肆話 稲荷神社への行商③
「おい、行商屋、荼枳尼天様がお待ちしている。すぐに参れ。」
と宇迦之御魂神のお使いとはまるで異なり荒々しく声をかけたのは目つきの鋭い銀毛のキツネ
「はいはい、すぐに伺いますよ。そう慌てなさんな。」
「ついてまいれ。」
と銀毛のキツネの後をついていくと
「お前は少し俺たちキツネ族を甘く見ていないか?俺たち稲荷神社にお仕えしているキツネ族はみな神使であるのだぞ。神使というのは基本は神にお仕えするものだが、時には神の代わりとしての役割を果たすこともあるのだ。いくら行商屋がこの常世では中立の存在といっても所詮は人間なのだ。神の慈悲によって生きられることを忘れるな。」
と説教を食らいながら荼枳尼天の屋敷に到着し、荼枳尼天がいる部屋の前に行くと。
「荼枳尼天様、行商屋が参りました。」
「うむ、通せ。」
中に入ると宇迦之御魂神と同じようにすだれの奥に尊い気配を感じるが前に控えている狐は10匹ほどおり、どの狐もしかめっ面をしこちらをにらんでいるかのように見える。先に宇迦之御魂神を訪れたせいもあってか少し恐ろしげな雰囲気であった。
「荼枳尼天様、行商屋の神宮寺でございます。地獄の閻魔大王からお手紙を持ってまいりました。」
と言い、一番近くにいた下座に座っている狐に渡すとその下手に座っている狐から順に手紙を改めながら上座に手紙を回していき最後に荼枳尼天のすだれの前に座っている狐のところに手紙が回ると
「荼枳尼天様、閻魔大王からの手紙に間違えないようです。それではわたくし天狐の銀月が代わりに拝読させていただきます。」
「『荼枳尼天様
変わらずお元気にお過ごしのことと存じます。地獄では現世の人間の数の増加に伴い労働力が不足しております。このままでは死んだ人間どものに罪を十分に与えることができないため力のある妖狐たちを派遣していただきたい。なにとぞお力添えをお願いいたします。 閻魔』だそうです。荼枳尼天様いかがいたしましょうか?」
「うーむ、閻魔も大変だのぉ。よし、何匹か遣わそう。だれか行ってくれるものはおるか?」
とすだれの奥から荼枳尼天がキツネたちに尋ねると
「我が赤狐一族が参ります。我が赤狐一族の狐火術で亡者どもを痛めつけてやります。」
と上座に座っていた狐が発言すると、それを皮切りに
「我ら白牙一族が参ります。自慢の牙で痛めつけてやります。」
と我こそは我こそはと自分の一族を売りつけに狐達がアピールをし始める。
「はて、今回は誰に行ってもらおうかのぉ。」