第八話 四神獣 東
ディル達が次に向かうのは、“東岩の神獣”ココリリスが住む岩山、ココスである。
「よし、もう着いたぞ」
「やっぱり速くないか?」
国を跨ぐ程の距離を一瞬で移動するのは、やはり奇妙に思えてしまう。
「ココリリス、いるか?」
そうアルフェールが呼ぶと、岩山の頂上にあった大きな岩が動き出した。
「む? 誰かと思えばアル坊ではないか。ワシに何か用か?」
その正体は、巨大な岩を背負っている鶏のような鳥であった。そしてディルは、このことについて思うところがあるようだ。
(アルといい、フォルテシアさんといい、なんで鳥類ばかりなんだ!? この流れで行くとまさか南の神獣も?)
「つい百年前保護した奴に挨拶させに来た」
「ディルです。よろしくお願いします」
「お前、初対面の相手にはその言葉遣いなのか?」
初対面の人には、無礼がないように敬語を心掛ける癖がまた出てしまっていた。
「ほっほっほっ、それが礼儀と言うものじゃ。アル坊には礼儀が無いからな」
「確かに!」
今までの生活で、アルフェールがディルに礼儀を払っていることが無いことに気づかされ、思わず同意してしまった。
「……」
アルフェールは図星を突かれ、黙り込んだ。
「さて、ディルや、ワシのところへ来た理由はなんぞえ?」
ディルの目的はアルフェール以外の友達を作るためである。しかし、ここで友達になってくださいと言うのは気が引ける。
「えっと…… アルの友達と聞いてどんな感じなのか知りたくて……」
「ほう、ワシのことを知りたいのじゃな? よかろう」
ココリリスは、自分のことを自慢げに話始めた。
「ワシはこう見えて四神獣最高齢じゃ」
「……」
ディルにとってそれは予想できたことである。実際、言葉遣いと多いシワ、長い髭のような物ですぐに予想出来るのだ。
「何じゃ? もう知っているみたいな顔しおって」
勿論、そんなことを知る由もないココリリスは、ディルがただ澄ました顔をしているように見えている。
「むう…… ならば…… ワシは四神獣最高の硬さを持っておる…… これでどうじゃ!」
「……」
これもまた、岩を纏っている分そうだろうなと予想出来たため反応しなかった。それを見て、ココリリスは悔しそうにした。
「な、何じゃ! これまた知っているという顔しおって! ぐぬぬ…… ワシは生きる図書館と言われてる。知識量はこの世で一番じゃぞ!」
「……」
年寄りは経験豊富だと相場が決まっているため、これにも反応しなかった。
「ひどい!! 老人、それに女性には優しくするもんじゃぞ!」
「え?? 女性!!??」
ディルにとってこのことは衝撃的だったので、ついデリカシーも無く驚いてしまった。これを聞いてココリリスは子供のように拗ねた。
「ふん! もういいもん! 見た目が全て物語っているとか、女っぽく見えないとか、そう言われても全然いいんだもん!」
「精神年齢子供か!」
ディルは初対面にも関わらず、声を荒げてツッコミをしてしまった。
「まあ、ココリリスはこういう奴だ」
長年付き合っているアルフェールは、ココリリスの性格はよく知っている。苦労してきたようだ。
すると、ココリリスはディルの持っていた、フォルテシアから貰った証を見ると目の色を変え、落ち着いた。
「むっ、それはフォル嬢の証ではないか。奴に認められるということはそれなりに戦えるのか」
「えっ、いやこれは」
ディルが違うと否定しようとするとココリリスはそれを遮った。
「ワシと戦え! 力を証明せよ! 手加減は無しじゃぞ」
「いや戦うつもりは……」
挨拶に来ただけで戦うことなど予想できるはずも無い。それに、神獣相手には勝負にならないので、出来るなら戦いたくないのがディルの本音だ。
「二言は無いぞ! こい!」
ここでアルフェールが、半ば色々諦めているディルに囁いた。
「……私怨が混ざってるように思えるが……ディル、大丈夫か? 今のお前では手も足も出ないぞ?」
「……当たって砕けろの精神で行ってみる」
「見た目の割になかなか肝が据わっているでないか。面白い」
ココリリスはにまりと笑っている。
「我は審判をやる」
(正直怖いけど、やるしかないか)
ディルはココリリスに向かい、構えた。
「始め!」
この掛け声を合図に、ディルとココリリスの戦いが始まった。