ボタン
僕の目の前には、ボタン。
何のボタンかはわからない。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
目の前にあるのは、ボタンが一つ。
何のボタンかは、今だわからない。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕の目の前にあるボタンをじっと見つめる。
いったい何のボタンなんだろう。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕の目の前のボタンを、そっと触ってみる。
このボタンを押したら、どうなってしまうのだろう。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
ずいぶん経ったというのに、僕は腹も減らなければ、眠くもなく。
ただ漠然と、目の前のボタンを見つめている。
このボタンはいったい何なのか。
押したらどうなるというのか。
このボタンを押すことで何かが変わってしまうというのであれば。
僕はこのまま過ごしたいと願うから。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
変わることを恐れて、ボタンをただ見つめてきた僕だけれど。
ようやく決心がついた。
ボタンを、押そう。
ボタンを、押そう。
ボタンを、押すぞ?
ボタンを、押すぞ?
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕がここにきて、ずいぶん経った。
僕は、ボタンを、押した。
「ようやく押しましたね。」
僕の目の前に、人のような、もの。
「あなたね、何もない空間にいきなり残されて、目の前にボタンがあったら普通押すでしょう。」
「得体のしれないものを押す事なんてできませんよ。」
「得体のしれない空間にいきなり置き去りにされてるのに?」
「得体のしれない空間に存在できてるんだから得体は知れているというか。」
「何も変わらない得体のしれない空間に居続けることに安心感を得たという事ですね。」
「得体のしれない空間も、慣れてしまえば得体はある程度知れるのです。」
「あなたは変化を受け入れることが難しいという事ですね。」
「代り映えしない事象は安心感を生むという事です。」
「あなたが変化を嫌って過ごした時間で生命体が三度も生まれて滅亡しましたよ。」
「変化が目まぐるしいのですね。」
「あなたは生命として生まれるのは…厳しいと思います。」
「命は日々変化が付きまといますからね。」
「あなたは生まれたいと願ったのではないんですか?」
「そう願ったから、ここにいるのでは?」
「願ったわりには、何もせずに過ごしましたね。」
「変化を恐れるあまりの行動です。」
「ボタンを押さざるを得ない状況をこれほどまでにスルーするとは。」
「どこにも押せという指示は書いてありませんから。」
「わかりました、それではあちらの部屋へ行ってください。」
「いやですよ。僕はここにずっといる。」
「わかりました。」
僕はただ一人、何もない部屋に取り残された。
ボタンはどこにもない。
たった一人で、この部屋にいる。
たった一人で、この部屋にいる。
たった一人で、この部屋にいる。
たった一人で、この部屋にいる。
たった一人で、この部屋にいる。
たった一人で、この部屋にいる。
たった一人で、この部屋にいる。
たった一人で、この部屋にいる。
たった。
ひとりで。
このへやに。
「そろそろ、こちらの部屋に、来ませんか。」
「そろそろ、こちらの部屋に、来ませんか。」
「そろそろ、こちらの部屋に、来ませんか。」
「そろそろ、こちらの部屋に、来ませんか。」
「もう、こちらには、来れませんか。」
「もう、消えてしまいましたか。」
「消える前に、生まれる勇気を持ってほしかったですね。」
「生まれたら何か成せたかもしれないのに。」
「何も成せなくてもよかったのに。」
「何かになれたのに。」
「ただ消えていくだけだなんて。」
「目の前のボタンを押すだけだったのに。」
「ボタンは押すためのもの。」
「押すべきボタンを押さずに消えていくなんて。」
「押せたはずなのに。」
「新しい誰かを、見つけてこなければ。」
「このボタンを押してくれる、終末の責任者。」
「ああ、そんなところに。」
「あなたに、押してもらいたいんですよ。」
「最後の、ボタン。」
「私はただの見届け人ですから。」
「押せないんですよ。」
「あなた、重責を担ってみませんか。」
「大丈夫、誰もあなたを怒ったりしません。」
「怒る人はすべて消え去ってしまうのですから。」
「無に帰す大役、お願いできませんか。」
「今晩、お迎えに、あがります。」
よ ろ し く お ね が い し ま す ね ?




