Cafe Shelly お前が悪い!
またミスしやがった。どうしてオレの周りにはこうもできの悪い連中しか集まらないんだ。
「おい、伊東。お前いい加減に仕事を覚えろよ!」
「す、すいません。今度はちゃんとやります」
「あのなぁ、そのセリフなぁ、いいかげんき・き・あ・き・た・ん・だ・よっ!」
そう言って丸めた書類で伊東の頭を叩く。こうでもしないと、こいつの頭の中は変わりそうにない。
オレは小さなコンサル会社を営んでいる。パソコンと会計、これらを建設業に指導をするというのがオレの役目。まぁ、趣味で始めたパソコンが高じてこうなったのだが。ターゲットをパソコンもろくにつかえない建設業の現場に絞ったのが成功している。
うちには社員が三人いる。営業の高橋、事務の女性の斎藤、そしてオレのサポートの伊東。しっかしどいつもこいつも使えないヤツらばかり。結局営業も最後のクロージングはオレがやらないといけないし。事務については、若いおねえちゃんを入れたはいいけれど、ろくにエクセルもつかえねぇし。面接の時には、こいつらは使えると思ったんだがなぁ。就職詐欺で訴えてやりたいくらいだ。
「佐川さん、ちょっとこれ見てもらえますか?」
営業の高橋から声がかかる。
「見積書なんですけど、こんなもんでいいっすかね?」
「どれどれ…んっ?おい、なんだよ、この項目は?」
オレが指摘したのはテキスト代のところ。パソコンのテキストというのは、市販の物を使うことが多い。だが、それだと費用がかなりかさむ。しかも、相手によっては不要な部分が多い。
なので、必要な部分だけをコピーして使うことがほとんど。まぁ、著作権の関係でそれはやってはいけないことなのはわかっているのだが。けれど、コピーをしたほうが費用も安いし、こっちの儲けにもなる。
ところが、高橋が作った見積書では、テキスト代がまるまる市販のテキストの価格になっているではないか。
「おいおい、新品の本を一冊まるまる相手に渡そうってのかよ?」
「いやぁ、先方がそれを希望されているものですから」
「ったく、もうちょっと頭をは・た・ら・か・せ・ろ!」
そう言って、さっき手にしていた丸めた書類で、今度は高橋の頭を叩く。ったく、どいつもこいつも馬鹿ばっかりなんだから。
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ。じゃぁ、どうすればいいんですか?」
「まず、本当に相手はまるまる一冊必要なのか?講義で教えるのは、この中のほんの一部だろうが」
「でも、それって著作権侵害になりますよ」
「いいんだよ。相手だってその方が安くなるんだから。つべこべ言わずに、言われたとおりに見積書をつくりなおせ!」
ったく、使えねぇヤツらばかりだ。なにが著作権の侵害だ。そんなの、黙ってりゃわかりゃしねぇんだよ。それに、うちだけが儲けようってわけじゃねぇんだから。相手だってその方が損をしねぇですむんだからよぉ。
「斎藤さん、お茶っ!」
この事務の斎藤も今ひとつつかえない。もっと気を利かせて、お茶くらい言われなくても準備すりゃいいのに。こっちが要求しないと動かねぇんだから。
若いってだけで、大してかわいいわけでも美人なわけでもない。メガネをかけてパッとしない女だ。お茶の入れ方もイマイチだしなぁ。この前、インスタントコーヒーを入れさせたら、やたらと薄味だったし。こういうの、親がきちんとしつけてくれねぇと困るんだよな。
「おい、伊東。三時に渡辺建設のパソコンのメンテナンスが入ってたよな」
「はい。毎月の定例作業です」
「じゃぁ、高橋を一緒に連れて行って、会計ソフトの新しいやつを売り込んでこい」
「えっ、あの会計ソフトを売るんですか?あれ、あまり評判よくなくて…」
「何言ってんだよ。うちはこのソフトの一次代理店なんだからよぉ。こいつを売らねぇと、販売会社から金がもらえねぇだろうが」
「は、はぁ…」
ったく何言ってんだろうね、こいつらは。まぁ確かに、今はクラウド会計とかいってインターネットで使える会計ソフトが増えているけど。うちが販売している会計ソフトは、昔ながらのパソコンにインストールするタイプで、年更新して法改正や機能を充実させてるんだから。その分、操作が複雑になっているから、ウチのような会社が指導をする。それだけに値段もちょっと高めではある。
でも、こいつでウチはメシを食ってるんだから。つべこべ言わずに売ってくりゃいいんだよ。自分がどうやって給料をもらっているのかわかってんのかね、こいつらは。
おっと、電話だ。
「はい」
「もしもし、佐川ちゃん。オレだよ、オレ」
「なんだ、オレオレ詐欺の井島かぁ」
「おいおい、オレオレ詐欺はねぇだろう」
電話の相手は最近つるんでいる井島。インターネットでの物品販売を中心に事業をやりつつ、いろんな投資案件をオレに振ってくる。電話がかかってくると、「オレだよ、オレ」というのがクセだから、オレはオレオレ詐欺と呼んでいる。
「で、今日はどんな案件を持ってきたんだ?」
井島が電話をかけてくる時は決まっている。「お前にいい話があるんだ」第一声がこればかりだ。事実、そのおかげでいくらか儲けさせてもらった。が、損をしたものもある。まぁ、結果的に黒字なので文句は言わないし、やるときは自己責任だからと散々言われているからなぁ。
「佐川ちゃん、わかっているじゃないの。電話じゃなんだから、ちょっと外で話さない?」
「わかった。ちょいと雑用をやってからでいいか?そうだな、三時に。場所はウチの事務所の前にある喫茶店でいい?」
「オーケー。じゃぁ三時ね」
そう言って電話を切る井島。あの声の弾み方からすると、ちょっとした大型案件と見た。
それにしても、今の仕事を始めてからこんな仲間が増えたな。井島が持ってくる案件を通して知り合った上田に山城、こいつらはプータローだが、投資案件だけで食っているらしい。他にも個人投資家のおばちゃん福沢さんとその仲間、青年実業家で今度市議会に出ようとしている墨田。どれをとっても金に執着を持った連中ばかりだ。
「おい、伊東に高橋。しっかり会計ソフトを売り込んでこいよ。わかったな!」
オレは二人に檄を飛ばす。
「じゃぁオレは出かけてくるから、後は頼んだぞ」
「佐川さん、どこへ?」
「井島と会ってくる。何かあったら携帯に電話してくれ」
そう言ってオレは、後の仕事を任せて出かけることにした。いつまで経っても社長が出しゃばってたら、社員は育たないからな。なんかのセミナーでそんなことを言っていたことを思い出した。ってことは、オレはできる経営者じゃん。
約束の時間よりちょっと早めに、待ち合わせの喫茶店に入る。オレはここを頻繁に使っているため、ウエイトレスのおねえちゃんも顔なじみだ。
「待ち合わせだから、来てから注文するわ」
そう言うと、オレはタブレットを開いてネットニュースを確認する。こうやって社会情勢を見ておくのも、コンサルトしては大切な仕事の一つだ。決して暇つぶしのためにやっているわけではない。と自分に言い聞かせている。
ほどなく井島が登場。
「佐川ちゃん、今度の話はすごいぞ」
席に座るなり、いきなり本題に入る。かなり興奮しているな。
「焦るなよ。まずは飲み物でも注文しようや」
「あ、アイスコーヒーでいいや。でね…」
「おーい、アイスコーヒー二つ、よろしく」
オレは井島の言葉を遮って、大声で注文をした。
「とにかく話を聞けよ。こいつがすごい話なんだよ」
井島はどうしてもオレに話をしたいらしい。
「わかったよ。で、どんな話なんだ」
すると井島はノートを取り出して、書きながら説明を始めた。これは井島がオレたちに何かを説明するときのクセだ。書きながら説明してくれるので、井島の話は非常にわかりやすい。
要約すると、どうやら暗号通貨の投資話らしい。あたらしい暗号通貨ができるとかで、値上がりが確実とか。しかも、普及にはネットワークビジネスの仕組みを取っていて、紹介すればそこそこの額になるコインをもらえるらしい。
「でもよ、世の中にはすでにそんなうさんくさい暗号通貨、山のようにあるじゃねぇか」
オレも暗号通貨については知らないわけではない。全くの素人なら騙される話だろうが、世の中に出回っているこの手の話の9割、いやそれ以上が詐欺というからオレもさすがに慎重になる。
「ところが、だよ。こいつは違うんだ。なんとバックに中東の石油王と、中国の大富豪がついているんだよ。ほら、これがその証拠の写真だ」
見せられたホームページに、それらしい二人が握手をしている写真が掲載されていた。それでもまだ、こいつは胡散臭い話だ。
「う〜ん、でもなぁ、まだなんか怪しいんだよなぁ」
「疑り深い佐川ちゃんならそう言うと思ったよ。それならこれでどうだ!」
井島がタブレットで見せたのは、動画サイト。そこでこの新しい暗号通貨を説明しているのは、なんと大山玄上ではないか。彼はネットビジネスや投資の世界では有名な人物で、過去に大ベストセラーも出している。さらに彼の生き方をモデルとしたドラマまであるくらいの人物だ。
彼が今まで手掛けたビジネスは、すべて大ヒットをおさめている。ただの広告塔ではなく、彼自身がさまざまなリサーチを行った上で推進したものばかりなので、その信憑性は高い。
「さぁ、これでどうだ?」
「いや、まいった。大山玄上が手がけているなら間違いない。本物だろう。わかった、一口乗ろう」
「さすが佐川ちゃん、話が早いね。でね、こいつはまだプレセール期間中で、今なら購入価格の1.5倍のコインがもらえることになってる。さらにおもしろいのは、自分をリーダーとして自分自身をネットワークの子としてつけることができる。一人つけると、0.1口分のボーナスが出るんだぜ」
「ってことは、自分の下に十口自分を入れれば、一人分は実質タダってことか」
「その通り!だから無理に人を誘わなくても、自分ひとりでネットワークが構築されて、ボーナスも入るってことだ。どうだ、やってみない?」
なるほど、井島が興奮している意味がよくわかった。オレは早速一口十万円を十口加入することにした。
オレの周りには、こうやっていい情報を持ってくるヤツらが多い。もちろん、オレもいい情報があれば周りに流す。持ちつ持たれつってやつだ。早速オレも、この情報を誰かに話してみたい、そう思った。
井島と別れて、同じような仲間の笹口に電話をしてみた。ヤツは会社を辞めてからは親から相続した資産を運用して暮らしている。あいつならすぐにこの話に飛び乗るだろう。
「はい、笹口です」
「佐川だけど。ちょっとおいしい話があるんだが、聞かねぇか?ついさっき井島から回ってきた話なんだけど」
「あ、例の暗号通貨の話だろう。それならすでに聞いたよ」
なんだ、考えることは一緒か。まぁ確かに、この手の話をするなら、すぐに笹口の顔が浮かぶのは誰も一緒だろう。
「じゃぁ、もちろんお前も入ったんだよな?」
「いや、俺は今回はやめておいた」
えっ、あの笹口がこんな美味しい儲け話に乗らないって、どういうことだ?
「笹口、どうしたんだよ。おまえらしくねぇなぁ」
「俺な、ちょっと考え方が変わったんだ。俺たち、今までどれだけ他人のことを踏み台にして生きようとしてきたのかに気づいたんだよ」
おいおい、どうしたんだ、なんか変な宗教にでもかぶれたのか?
「佐川、お前に一度会わせたい人がいるんだが時間はないか?」
「会わせたいって、どこかの坊さんとか教祖様じゃねぇだろうな?」
「ははは、そんなんじゃないよ。喫茶店のマスターだよ。まぁ、俺を目覚めさせてくれた人ではあるけどね」
喫茶店のマスターが笹口を目覚めさせた?さっぱり意味がわからない。
「これから時間取れないか?」
「まぁ、いいけど」
「じゃぁ、駅前の噴水で待ち合わせでいいかな。これからすぐに動けるのか?」
「あぁ。そこなら十分くらいで行けるかな」
「俺もそのくらいには到着できると思う。じゃぁまたあとで」
そう言って電話は切れた。そういや笹口、口調までなんだか変わった気がする。前はもっとぶっきらぼうなヤツだと思ったけど。あいつに何が起きたんだ?
こうなりゃ逆に、あいつをこっちの世界に戻すために目覚めさせてやろう。そうだ、その喫茶店のマスターとやらも引きずり込んでやるか。
待ち合わせの場所には歩いて行ける。その途中で、営業の高橋から電話がかかってきた。
「佐川さん、やっぱりあのソフト売るのは無理ですよ。先方が望んでいるものと違いますし」
「バカヤロウ!そんなことだからいつまで経っても売れねぇんだよ。もっとこっちの優位点をだなぁ、しっかりとアピールしねぇか。今日は売れるまで帰ってくるな、このタコっ!」
ったく胸糞悪い。あいつら、売ろうという気があるのかね。もうちょっと自分の責任ってのを感じろよな。
まぁ、メーカーもメーカーだ。もうちょっと客ウケするようなものを作れっての。どいつもこいつも、自分からやってやろうってヤツはいねぇのかよ。
ブツブツ言いながら待ち合わせの噴水に到着。笹口はまだ来てねぇみたいだな。ここでタバコを一服吸おうとした。
「あなた、ここは禁煙ですよ」
近くにいたジイさんがオレに注意をしてきた。
「んなこたぁ知らねぇよ」
「だったら、今知ったのだから、これからは吸わないようにしなさい」
「ちっ」
それでも吸おうと思ったが、周りを見回すと確かに誰もタバコは吸っていない。昔はここはみんなタバコを吸って人を待っていたものだが。いつの間に変わったのだろう。
仕方ねぇ、タバコはあきらめるか。ちょうどそのとき、笹口が登場した。
「おせぇぞ。おかげでとんでもねぇ目にあっちまった」
「どうしたんだ、何かあったのか?」
オレは歩きながら、さっき起きたことを笹口に話した。
「佐川、それはお前が悪い。駅前どころか今は街中では決まったところ以外は喫煙禁止になっているんだぞ。知らないのか?」
強い口調でそう言われると、反論ができなかった。というか、笹口ってこんなやつだったっけ?前はどちらかというとお調子者で、オレらの言うことに対しては「そうですね」なんて従うタイプだったと思ったが。
「ここだ。この喫茶店がおもしろいんだよ」
案内されたのはビルの二階。まぁ、見た目は普通の喫茶店だが。
カラン・コロン・カラン
笹口が扉を開くと、心地よいカウベルの音。同時に漂ってくるコーヒー独特の香り。その中に甘い香りも混じっている。一瞬で異空間に入った感じがした。
「いらっしゃいませ」
「マイちゃん、こんにちは。今日は知り合いをマスターに会わせたくて連れてきたよ」
マイちゃんと呼ばれた女の子、髪が長くて目がぱっちりしてかわいいじゃねぇか。
「それならカウンターがいいですね。こちらへどうぞ」
通されたのは4つしかないカウンター席。そのうち一つは本を読んでいる客が座っている。
「マスター、こんにちは」
「笹口さん、いらっしゃいませ。今日はお友達を連れてこられたのですね」
「はい、マスターに会わせたくて」
「ははは、光栄です。ご注文はどうされますか?」
「もちろん、シェリー・ブレンドで」
「かしこまりました」
「おいおい、勝手に注文を決めるなよ」
「あ、悪い悪い。けれど、ここにきてシェリー・ブレンドを飲まないっていうのはないよ。俺はこのコーヒーのお陰で目が覚めたんだ」
「その、目が覚めたってどういうことだ?今まで悪夢でも見ていたっていうのかよ」
「あぁ、その通りだ。俺は今まで自分のことしか考えていなかった。そして佐川、お前には悪いがそういう自己中心的な連中としかつきあっていなかった。そこに気づいたんだ」
自己中心的、と言われて否定はできなかった。けれどオレにも言い分はある。
「経営者って、良くも悪くも自己中心的じゃねぇとやってられねぇんだよ。部下はちゃんと動かねぇし、資金は調達しなきゃいけねぇし。連中がちゃんと働いて金を稼いでくれりゃ、オレだって強くは言わねぇよ」
「ははは、俺の時と同じだな」
「自分の心が、周りをそうさせているんですよ」
マスターがそう口を開いた。
「そうさせているって、どういう意味ですか?」
オレはその言葉にちょっとイラッとした。
「つまり、部下がちゃんと動かないのはオレのせいだってことですか?」
ムキになってそう言う。が、マスターは冷静にこう答えた。
「はい、そのとおりです。会社の部下や奥さん、旦那さんに対して愚痴を言われる方は多く見られます。が、その原因はほぼ間違いなく本人にあるんです」
マスターはオレにケンカを売っているのか?だがオレも大人だ。ここで挑発に乗っては相手の思うつぼだ。
「じゃぁ、オレのどこが悪いのか教えてくれませんかねぇ」
ちょっと皮肉たっぷりにマスターに尋ねてみた。マスターはコーヒーの最後の仕上げに入っている。
「もう少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか」
さすがにコーヒーを淹れる手を止めさせるわけにはいかない。ここはおとなしく待つことにした。
「そういや笹口、さっき変なことを言ってたな。ここのコーヒーのおかげで目が覚めたって。ありゃどういう意味だ?」
「ここのコーヒーには魔法がかかっているんだよ」
魔法って、ますます怪しい店だな、ここは。
「お待たせしました、シェリー・ブレンドです。飲んだらぜひ味の感想を聞かせてください」
味の感想って、この店はコーヒーの味に自信が無いのか?そう思いながら、早速一口飲んでみる。
うん、なかなかいい味を出しているじゃないか。最初はそう思った。だが、その後に湧き出てくる妙な味。一瞬苦いと思ったら、苦味がついてくる。かと思えば甘いと思えば甘みがついてくる。最悪なのは、臭いと思った瞬間に妙な匂いまで感じる。
そもそも苦いとか甘いとか臭いと思わせているのは誰だ?オレはそんな風に思っちゃいない。誰かに思わされている。オレは思わされているとおりの味を感じている。どういうことだ?
「どうした、妙な顔つきしているぞ」
笹口の声で我に返った。今、妙な世界に飛び込んでいた、という感じがしていた。笹口の声でそこから抜け出した。
「あ、いや。このコーヒー、なんか変な味がするんだ。苦いと思えば苦くなり、甘いと思えば甘くなり、さらに臭いと思ったら妙な匂いまでしてきやがった。これは一体、どういうことだ?」
ここで笹口、にやりと笑う。そしてこんなことを聞いてきた。
「甘いとか苦いとか臭いとか、だれがそう思ったんだ?」
「だれがって、オレはそんなこと思いたくないけど。思ったのは自分だよなぁ。お前に指図されたわけじゃない」
「なのに佐川、お前はその味や臭いを人のせいにしていなかったか?」
「あ、いや、まぁそう言われりゃそうだけど…」
きついところを突かれた。オレは自分でもわかっているのだが、自分に不利益なことがあると、すぐに人のせいにしてしまう。
「でもよ、あいつらがちゃんとやれば、オレもあいつらのせいにはしないんだぜ」
オレにはオレなりの言い分がある。部下の連中がちゃんと動いてくれれば、オレだってあいつらのせいにはしない。
だが、ここでマスターの言葉が思い出された。
「自分の心が、周りをそうさせているんですよ」
つまり、オレがこうだからあいつらはちゃんと動かない、ということなのか?全てはオレが悪いっていうのか?
「笹口、ちょっとオレの話はおいといて、お前はこの店で何に気づいたというんだ?それを教えてくれよ」
「そうだな、人のことを言う前に、まずは自分だな。俺は今まで、投資で生きてきたのは知っているよな」
「あぁ、株とかFXとか。今じゃ暗号通貨なんてのもやっていたよな」
「佐川、お前の目から見て俺はどう変わった?」
笹口が変わったところ。そう言われると難しい。
「そうだなぁ。一言で言えば雰囲気かな。前はもっと尖ったイメージがあったが。今はなんか丸くなったというか…あ、そうだ、口調が変わったな」
「口調か、具体的には?」
「うぅん、前はもっと自己主張が強かったイメージがあるな。自分のやり方のほうが正しいんだって言わんばかりで。でも、今はそれがない。あ、オレの言うことをきちんと聴いてくれている、受け入れてくれている、そんな感じがするな」
すると笹口、ホヤっとした笑いになった。
「よかった、そう見られていたのなら成果があったということになりますね」
そう言って笹口が見たのは、マスターであった。
「笹口さん、自分が望んだ自分になれているようですね」
マスターが言う、自分が望んだ自分ってどういうことだ?その疑問に、笹口はすぐに答えてくれた。
「佐川、俺もこの店に来たときにはお前のようにちょっと突っ張ってたんだ。でも、オレが望んだものが見えたときに、どうすればいいのかがわかった」
「望んだものが見えた?」
「あぁ、このシェリー・ブレンドのおかげでな」
「シェリー・ブレンドのおかげ?そういや、魔法がかかっているとか言ってたが」
「それはだなぁ…」
笹口がそう言いかけた時
カラン・コロン・カラン
お店の扉が開いて、あのカウベルの音が鳴り響いた。
「いらっしゃいませ」
マイさんの声、続いてマスターの声がする。このとき、別に気にしなくてもよかったのに、なぜだかオレは入ってきたお客の方を見た。そして驚いた。
「あーっ、さっきのジイさん!」
「あれ、桜島さんのこと知ってるのか?」
オレの声に驚いたのは笹口の方であった。
「ほう、さっきの若いのではないか。なんと、笹口さんの知り合いだったとはな」
「はい、こう言ってはなんなのですが、昔の私の友達です」
「ふぉっふぉっふぉっ、なるほどな。人は鏡とはよくいったものじゃな。昔の笹口さんがどうだったのか、これでよくわかるわい」
「いや、恥ずかしながら」
「おい、何の話をしてるんだよ。昔の私って、今も友達じゃねぇのかよ?」
オレは笹口の言葉が気になった。それにこの桜島とかいうジイさんも失礼なやつだ。
「どれ、どうせじゃからこちらに座らせてもらうとするかな」
そう言って桜島とかいうジイさんは、もう一つ空いていたカウンター席、俺の隣に座りやがった。
「マスター、シェリー・ブレンドを頼む」
「かしこまりました」
「さて、昔の笹口さんの友人といったな。なるほど、ワシが出会った頃の笹口さんそっくりじゃわい」
「おいおい、だからどういう意味なんだよ?」
オレは少しイライラしながら尋ねた。
「そういや、ここのコーヒーには魔法がかかっているとか言ってたが。その意味って何なんだよ?」
「その意味が知りたいか。ではもう一度残っておるコーヒーを一口飲むとよい」
桜島とかいうジイさんにそう言われて、オレはまだカップに残っているコーヒーを一すすりした。
「なんだよ、普通のコーヒーじゃねぇか…」
そう言いかけた時、口の中で何かが爆発した。これは大きな衝撃だった。その後に残るのはさわやかさ。スッキリした感情。なんだ、これ?
「どんな味がしたかな?」
「あ、いや。なんだこりゃ。さっきと味が違う。というか、味というよりは衝撃、爆発…そしてスッキリ感…これ、コーヒーなのか?」
「ふぉっふぉっふぉっ、シェリー・ブレンドはなかなかおもしろいことを教えてくれておるようじゃな」
「だから、これはなんなんだよ?」
その疑問に、ようやくマスターが口を開いてくれた。
「シェリー・ブレンドはその人が望む味がするのです。だからその時々で味が異なるのです」
「その人が望む味がする?」
まさか、と思ったが実際に味が変わったところをみると、そうなのかもしれない。半信半疑ではあるが、さっき飲んだ味をもう一度思い出してみた。
「衝撃、爆発…そのあとのスッキリ感。これをオレは望んでいるってことか。でも、どういう意味だ?」
「お前さん、自分を変えたいと思ってはおらんかの?」
桜島のジイさんがオレにそう質問してくる。自分を変えたい、そんなことはない。オレは今の生活を楽しんでいる、そう言いかけた。が、実はそうではない願望があることに気づいた。
「オレはもっときちんと動いてくれる部下が欲しい。あのボンクラどもは思ったように動いてくれねぇ。一発当てて、もっと自由な生活をしてみてぇ。そうか、一発当るってのが爆発で、自由な生活ってのがスッキリ感か。そう考えるとオレが望んでいる味って言えるかな」
自分で言いながら納得してしまった。
「なるほど、一発当てたいという願望があるのじゃな。笹口さんも同じようなことを言っておったのぉ」
「はい、俺も佐川と同じようなことを考えていました。まぁ、類は友を呼ぶというか、そういう思いをもった連中とつきあっていましたからね」
「人は鏡じゃのぉ」
「じゃぁ、オレはどうすりゃいいんだ?もっと自由な生活がしたくて、そのためにたくさんのお金が欲しくて今の事業をやっているんだ。その願望を変えろっていうのか?」
「いやいや、願望は変えなくてもよい。そうじゃったな、マスター」
「はい、今の自分を変えようとしなくていいんです。今の自分にプラスになることを付け足せばいいんですよ」
「今の自分に付け足す?」
「はい。人はよく自分を変えたいという願望を持ちます。けれど、何十年も生きてきた自分を変えるというのは、今までの自分というものを否定することになります」
確かにそうだ。だからオレも自分の性格は変えようとは思っていない。
「けれど、今の自分にプラスになることを付け足すのは簡単にできます。例えば、挨拶するときの声を元気なものにする。この程度ならできますよね」
「ま、まぁそのくらいなら」
「そうやって、一つできたらもう一つ、というようにプラスの習慣をつけていくといいんです。そうすると面白いことが起きます。ね、笹口さん」
「マスター、いきなり俺に振りますか?」
そう言いつつ、笹口の顔は笑っていた。
「そうなんだよ。マスターにこれを教わってから、結果的に俺は変わったんだ」
「確かにお前は変わった。じゃぁ、なにをプラスしたんだ?」
「まず、自分が引き寄せてるものは全て、自分が今思っているものそのものだということ。この考え方かな」
「つまり、お金も、物も、人もそうだってことか?」
「あぁ。俺の投資がスランプだったのはそのせいだってこともわかった。俺がアドバイスをもらっていた人たちって、独りよがりでわがままなのが多いんだよ。佐川、お前も含めてな」
まぁ、確かにそこは否めない。
「それは俺の考えや性格がそうだったから。けれど、もうちょっと人に対して思いやりを持ち、人のためにお金を稼いでみようと思ったときに桜島さんと出会った。そして投資の考え方を学んだんだ」
へぇ、桜島のジイさんって投資家だったんだ。
「ふぉっふぉっふぉっ、ワシはプロの投資家から教えてもらったことを笹口さんに伝えただけじゃ。まぁ、ワシもそのおかげで少しだけ儲けさせてもらってはおるがのぉ」
「いやいや、目からウロコの考え方でしたよ。だから、もっと世のため人のためにお金を稼いでいこうと思ったんだ。そうしたら、今度はそういった人たちと出会えるようになってきたんだ」
「笹口はそれで変わった、ということなのか?」
笹口はにこやかに首を縦に振った。
「考え方を変えるだけで、そんなにいろいろと変わるものなのか…」
確かに、オレの周りには自分のことだけしか考えないヤツらが多い。暗号通過の話を持ってきたオレオレ詐欺の井島がいい例だ。あいつはオレらを儲けさせると言いながら、結局は自分の儲けのために動いている。他の連中も、金のことになると目の色を変える奴らばかり。
「じゃ、じゃぁよ、オレも笹口みたいになるなら、まずは何からやればいいんだ?」
「その答えをシェリー・ブレンドに聞いてみるのはいかがですか?」
マスターがにこやかにそう答える。そうか、こいつは今欲しいものの味がするんだったな。オレは早速残ったコーヒーを一気に口に流し込んだ。
さて、どんな味がするんだ?
「んっ、な、なんだ、これ?」
驚いた。今までにない甘い感じ。すごくマイルドな風味。体の力が抜けていく。そして自然と笑顔になる。一言で言えば「やさしさ」、これが思い浮かんだ。
「お味はいかがでしたか?」
気がつくとマスター、笹口、そして桜島のジイさんがオレの方を興味深そうに注目している。
「そ、そうだな。一言で言えば『やさしさ』って感じかな。甘い味がした」
やさしさ、自分でそう口にするとなんだか気恥ずかしさを感じた。今までそんなこと考えたこともなかった。
「なるほど、やさしさとはのぉ。で、どうじゃ。それを実行できそうかな?」
桜島のジイさんにそう言われると、なんとなくやらなきゃいけないという気になる。このジイさん、考えてみると只者じゃないな。
「やらなきゃオレは笹口みたいにはなれねぇんだろう。だったらやるしかねぇな」
「では、具体的にどんなやさしさから始めてみるかな?」
「そうだな、まずは部下にもうちょっと優しく接してみるか」
「ほう、部下にのぉ。どんな感じで接するのかな?」
「うぅん、いつも怒鳴ってばっかだったから。たまにはねぎらいの言葉でもかけてやるか」
「たまには、じゃなくて頻繁にかけてあげなきゃ。でしたよね、桜島さん」
笹口から横やりが入った。桜島のジイさん、ニコニコしながらうなずく。
「わかったよ。頻繁にねぎらいの言葉をかける、だな。あ、どうせなら差し入れでもするか」
このとき、ふと入口付近に置いてあったクッキーが目に入った。
「マスター、あとからあのクッキーを差し入れに買って帰るわ」
「ありがとうございます。ぜひみなさんで召し上がってください」
さて、あいつらどんな顔をするかな。ふと頭のなかでクッキーを渡す場面を想像してしまった。
「佐川さん、なんかうれしそうですね」
笹口からそんなふうに言われた。あれ、オレ、今どんな顔をしてたんだ?
「ふぉっふぉっふぉっ、佐川さん、とてもよい笑顔しとるじゃないか。うむ、それでよい、それで。笑顔は福を呼ぶものじゃぞ」
どうやらオレは、クッキーを渡す場面を想像して笑っていたようだ。ちょっと恥ずかしかったが悪い気はしない。いや、むしろ早く帰ってあいつらの喜ぶ顔を見てみたいという気になった。
「よし、じゃぁ早速あいつらにクッキーを渡すとするか。笹口、マスター、そして桜島さん、いろいろとありがとうございました。あ、クッキーも合わせていくらになる?」
「よいよい、今日は佐川さんの大いなる気付きに対して、ワシがご褒美をさしあげよう。ここはワシが払っておくわい」
「いやいや、そんなことまでされなくても…」
「佐川さん、こういうときは素直にありがたく受け取るものですよ。その方がお互いに気持ちがいいでしょう」
なるほど、こういう人たちはお互いに与えあっていくものなんだな。
「じゃぁ、今回はありがたくうけとります」
こうしてオレはカフェ・シェリーをあとにした。来たときよりもなんだか心が弾んでいる。ウキウキしている。とても気持ちがいい。
それは今、手にしたおみやげのクッキーのおかげでもある。あいつら、どんな顔するかな?
「ただいま」
事務所に戻ると、伊東と高橋が暗い顔をして待っていた。それにつられて、事務の斎藤も冴えない顔をしている。
「今日はごくろうさん。みんなにおみやげ買ってきたぞ」
そう言ってクッキーを差し出す。
「みんなで食べようや。あ、斎藤さん、コーヒーをいれてくれるかな?」
三人とも、なぜだかキョトンとした顔をしている。
「あ、は、はい、わかりました」
斎藤さんがワンテンポ遅れて、ようやく動き出した。それと同時に伊東と高橋がオレの前にやってくる。
「佐川さん、すいませんでした。会計ソフト、売れませんでした」
ビビって報告する二人。いつものオレならここで「バカヤロウ!」と怒鳴るところ。だが、わかっている。そんなことをするよりも、今はねぎらいの言葉をかけたほうがいいことを。
「わかった。今回は仕方ない。というより、オレもちょっと方針を変更しないといけないと思ったんだ」
オレの言葉に目を丸くする二人。
「あ、はい。次はがんばります」
高橋があっけにとられながらそう答える。ここでオレはひらめいた。
「あのさぁ、お客さんが望んでいるものって、どういうものだと思う?」
「そ、そうですね。やはり言われているのはクラウドタイプで、月額料金が安いものを望んでいます。今のウチの会計ソフトは導入金額が高い上に、年会費をドンと取られるので高いイメージがあるようです」
「なるほど、高いイメージか…」
さて、これをどうすればいいか。今はすぐにひらめかない。けれどオレには勝算がある。明日にでもまた、カフェ・シェリーに足を運ぼう。そこで答えを探してみることにしよう。
「コーヒー入りました」
「おっ、きたきた。じゃぁ早速みんなでクッキーを食べよう」
オレがにこやかにそう言うものだから、さらに連中はびっくりした顔をしている。とりあえずみんなでクッキーをいただくことにした。
「んっ、これおいしいっ!」
そう言ったのは事務の斎藤。続けて伊東も高橋もおいしいを口にした。オレも食べてみたが、確かにこいつはうまい。今まで味わったことのない味だ。なんというか、笑顔が湧いてくる感じがする。
「佐川さん、一つひらめいたことがあるんですけど」
クッキーを食べながら伊東がそんなことを言い出した。
「なんだ、聞かせてくれ」
「今のソフト、クラウド対応はさすがに無理ですけど。年額支払いを月額支払いに変えてみてはどうですか?うちの会社としての手間はちょっとかかるけれど、実は月額支払にするとよそのクラウド型の料金よりもちょっとだけ安いんですよね」
ここでちょっと前のオレだったら、きっとこう答えただろう。
「バカヤロウ、うちの手間をわざわざ増やすなんてめんどくさいことできるか!」
だが、今のオレは違う。まずはやさしさ。あのシェリー・ブレンドの甘い味が口の中で思い出されていた。
「そうだな、もうちょっと具体的にその話、考えてみようか」
すると、事務の斎藤さんがこんなことを発言した。
「私、それ賛成!めんどくさいって言っても、料金はクレジットカードから自動的に支払うようにすればいいだけだし。うちの会社がちょっとだけメーカーへの年払いの肩代わりをすればいいだけでしょ。やることは同じなんだから、その方がお客さん喜ぶし」
「僕もそれなら売りやすいです。今まで、一括の年払いの料金が結構ネックだったんですよね」
なるほど、そうだったのか。そいつは知らなかった。
そこからトントン拍子に、会計ソフト以外にも手がけている事業のアイデアがみんなの口から飛び出し始めた。そして驚いた。こいつら、今まで使えねぇやつだと思っていたが、意外や意外、そうでもないじゃないか。
というか、今までオレがこいつらの意見を聞こうとせずに、一人で勝手にいろいろと決めていたんだ。それが、オレがちょっとだけ視点を変えて態度を改めただけで、こんなにも化けるとは。これには本当に驚いた。
「じゃぁよ、今まで出したアイデアを誰か企画書にまとめてくれねぇか。ちょっと本格的に面白くなりそうだ」
「じゃぁ、僕がそれやります」
営業の高橋がすぐに手を挙げて名乗りを上げた。
「私も手伝います。高橋さん、一緒にやりましょう」
伊東もやる気になっている。こりゃオレもうかうかしてられねぇな。オレオレ詐欺の井島の話よりもおもしろくなってきやがった。
こんな感じでオフィスは急に賑やかになってきた。なんだか今までと違う空気感がある。
ここで思った。そうか、この空気感をもたらしたのはオレ自身。オレがカフェ・シェリーで体験し、感じたことをそのまま行動に移しただけ。オレがやることは、たったそれだけでいいんだ。
こうしてうちの会社はいい感じでよみがえった。どんよりとした雰囲気から一転、急に活気づいてきた。
数日後、オレは高橋と伊東を連れてカフェ・シェリーを訪れた。
カラン・コロン・カラン
心地よいカウベルの音。同時に聞こえてくる「いらっしゃいませ」の声。そしてコーヒーと甘いクッキーの香りがオレたちを包み込んでくれる。
「あ、先日の…佐川さん、でしたよね」
マスターがにこやかに対応してくれる。
「おかげさまで、あの日からうちの会社が大きく変わりました。私の気持ち一つでこんなにも変化があるなんて驚きでしたよ」
「それはよかった。人は鏡、自分の考え方が周りに影響を与えます。そして引き寄せる人たちも変わってきます。あ、真ん中のテーブル席が空いているのでそちらにどうぞ」
早速マスターからありがたい言葉をいただいた。まさにそうだと感じている。全ての現象は自分からスタートしているんだな。だから、オレが怒りの感情でいれば、周りにもその空気は伝染する。だから今まで業績が上がらなかったんだ。
「いらっしゃいませ」
マイさんが注文を取りにやってきた。すると、高橋と伊東の目の色が変わった。二人ともマイさんの可愛さに釘付けだ。
「シェリー・ブレンドを三つ、お願いします」
「はい、シェリー・ブレンドを三つですね」
ニコリと笑うマイさん。オレはこれでわかった、このお店がとても居心地がいい理由が。
マイさんもマスターも、いつもにこやかに笑っている。そうか、それでこのお店に入ると、なんとなくホッとしてにこやかになれるのか。うちの会社も、そしてお客さんも、こんな感じになれるといいな。
ということは、まずはオレがマスターやマイさんみたいにならないといけないってことか。オレがまずはいつも笑っているようにしなきゃいけねぇんだな。
「佐川さん、あの人、彼氏いるんですかね?」
「ん、マイさんか?さすがにそれはわからねぇけどなぁ…」
オレがこのお店の常連になって、マイさんがマスターの奥さんであることを知るのはまた後の話。高橋も伊東も、今はマイさんの姿を見るだけで喜んでいる。ま、これだけでもこの店に連れてきた甲斐があったというものかな。
にしても、今回のことで勉強させられたな。自分が変われば周りも変わる。周りの人間は自分の今を映し出す鏡。望む人たちで周りを囲みたければ、まずは自分がそんな存在になれ。これを肝に銘じて生きていくとするか。
<お前が悪い! 完>