表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

8幽かな音、幽かな景色、微かな光、幽かで微かな記憶

「うーん。むにゃむにゃあ。って、もう七時半!今日は早起きして実験したかったのに~。」

私は慌てて着替え始める。


「マリー様。おはようございます。ごはん、ちょっと冷めていますが、大丈夫でしょう。」

そういうのは従者のリーク。

私は寝坊した分の遅れを取り戻すために急いでご飯を食べる。

今日の実験は水を液体のまま丸くする…あ、薬品こぼれた。

ボッカーン!!

さあ、気を取り直して

「マリー様。お茶です。」

「…?ああ、お茶ね。ありがとう。」

「それでついでに聞きたいことがあるのですが…。」

「構わないわ。」

お茶を持ってきてくれたのはニス。何やら相談があるようだ。

「昨晩私は夢を見たのですが…。ぼんやりと何かが見えたのです。ランプとか、レンガの建物とか。それがたくさんあったんです。あとは木とかがちょっと。それでとてもまぶしいのです。上の方が青くて白いふわふわがあって。あと私みたいな人間がたくさん。動物は全然いない。これってどこなんでしょうか。」

ニスが言った。

「へえ。それはきっと、街ね。」

「ま…ちぃ…?」

ニスは街が何か分からないようだ。

「街は人間と家がたくさんある地域、だと思うわ。私も良く知らないのよ。」

私はこういった。

「じゃあなんでこんな夢見たのかなあ。」

ニスがつぶやく。

「きっと、あなたの故郷じゃない?小さいころの記憶が夢になったのよ。」

私が言った。

「でも、本当に微かで…幽かで…。」

「いくら音が幽かでも、いくら景色が幽かでも、いくら光が微かでも、あなたの記憶は消えない。きっと、心でずっと残ってる。」

私はにっこり笑った。ニスも少し笑顔になった。

やっぱりかわいい。最初の見つけた時からかわいい子だなと思っていたが、立派になった。

それでいて、後ろめたい。この子は街にいれば、幸せだったんだろう。

せめて養子にでも、いや、なんだかんだこの館に人間はいる。そんなにたくさん里親を見つけられない。

「そうか…そう、消えない。消えないの?」

「ええ。消えないわ。」

「…っ!す、すいません!無礼でした!こんななれなれしい感じに…。」

ニスが慌てて謝る。

「いいのよ。うふふ。」

「では業務に戻ります。」

「頑張ってねー。」

私はニスの頭をなでる。

ニスはポカーンとしている。

こんなことされたことがないんだろうな。可哀想に。

そして小さな従者は部屋を出ていった。

なんだかんだ言って私は労働させてるんじゃないか、と考える時がある。

いっそ家族にしてしまえばよかったんじゃないか。

本当にあなたは幸せ?

あの子を見ているとかわいい子供が出来たように感じるのに、あの子は働いている。

記憶、ね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ