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2.死に戻り

「タキオン! お前を我がピドナ公爵家から追放する。今すぐ出て行け!」


「えっ! どうして……」


 ピドナ公爵の言葉にタキオンは戸惑っていた。

 今朝と全く同じ状況なのだから無理もないだろう。


「ふんっ! さすがに応えたようだな。追放されれば公爵家の権力も使えず悪さができなくなるぞ、公爵家の面汚しめ」


 狼狽えるタキオンを見て、ピドナ公爵とオニオンは追放を言い渡した事に狼狽えていると勘違いしてほくそ笑む。

 もちろんタキオンは追放されたことではなく、今朝と同じ状況を繰り返している事に狼狽えていたのだが……。


(腹を刺された痛みや死の恐怖は本物だったはずだが……。まさか、死に戻りしているのか? そんな現象や魔法があるなんて聞いたこともないが……)


 タキオンは状況を分析しようと頭を回転させるがピドナ公爵の怒声の方が早かった。


「お前とファイン殿下の婚約を破棄し、殿下はオニオンと婚約することになった。お前は用済みだ。警備兵! こいつを叩き出せ!」


 ファイン殿下との婚約破棄からの追放と、その後の流れも今朝と同じだった。


 後を追ってきたアイリスに剣と食料を受け取り、タキオンはこれからの事を考える。

 あの夜、自分達が殺されたのは三人の中誰かが狙われたのだろう。

 可能性が高いのは公爵家に嫌われている自分だが、冒険者稼業も恨みを買いやすい。

 売り出し中の冒険者であるクローバー兄妹は実力があるだけに嫉妬もされるし、実力があるからこそ他の冒険者の仕事を奪ってしまうこともあるからだ。

 冒険者は基本的に荒くれ者の集まりなので暗殺という手段を使ってもおかしくはない。


(俺が狙われていたのだとしたらナルサス達に迷惑がかかってしまうが、ナルサス達が狙われているなら力になれる。本当に死に戻りしているのか確認する為にも行くしかないか)


 タキオンは考えを纏めるとナルサスの家に向かって歩き始めた。




「ナルサスいるか! タキオンだ!」


 クローバー兄妹の住む長屋にやってきたタキオンはドアをノックして声を張る。


「よう、タキオン。どうした?」


「タキオン様、いらっしゃい」


(二人とも生きてる! ……良かった)


 クローバー兄妹の生存を確認し安堵するタキオンだが、その姿をナルサスは訝しむ。


「何かあったのか?」


「タキオン様面白い顔してどうしたの?」


「二人に聞いて欲しい話があるんだ。俺達はこの後死――」


 死ぬと言おうとしたタキオンは突然心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われ息が詰まり地面に膝をついた。


(――これは、だめだ……死に戻りの事を言おうとすると息ができなくなるし、心臓を握りしめられているようだ……。言ったら死ぬ、というか声が出ない)


 確かな死の予感を感じるタキオンは乱れた呼吸を整えようと何度も深呼吸する。

 死に戻りの件を話さないと決めた事で呼吸ができるようになったのだ。

 しかし、一度心臓と呼吸が止った為その息は荒い。


「どうしたタキオン! 大丈夫か?」


「タキオン様!」


 いきなり苦しそうに蹲ったタキオンを心配して二人駆け寄ってくる。


「取りあえず中で休んでくれ」


 ナルサスに支えてもらい中で休むと話ができるくらいには回復したので死に戻りの事は伏せて今までの事を話すと――、


「つまり俺達とパーティーを組んで冒険者になりたいってことか? もちろん良いぜ。大歓迎だ」


「うんうん、あたしも賛成! タキオンさんお兄ちゃんより強いしかっこいいもん」


 想像通り前回と同じ答えが返ってきた。

 タキオンは三人とも生き残る為、クローバー兄妹に助力を求める為に話し始める。


「二人とも聞いてくれ、犯人は分からないが俺は命を狙われている。今夜にでも暗殺者がくるかもしれない。二人には迷惑をかけるが助けてくれないか?」


「マジか! だが、俺達に相談したのは正解だぜ」


「そうだね。荒事なら任せてよ」


 クローバー兄妹は普段人に頼らないタキオンが頼ってくれた事に喜び快く引き受けてくれた。

 タキオンは二人に深く感謝し犯人を捕らえる作戦を話す。

 二人には自分が狙われていると話したが、今の時点では誰が狙われているか分からないので情報を引き出す為に犯人を捕らえる予定なのだ。

 前回は不意を突かれて不覚を取ったが、タキオンには襲ってくると分かっていれば対処できる自信があった。


「なるほど、俺達で暗殺者を捕まえて誰の差し金か吐かせようって訳か!」


「何それ面白そう! 悪を退治するってことね! 燃えてきたわ!」


 正義感の強いクローバー兄妹は興奮した様子で乗ってきた。

 なんとも頼もしい兄妹である。


「絶対に三人で生き残ろうぜ」


「狙われてるのはお前だろ。それじゃあ準備するか」


 ナルサスはタキオンが狙われていると思っているが暗殺者の標的はまだ分からないのだ。

 三人は暗殺者を罠に嵌める準備をして襲撃を待つことにしたのだった。




 深夜、ナルサスの家に短めの片手剣を持つ暗殺者が音もなく侵入し、眠る三人に近寄より片手剣を突き刺した。


「ちっ!」


 剣を突き刺した暗殺者は顔を歪め舌を打つ。

 突き刺した手応えが人間のそれではなかったからだ。

 これが三人が用意した罠、丸太で作った人形に布団をかぶせて囮にしたのだ。


「おらああ!」


 丸太に刺さった剣を抜こうと力を込める暗殺者の頭をタキオンが剣の腹で殴りつけて意識を奪った。

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