が二人いて王子がいない。
その為、第一王女のファイン殿下と婚姻を結べばこの国の王になる可能性が出てくる。
オレンジはどら息子のオニオンが王になったらこの国は終わりだと思っているので、できればタキオンにファイン殿下と婚姻を結んで欲しかったのだ。
しかし、強い意志の宿るタキオンの表情を見て諦めていないと感じ――、
「その顔はまだ諦めてないって顔だな。ファイン殿下は良い女だ。どら息子なんかに絶対渡すんじゃねえぞ」
「言われるまでもない」
オレンジに言われるまでもなく、タキオンはファイン殿下を他の誰にも渡すつもりなどなかったのだ。
タキオンの返事に満足そうに頷いたオレンジは呪いの件に話を戻す。
「呪いについてはこちらでも調べて分かり次第報告しよう。ナルサスとリリスは手練れの冒険者だ。困ったことがあれば二人を頼るといい」
「タキオンは大事な友人だ。オレンジのおっさんに言われるまでもないぜ」
「そうだよ。あたし達に任せてよ」
公爵家で冷遇されていたタキオンは三人の気づかいに深く感謝する。
すると、タキオンの瞳から自然と涙が零れていた。
「――あれ、おかしいな……目から汗が出る」
「泣くなよタキオン。仲間を助けるなんて当たり前の事なんだからよ」
「そうだよ。今はあたし達が家族なんだから」
感謝の涙を流すタキオンをナルサスとリリスは温かく慰めるのだった。