11.二度目の死に戻り
「タキオン! お前を我がピドナ公爵家から追放する。今すぐ出て行け!」
タキオンが目を覚ますとピドナ公爵が追放を言い渡してくる場面だった。
その言葉にタキオンは自分が死んだ事、そして、死に戻りした事を理解する。
(この場面に戻ったって事は……俺は死んだのか。いったいこの死に戻りは何なんだ? だが、死に戻りしたって事はナルサス達三人も生き返ってるはずだ。……そうだと信じたい」
「ふんっ! あまりのショックに放心しおったか。だが、今更反省したところでもう遅いぞ! ファイン殿下との婚約も破棄だ! 殿下にはオニオンと婚約してもらう!」
状況を分析していたタキオンに、ピドナ公爵は得意満面な笑みを浮かべ大声で言い放つ。
見当違いな宣言にタキオンは嘆息し冷めた目を向けると、ピドナ公爵とオニオンはその顔が気に入らなかったのか、二人は顔に青筋を立て怒りを露わにする。
「貴様ぁあ! 何だその顔は! 父上が話しているんだぞ! 清聴しろ!」
「ふふふっ、まあそう怒るなオニオンよ。こやつの顔もこれで見納めなのだ。大目に見てやるのも覇者の役割と言うものよ」
「さすがは父上! なんと寛大な心遣い……このオニオン、感服いたしました!」
大袈裟に驚いてみせるオニオンにタキオンはうんざりとし、呆れた顔になり溜息を零した。
(そもそも王族でもないくせに覇者って何だよ。確かにオニオンがファイン殿下と婚姻を結べばピドナ公爵家が覇権を握る事になるだろうが、ファイン殿下が了承するとは思えないし、あのコロネが許さないだろう)
タキオンの読み通りファイン王女はオニオンと婚約する気はなく、それを許すコロネでもないのだが、ピドナ公爵とオニオンは勝ち誇ったように不敵に笑うのだった。
「分かりました、追放ですよね? すぐに出て行きます」
そう言って部屋を出て行くと、もっと悔しがらせたかったピドナ公爵家とオニオンが喚き散らすが、タキオンは気にせず屋敷を出て行くのだった。
屋敷を出るといつも通り追ってきたアイリスから剣と食料を受け取り、これからの事を考える。
(これからどうするか、ナルサス達と合流するか? だが、そもそも俺が関わったせいでみんなを死なせてしまったんじゃ……今回は一人で行動するか)
自分が関わらなければみんなを死なせる事もなかったかもしれないと思ったタキオンは一人で行動する道を選ぶ。
死に戻りも二度目となれば慣れたもので、タキオンは今回のループでの方針を決める。
(軟禁されているファインは俺一人で助けに行くか、何か情報だけでも得られれば良いんだが)
タキオンはファインを救出する為、一人王城へ向かうのだった。
王城へやってきたタキオンは堂々と正面から入る事にした。
つい先ほどピドナ公爵家を追放されたのだから、ここまで情報は届いていないはずだからだ。
門番に面会をお願いすると応接室へと通された。
「あらあら、ごきげんようタキオン様。今日はどうされたのかしら? お姉様ならいらっしゃらないですが、折角いらしたのだからお茶でも飲んで行ってくださいな」
ファインとの面会をお願いしたタキオンだが、やってきたのは妹のコロネだった。
コロネはやけに芝居がかった声音で話しつつ、持ってきたティーセットで手ずからお茶の用意を始める。
その様子を訝しむタキオンは警戒し、入れられたお茶はカップに口を付けるだけで決して飲み込まないようにした。
「実はファインが軟禁されていると言う噂があり真意を確かめる為にきたんだが、本当なのか?」
「はてぇ、なぜ知っているのですか? できるだけ情報は漏れないようにしたのですが」
すんなりと軟禁を認めたコロネに驚くが、なぜこんな事をしたのか確かめなければならないと質問する。
「なぜそんな事をするんだ? ファインを開放してくれないか? 君も大好きな姉をいつまでも閉じ込めておくのは本意ではないはずだ」
「……なぜ? 大好きな姉? 貴方に何が分かると言うのですか?」
タキオンの言葉にコロネの表情が一変した。
綺麗な顔に張り付けていた笑顔は消え失せ、怒りも喜びも悲しみも感じさせない無機質な表情だ。
初めて見るコロネの雰囲気に気圧され、タキオンは嫌な寒気を感じる。
「それはそうとタキオン様、気分はいかがですか?」
「気分? 特に何も――」
タキオンは突然身体に痺れを感じ、地面に倒れ伏す。
身体を動かそうとしても痺れて力が入らない。
「やっと効いてきましたわね。敵地で出された物に口を付けるなんて愚の骨頂ですわよ」
「バカな……俺はお茶を飲んではいないぞ」
「おーっほっほっほ! カップに麻痺毒を仕込んでいたのですわ。短慮でしたわねタキオン様」
高笑いを上げるコロネは種明かしをして勝ち誇り、その表情はしてやったりと晴れやかな顔をしている。
一方タキオンは、自分の浅はかさに渋面を浮かべて歯噛みする事しかできないのであった。




