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再生の結界師  作者: A
第一章
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第三話 山の支配者

「はあ……」


 少女はため息をついた。理由は喉が渇き、空腹になり、挙げ句の果てには眠気があるということに悩まされていたからであった。

 特に喉の渇きは深刻で、水場を離れたことを後悔していた。そして食糧や寝床も確保しないといけないという課題もある。


(……憂鬱だ、サバイバルはこんな厳しいものなのか)


 少女は一度あの場所へ戻ることも考えたが、今行っても獣の餌食になるに決まっている。しかしこのままうろうろしていても獣の餌食になるだろう。

 もうどうしようもないなと、少女がそう思ったとき、目の前に化け物が表れた。

 

(は? え? ………………… ややややややばいやばいどうしよどうしろってんだ)


 その化け物は、かの有名な架空の生物のグリフォンに類似している。少女もそれが何なのかという知識はあったため、死を覚悟……は出来ていなかった。

 そのため軽く絶望していると、そのグリフォン(仮)が口を開いた。


「お前は誰だ?」


「へ?」


 少女は襲われると思っていたため、いきなりの問い掛けに戸惑いを隠しきれないでいた。


 そして少女は気付いていないが、このグリフォン(仮)は元々この世界の人間の言語で話している。つまり人とコミュニケーションがとれるのたが、日本語は話せない。

 なら何故、元日本人である少女がこの言葉を理解しているのか。それは、管理者が自動翻訳機能を少女につけていたからだ。


「お前は誰かと聞いている」


「いや、えーあのーその……」


 少女は今自分が何に値するのかが分からず、口ごもった。


「自分が誰か分からないのか?」


「あー…… まあ…… 気づいたらここに……」


 少女は管理者とのことを話すか迷ったが、流石に信じられるとは思っていないのではぐらかした。そして少女は何故自分の名を聞こうとしているのかという疑問を持った。


「あの…… 失礼を承知で聞くんですが…… 何故俺のことを知ろうとしているのですか?」


「それはだな…… 山の中にいきなり魔力の反応が出たからだ。これを怪しまない訳にはいかない」


「あっ、違うんです、別に他意は無いです、あなたを害そうとした訳では無いんです、すいません!」


 少女は自分がこの化け物に疑われていると察し、焦りながらも弁明を始めた。だが、そういうことでは無いようだ。


「いや、別に怒ってはいないんだがな。何故人間は我が神獣というだけで遜ろうとするのだ」


「神獣……?」


 始めて聞いた単語が出てきたので少女は首をかしげた。


「む、神獣を知らないとは…… この世界の常識になっているのだがな…… まあいい、説明する」


 神獣は、太古より世界で八体いる生物の頂点である。この世界の実質的な支配者で、他の生物では到底だどりつけない高みに佇み、世界最強格の実力を持っている。

 その圧倒的な力の前にして人々はひれ伏し、神として崇められるようになった。このような経緯から神の獣、神獣と呼ばれるようになっているのだ。


「へえ」


「で、お前は何が目的だ?」


 少女はまた焦って弁明しようとしたが、取り調べを受けていることでは無いと気付き、正直に話した。


「目的……」


(やっぱり人がいるんだったら人に保護してもらうべきか……)


「人の所に行きたいというのが今のところの目的です」


 自分一人では生きられないということが見に染みて分かったので、人の居るところで安全に生き延びようと考えていた。それに目の前の化け物からさっさと逃げたいという理由もある。


 しかし、その考えはバッサリと切り捨てられることとなった。


「それは無理だな」


「え? なんでだ?」

 

 自分の目的が一蹴された少女は思わず声を荒げてしまった。


「生憎ここの下の人間達は戦争中でな、そこに身元不明の奴がのこのこと現れたらどうなるか分かるよな?」


「なるほど……」


 少女が思い浮かんだのは殺される、拉致られる、奴隷にされるなど生々しいことばかりであった。実際事実ではあるのだが。


「それにその服を見ろ」


「え? あっ……」


 少女はそう言われて自分の服を見ると、ズタズタに引き裂かれていた。狼に裂かれた所から、枝などに引っ掻かり、更に裂かれているのが、今の少女の服の現状だ。


「ということでお前は我が保護する形でよいな?」


「え?」


 突拍子も無い提案に、少女は一瞬固まってしまった。


「不満か?」


「い、いえ、わっ分かりました。あ……、えっとありがとうございます」


 その提案による混乱と、有無を言わさない神獣の圧により戸惑いながらも了承した。


「そんな畏まらなくてもよい。……そうだな、名を知らないと不便だな。我の名は《アルフェール》だ。今後からそう呼べ」


「アル…… フェール…… さん?」


 少女の態度を軟化させようと、神獣──アルフェールは名を呼び合うこととした。


「そしてお前の名も付けさせて貰う」


「え?」


「名が無いのは不便だろう?」


 少女は唐突だなと思ったが、確かにこの世界での名前が無いのは不便なので素直に従うことにした。


「あっ…… はい」


「そうだな…… これからお前の名は《ディル》だ」


 少女改めディルは、神獣、アルフェールと共に暮らすことになった。




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