3.冒険者
タキオン達三人は暗殺者をトラップに嵌めて倒す事に成功した。
剣の腹による打突で気を失った暗殺者をロープで拘束し、気付けに頬を何発か叩くと目を覚ました。
「起きたか? お前の雇い主は誰だ? なぜ俺達を狙う?」
「知ってても言うと思うか? バカにするなよ」
プロの暗殺者は簡単に依頼主の情報を吐いたりはしない。
「ぐ……うぼあぁ」
どうやって情報を吐かせるか考えていると、暗殺者は突然苦しみだして息絶えた。
「ちょっと暗殺者のお兄さん泡吹いて死んじゃったよ! 部屋汚さないでよもう!」
「こいつ……口の中に毒を仕込んでいたようだな」
口から泡を垂らす暗殺者に部屋を汚されたリリスは怒り、ナルサスは冷静に状況を分析していた。
スパイや暗殺者などは捕まった際に情報を漏らさない為、自決用の毒薬を携帯する者がいる。
タキオン達は自決させないために縛り上げたが、襲ってきた暗殺者は口の中に毒薬を仕込んでいたのだ。
伏兵の襲撃を警戒し、交代で見張りを立て一夜を明かした。
翌日タキオン達は自殺した暗殺者の遺体を処理する為に騎士団の詰め所を訪れた。
入口で仁王立ちしている騎士に、昨夜暗殺者に襲撃されて返り討ちにしたが自決してしまったと事情を説明し、遺体を引き取ってもらう。
「暗殺者に狙われるとは、冒険者も大変だな」
「恨みを買った覚えはないんだけどな。気を付けるよ」
騎士に簡単な取り調べを受けて詰め所を後にした。
暗殺者は懸賞金がかかっているような賞金首ではなかったので、特にお金がもらえるような事もない。
無料で遺体処理をしてくれるだけ良い方だろう。
次はタキオンの冒険者登録をする為、冒険者ギルドに向かった。
冒険者は所謂何でも屋であり、ギルドは冒険者と依頼人の仲介をする仲介業者なのだが、あらゆる国に支部がある巨大組織である。
冒険者ギルドハイドランジア支部が三階建ての立派な建物である事からも、ギルドの組織力の強さが分かる。
中に入ると冒険者達で賑わっていた。
タキオンの冒険者のイメージはむさくるしい荒くれ男が多いものだったが女性も四割ほどいる。
女性が多い理由は男性の方が腕力は強いが、女性の方が魔力の高い者が多く生まれる為、戦闘でも補助系統でも才能があれば活躍できるからだ。
タキオンの冒険者登録をする為受付に向かうと美人受付嬢、カレンが対応してくれた。
「ナルサスさん、リリスさんこんにちは。そちらの方は?」
「こんにちはカレンさん。こいつは友人のタキオンだ。今日はタキオンの冒険者登録をしたいんだが」
ナルサスの顔が少し赤くなっている事から、カレンに惚れているのだろうとタキオンは推察した。
「タキオンさん気付いた? お兄ちゃんカレンさんのこと好きなんだよ。でも、カレンさんめっちゃ美人さんだから競争率高いんだよねえ」
「ナルサスはいい男だ。俺は応援するよ」
リリスがナルサスの気持ちを小声で教えてくれた。
タキオンは友人であるナルサスを顔もいいし腕も立つ、とてもいい男だと思っているので素直に答える。
兄を褒められたリリスは満足そうに頷いていた。
タキオンはカレンに冒険者ギルドの説明を受けて登録用紙に記入する。
・冒険者ギルドは国に所属はせず独自に運営している組織である。(高額の税金を支払っているので国も強くは出れない)
・冒険者ランクはG~Sまであり、Gが一番低くSが一番高い。
・冒険者の受けられる依頼は自分のランクの上下一ランク以内である。
・魔物の解体は料金を支払えばギルドでもやってくれる。
・依頼失敗には違約金が発生する。(報酬額の二割)
・魔物の大量発生などで強制依頼が出ることがある。
・登録後の犯罪行為は除名処分。
・冒険者が行った行為、ケガ、死亡についてギルドは一切責任を負わない。
以上が大まかなルールだ。登録者の冒険者ランクはGからスタートする。
その後大事なことと前置きして冒険者精神を言い添える。
・冒険者は強くなれ。但し、正義なき力は暴力になる。自分の正義が相手にとっては悪かもしれないことを忘れるな。
ナルサスとリリスはBランクで、登録したばかりのタキオンはGランクだ。
二人とパーティーを組むのだからこれからランクを上げて行かなければならないだろう。
説明が終わるとカレンはギルドカードと水晶玉のような物を持ってきた。
ギルドカードはなくしてもは再発行できるが、手数料がかかるし信用をなくすので紛失には注意するよう言われる。
タキオンはギルドカードに自分の血を一滴垂らした。
そうすることで偽造することができなくなるそうだ。
「最後に能力適性を調べますので、この水晶玉に触れてください。能力適性を調べる魔道具です。適性を調べることは今後活動していく上での導になりますから役立ててください」
カレンの言葉に従い水晶玉に触れると、ガタガタと揺れながら黒く濁り始める。
それは夜の帳のような闇の色だった。