第六話 結界
アルによる魔法の訓練が始まった。
魔力を一カ所に集めたりするだけの基本魔法は簡単に習得出来たが、問題は本命である結界魔法であった。
それもそのはず、結界魔法は属性魔法らと勝手が違い、自然現象を記憶させる方法は使えず、一から形作らないといけない。
しかも、属性魔法はある程度形が崩れても問題無いが、結界魔法はそうはいかないのだ。
結界魔法は高難度な為、先に属性魔法で感覚を掴む練習をしなくてはならないが、ディルは属性魔法は使えず、それしか使えないのでその方法は使えない。
それが、ディルの結界魔法の習得が難航している一番の理由だ。
「こうか? いやダメだ…… 形が崩れてしまう…… 渡された魔法式も意味不明だし……」
「ちなみに巷では結界魔法は一番難しい魔法扱いだな。それでいて地味だから余り人気は無い」
「だろうな」
「さてと…… 再開するか……」
(魔力の形が不安定だから固めるときにどうしても崩れるな………… いや、待てよ…… 型を作っちゃえばいいんじゃね?)
「何か掴んだようだな」
「ああ、やってみる」
そう言い、ディルは先程思いついたやり方を実践してみることにした。
まず、土で空間を四方で囲む壁を作り、その型に詰める感覚で魔力を出して固めた。そして、周りの土壁を崩すと、透明な壁が出来上がっていた。
「出来た!」
ディルは嬉しそうに跳ねながら、出来上がった結界を小突いていた。
「うむ、これが結界魔法だな。この形は第一階級の壁結界か。強度については…… 初めてにしては上等だな」
アルフェールはその結界を観察し、そのあと何度か叩いてから破壊した。
せっかく苦労して完成した物が、すぐに壊されたことでディルは名残惜しそうにしたが、すぐにアルフェールの発言の方に興味が移った。
「なあ、その第一階級ってどれくらいのものなんだ?」
「第一階級は練習すれば誰でも習得できるな。第十階級までも練習次第だ」
ただかなりの練習量と時間が要求される。しかし、不老のディルにはその心配は無い。
「そうなのか。案外楽なんだな」
「いや、これはあくまでも基本の形だからだ。大衆向けで、どんなに才能が無くともできる最低ラインが第十階級だからな。
それ以上の話まで行くと才能が必要となる。実際そんなことができる人間は一握りだ」
世間で大魔法使いやら、賢者やら呼ばれる存在がこれに該当する。
「なるほど…… 才能か…… あと思ったんだけどさ、なんでアルは人間のことに詳しいんだ?」
「伊達に長生きしていないからな。前にも言ったが人間は我の友と合わせて我を神格化している。だから耳に様々な情報が入ってくるのだ。」
主に、信仰の為に山に上って来る人の話と、捧げ物の書物によるものだ。
このことを聞いて、ディルは大層驚き、驚愕した。
「アルって友達いたんだ!」
ぼっち仲間だと思っていたようである。
「我が友がいないと思っていたのか」
こんな鬼畜無愛想に友達なんて出来ると思うかと、ディルは口に出そうとしたが、その寸前のところで押し止めた。
代わりに、そんな友達がどのような奴なのかと興味が湧いた。
「会ってみたい!」
「それはいいがお前が結界魔法を完璧に扱えるようになってからな」
「うぇっ……」
そこからディルは九十年間の間、結界魔法を地道に練習し、ついに第十階級までマスターした。
これが普通の人であった場合、人生のほぼ全ての時間を結界魔法に費やした、さながら結界魔法の仙人だが、ディルの見た目は幼女よりの少女であるためとてもそうには見えない。
それから戦闘訓練も並行していたが、さすがに何年も同じナイフを使う訳にはいかないため、ディルは魔物の骨などをナイフに加工し、使っていた。
ただ、ディルの日本人的な、安全なところから攻撃したいという性格上、近距離必至なナイフは余り向いていないと考え、他の武器を作ろうとした。
……が、そもそもその武器の見本が無いとどうしようもないことが判明した。
それでいて、せっかく作ったナイフがもったいないというディルの貧乏癖や、何十年間も使い続けた武器を替え、それで戦えなくなる訳にはいかないという武器の馴れの問題もあり、諦めてナイフを使うことにした。
「どうしたらいいんだ……」
「投げる、というのはどうだ?」
「それだ!!!」
アルフェールの提案により、投げナイフを使うことにした。ちょうど作り置きが大量に余っていたため、気兼ね無く投げることが出来た。
最初は上手く狙っている方へ飛ばずによくナイフを紛失していたが、基本魔法の『衝撃波』や、『反射結界』を使って機動を変えたり、投げたナイフを手元に戻したり出来ることを発見したため消費が押さえられ、数をこなしているうちに命中率も上がってきた。
それと、ディルは散々受け続けたアルフェールの殺気を真似することが出来た。どんどん激烈になっていく攻撃に対抗する為に、こちらも殺す気でいかねばならないと、殺気を受け返すようにしていたらいつのまにかそうなっていたのだ。
そんなこんなで、ディルは約束していたアルフェールの友達と会いに行くことになった。
結界魔法の第十階級魔法まで
第一階級魔法 壁結界
任意の場所に長方形型で厚めの結界が具現化される。
第二階級魔法 球結界
自分を中心として、周りに半球形で薄めの結界が具現化される。
第三階級魔法 重結界
壁結界や球結界の上に、さらに結界を被せる。どちらか片方が割れるまでもう片方は割れない。
第四階級魔法 変形結界
鋭利な物から複雑な形まで、様々な形に結界を変形させることが出来る。
第五階級魔法 衝撃結界
触れた物をはじき飛ばす結界が、球結界のように具現化される。
第六階級魔法 反射結界
触れた魔法を跳ね返す結界が、球結界のように具現化される。
第七階級魔法 捕縛結界
目標の周りに結界を出し、そのまま締め付け拘束する。
第八階級魔法 隠蔽結界
中にいると周りから見えなくなり、中からの音や光が外に漏れない結界が球結界のように具現化される。
第九階級魔法 防膜結界
体に張り付くように結界を出す。体の動きに合わせて動くが、そのために極限まで薄くした為強度が低い。
第十階級魔法 隔離結界
自分と目標との間に結界を具現化させ、隔離する。その結界はどちらかが動こうとも、自分と目標との間に存在し続ける。