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curse  作者: 鷹真
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忍び寄る影

バクバク、バクバク・・・・・・。

口から飛び出すのではないかと思うほど、心臓が早鐘を打つ。

危なかった。近くのサラリーマンが気づいて腕を引っ張ってくれなければ、僕は今頃ミンチになっていた。ゴーと騒音を立てながら通り過ぎる電車に轢かれて。

「あ、ありがとうございました」

軽く片手を上げて、サラリーマンは立ち去った。せめてお名前を、と古典的ギャグを繰り出すゆとりは無い。お礼が言えただけ、頑張った。僕。

へたり込んだままだった僕は、どうにか立ち上がり、笑う膝を誤魔化しながら人の流れに逆らって、駅構内のベンチに座る。まだ心臓は静まらず、額には冷や汗が流れる。

「どうした?」

いつの間にか近くに来ていた西賀が心配げに聞いてきた。チャラ男、結構いいやつだな。

僕自身にたった今、起こった事を話す。誰かに背中を押されたとも。

西賀が辺りを見回すけれど、既に電車が出た後だ。怪しい人影などない。そして、僕には、押したのがどんな人物かを確認する余裕など無かった。

話しているうちに、僕の心臓も落ち着いた。

ベンチに凭れていたが、いつまでもそうしている訳にも行かず、堤監督の事務所に向かうために電車に乗った。西賀は僕の後ろから電車に乗り込んだ。

駅から少し路地を入る。辺りは良く言えば閑静な、あまり人気の無い細い通りに事務所は在った。

こぢんまりとしたビルの内階段を上がって3階、ガラス戸になっている事務所入り口を覗くと、すぐそこにいた監督が気づいて、ガラス戸を開けてくれた。デスクで何やら作業する数人に会釈し、監督に促されるままに奥の部屋へ入る。

手前に応接セットが設えてあって、その奥にモニターが2台乗ったデスク。片方の壁には、DVDとVHSがずらりと並べたあり、資料らしい本や、台本などもキチンと並べてあった。そして、もう一方の壁には、オーディオセット。

部屋へ入って、監督がコートを掛けるのを待ってから、持って来た8ミリを監督へと手渡すと、早速とばかりに、監督が、オーディオセットのモニターに接続されたレコーダに8ミリをセットした。

監督がモニターの真正面に来るポジションで、またもや8ミリを観る。大き目のモニターに映し出された中谷涼香。何度見ても、眩しいくらいに魅力的な人だ。

然程長くないというか、短い映像だ。あっさりと観終わると、監督は目元を手で覆った。ゆっくりと息を吐き出すと、目元を覆っていた手を離して僕らに頭を下げる。

「ありがとう」

その目は濡れてはいなかったが、ちょっと赤くなっていた。

その後は映画の話や裏話などで盛り上がった。作業中の人たちも紹介され、間近で作業見学までさせて貰い、事務所に勤務している人が帰る頃まですっかりとお世話になってしまった。

帰り際に監督と握手を交わし、事務所を後にした。

事務所の明りが小さくなった頃、隣を歩く西賀に話しかけた。

「なあ、監督の手のひら見たか?」

「ああ」

僕の問いに、西賀が短く答えた。

監督の右手に、手のひらを分断する横の一線がくっきりと見えたのだ。

言葉少なに、すっかり日が落ちて暗くなった細い路地を駅に向けて歩く。街灯もない暗い路地。人っ子一人見当たらない。

「いかにもな路地だな。サスペンスとかだと、こういう路地で暴走車に・・・・・・」

西賀が口にした、まさにその時、かっとハイビームに照らされた。眩しくて、腕で光を避ける。その腕の影から見たのは、ぎゅるるとタイヤをアスファルトに擦り付け、ハイビームにしたままの車が僕らへすごい勢いで迫ってくるところだった。

西賀に腕を引かれて、壁に張り付くようにしてギリギリで避けた。車のほうを振り返るが、暴走した車は凄い勢いのまま路地を走り去り、見えなくなった。

「あっぶねーな。何、今の!」

西賀はぷりぷりと怒っていたが、僕はちょっと怖くなった。待ち伏せていたとしか思えないタイミングだ。電柱の影に入れなければ、確実に轢かれていただろう。

・・・・・・僕らは、本当に呪われてしまったのだろうか。


あの一件の後、僕は常に気を張っている状態だった。出掛けるのもおっかなびっくり。1日の内に、2度も命の危機に瀕したのだ、仕方ないだろ。

しかし、悲しいかな。金の無い学生はバイトをしなければならない。週に一度、コンビニの深夜バイトを入れているのだ。急に休むと迷惑を掛ける。ましてや、怖いからという理由はない。

恐々とバイトをこなしていたが、何事も無く交代要員が来て、無事に終了。コンビニ強盗が来なくて良かったなどと思いながら、引継ぎを行った。

「上がります。後、よろしくお願いします」

朝のパートさんに挨拶して、帰路に就く。盛大なあくびを出るに任せ、アパートの階段を上がって、ポケットから玄関の鍵を取り出し、寝ぼけながら室内入るためドアを開き・・・・・・。

目が覚めた。

ワンルームの部屋は玄関を開くと全て見渡せる。その部屋が、ひと目で判るほど荒らされていたのだ。

僕は、キッチリしているわけではないが、部屋はこまめに片付けている。したがって、誰かが侵入して荒らした事は明らか。

幸いといっていいのか、部屋の中で一番高価であろうノートパソコンは無事だ。通帳と印鑑も確認してみるが、有る。他に金目のものはない。こんなぼろアパートに入る馬鹿な空き巣はいないだろうと、ベランダの窓の鍵は普段から滅多に掛けていなかった。

通報したほうがいいのだろうか。しかし、盗まれたものは無い。ざっくりと片付けて、ベランダの窓の鍵を閉める。このまま部屋で寝る気にはなれず、部室に行く事にした。

誰もいない部室のソファーでごろごろしていると、部長と西賀が揃ってやって来た。先客がいるとは思わなかったのだろう、僕を見て驚いていた。

「あれ、お前深夜バイト明けじゃなかった?」

「うーん。そうなんだけど、実はさ・・・・・・」

部屋が荒らされていた事、しかし盗まれたものは無かった事を話す。

「うわ。なんか、コワっ。意味わかんね」

「2人は?」

僕が尋ねると、西賀は肩に掛けたトートバッグから8ミリを取りだして、振って見せた。

「コレ」

ああ。

何度目かの8ミリ。寝ぼけながら観ていたが、ある事に気がついた。ちょっと離れたところに映っている男の目の横・・・・・・大きめな黒子がある。今まで、中央の3人にしか注目していなかったため、気づかなかった。

「これ、この人って・・・・・・篠原さん?」

長い月日をかけて着込んだ脂肪のせいで別人に見えるが、目の横の黒子はそのままだった。

・・・・・・いや、ちょっと膨張したか?


篠原さんを認識した鑑賞会後の週明け、最初の講義が休講になり、どうやって時間を潰すかを考えながら構内を歩いていると、大講義室前に黒山の人だかりを発見。人が集まっていれば、気になるのが人情。僕も例に漏れず、覗いてみることにした。

どうにか見えた張り紙には、「堤監督による特別講義」とあった。ちなみに、誰でも公聴可能。それならば、と大講義室に入り込んで知った顔を探すとすぐに見つかる。

あ、チャラ男発見。やつは結構目立つ。講義室の中ほどに西賀が座っていた。立ち聞きの人の間を縫ってそこへ辿り着くと、西賀に詰めて貰って、座る。

堤監督は話が巧い。楽しく聴いているうちに、あっという間に終了時間になってしまった。ぞろぞろと退出していく学生の波に乗りながら、僕らも大講義室を出た。西賀のチャラ友と別れ、自然と向かったのはクラブ棟だ。

途中、元プロレス研究会(見えないが)の事務員とおじいちゃん警備員が談笑している場面に出くわし、軽く会釈して脇を通り抜ける。クラブ棟は、警備員室の裏手だから。

「どもー。こんにちは・・・・・・あれ?」

部室には数人の先輩がいた。全員が角を突合せ、真剣な表情で話し込んでいる。

何かあったのだろうか。

「どうしたんですか?」

誰ともなしに尋ねてみると、組んだ腕を外しながら部長が応えてくれた。

「8ミリのテープがごっそりと無くなってるんだ」

「え!?」

一昨日に部長、西賀それに僕の3人で8ミリを見た後、棚に異常は無かった。昨日は日曜で、日曜日の構内の出入りは原則として禁止されている。出入りする場合には、事前に申請が必要となる。つまり、誰が出入りしたのかは、警備員室に問い合わせれば判るはずである。

しかし、部長が警備員室に問い合わせて確認したところ、僕らが部室を出た後から部長が訪れるまでの間、鍵を借りた人はいなかったそうだ。

無くなっていたのは、古い8ミリばかり。

「なぁ、アレ狙いかな」

西賀が、ぼそりと言った。

アレとは8ミリの事だろう。僕もそう思う。僕の部屋に入った空き巣も8ミリを探していたのだ。妙に納得する。

狙いは、8ミリ。

アレに何か映っていた? 強いて言うなら、死んだ3人・・・・・・。

中谷涼香が事故死。ただし、自殺との噂あり。竹中勝一、刺殺。顔面は判別できないほど切り刻まれていた。そして、もう1人の男が、照明が直撃するという事故死。

あーだこーだと議論しても、結局8ミリ窃盗犯は判らずじまい。学生課に相談する事になった。


レトロな喫茶店を通りから窓越しに覗く。

よし、いた。

思ったおとり篠原さんが休憩していた。

カラン。カラン。ベルの音に迎え入れられながら、まっすぐに篠原さんへと近づく。

「こんにちは」

ビクリと肩が揺れ、一瞬、驚いた顔を見せたがすぐにいつものニコニコと人の良い顔になった。

「ああ、君たちか」

同席して良いか断りを入れてから、篠原さんの前の椅子を引く。持って来た8ミリをテーブルに置いて、篠原さんに視線を遣る。ニコニコ顔の篠原さんは、軽く首を傾けながら不思議そうに8ミリを見た。

「ん? 8ミリだね。君たちの作品かな」

「いえ、僕たちのではありませんが、見ていただきたくて」

篠原さんが頷くと、ほほの肉も揺れる。こんな場面でもなければ、噴き出していたかもしれない。

マスターにオーダーした飲み物が揃ってから、テーブルに持って来たレコーダを置く。

再生して見せると、直ぐに篠原さんの目が見開く。驚いているようだ。演技で無ければ、この8ミリの存在を知らなかった様子。しばらく無言で映像を観る篠原さん。

カチリ。テープが止まると視線を上げて、口を開く。

「こんなのがあったのか。知らなかったよ」

ちょっと照れたように、今と違って、昔はとても痩せていたんだ、と、頭を掻いた。そして。

「彼女は、知っての通り、女優の中谷涼香。

それから、背の高いほうの男性が当時の部長で、竹中さん。もう1人が鈴木。僕と同期だ」

事故死した男は、鈴木というらしい。竹中と鈴木は同郷で、年中つるんでいたそうだ。素行の良くない連中とも付き合いがあり、一時期ドラッグに手を出していたと噂があった。

さらに、驚いた事に竹中と中谷は当時、恋人だったというのだ。ただ、彼女が辞めてからどうなったのかは、わからないけど、と付け足し言った。

カメラを回していた人物に心当たりは無いかと尋ねるも、誰だろうかと首を傾げる。

少し考えてから、誰か思い当たったのか、もしかしてと自信なさげに続ける。

「あいつかな。えーとね、こう言っては、何なのだけれども・・・・・・」

一旦、区切ってから。

「竹中さんと鈴木の、パシリ? とでもいうのかな。そいつなのかもしれない。

後輩だと思うんだけど、部に所属していたのかも不明なんだよね。すっごく暗いやつってイメージしかない」

当時の竹中のパシリ・・・・・・。撮影者についての情報は、殆ど得られなかった。

しかし、篠原さんを犯人候補から外してもいいだろう。

そうなると、やはり怪しいのは撮影していた人物って事になる。

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