第五話 どんぐりコロコロ(2)
皆さんは、『もぐら叩き』と言うゲームをご存じだろうか?
一杯ある円形の穴の中から、ややファンシーな半球状の頭を持つ、『モグラ』が不定期に現れ、そして、すぐに引っ込んでしまう。ゲーマーは、柔らかい『ハンマー』を握りしめ、そのモグラを叩く。ひたすら叩いて、得点を稼ぐのである。
はた目には『モグラ叩き』に見えているのだろうなと思いながら、前畑 隆は、その『 穴 』めがけてフライを打ち込んでいた。実際は競技キャスティング種目の『 的当て 』なのだが、なんせ、順番が一定ではない。
時間は少し遡る。
腹が空いてるものの、腹痛怖さに川魚らしき干物に手をだせず(量が少ないこともあり)、空腹を我慢していると、見かねた佐須くんが、「この先に、食料になる魚の猟場がある」と言い、半信半疑で歩いて来た。
いざとなれば、植物の種子でも齧るつもりではあったが、籾を取ったり茹でたり潰して粉にしたり・・・と考えると、道具もない今は面倒くさいので、話に乗っかった訳だ。正確には、調理道具は持たず、ベストとロッドケースに入った釣り具(奇跡的に?竿は無事であった。)と、常備しているナイフとライターと、食塩の小瓶が頼みの綱である。
あたり一面の穀倉地帯?と認識していたが、その所々に残った、『 枯れたミオ筋 』を、おそらく下流側に下っていくと、やや湿地に近い泥地になり、『 ヤチマナコ 』らしき穴が散見され、中には伏流水?が確認出来た。
「やった!水源だ!!」と喜んでいるその眼前に、巨大な半球状モグラのシルエット、しかも頭頂部には、うごめく触手がくっついた、まさに『少し縮んだイソギンチャク』が現れたのだ。
正体を確かめようと近付くと、一気に穴に引っ込む。
佐須くんに問い合わせると、『コビツ』という、どうやら本命の魚(こびつ?小人?ホビット?)らしい。
近付けないならと、遠距離からの『 釣り 』を実施しているのである。
「このイソギンチャクもどき、毛ばりなんかで釣れるの???」と、一抹の不安を覚えながら・・・
・・・・・・毛ばりを打つ(キャストする)、影が引っ込む。 打つ、引っ込む。 打つ、引っ込む・・・」
手が疲れてきて、ふと思った。
「魚影が出てない水面に打ってみよう」と。
穴めがけて打つ。ど真ん中に着水。しばし待つ。
穴の7割以上は奴らが引っ込んだところで、おそらくはまだ「居る」と思われた。問題は、「いつ出る」かだった。 あと、サイズがデカいので、細いリーダー(先糸)が持つかどうかだ。「ここは持久戦だな。」と思ったところで、水面のフライが消し込み、ロッドが満月になった。
「きたっ 来たぞー佐須君っ。」後ろを振り向くと、佐須君は枯れた水苔?を集めて、横でくつろいでいた。
「シュルシュル」と、ラインが数メートル持っていかれた。今は手ごたえはあるものの、なんとか踏みとどまっている。フライフィッシングは本来、余ったフライラインを手で手繰り寄せながら、魚とファイトするものだが、大物の場合は、ラインの余りも全て繰り出して、リールのハンドルを回して対応する。
来たのはいいのだが、テーパー(ド)リーダーの先っぽ、ティペットは細いハリスで、体感で7キロ以上の大物にいつ切られてもおかしくない状況だった。
しかも、相手は穴の中。川の中で掛けたなら、100mぐらいは走られただろうか?
この穴が何処まで続いているのか?曲がっているのか、他の穴と合流しているのか?全く分からないのだ。ラインの太い部分であっても、穴の壁面に擦られたら、いずれは切れてしまう。または大物ということで、身切れや針が伸びて、すっぽ抜けということもあり得る。よしんば魚が弱って浮いて来ても、穴の中なので、ネットで抄う訳にもいかない(ネットはバイクに置いてきてこの世界には無いのだが!)。ゴボウ抜きなどすれば、間違いなくラインが切れてしまうだろう。
確実に、獲物と細い糸でつながっているのが手応えでわかる。が、ランディング(取り込み)の決め手が無かった。未知の魚なので、迂闊にバス持ち(口の中から下あごを掴む)も出来ない。
此処まで考えて、ネガティブイメージが強くなった。
そういえば現実世界の漫画では、釣り揚げたらイモリやオオサンショウウオや亀だったり、いつの間にか壊れた長靴に変わっていたりしていた。パン鯉パターンで大物を釣っても、たいてい数キロまで。下手したら10キロ近い大物、釣れるはずがないんじゃあなかろうか?
佐須君も手伝ってくれず(手伝いようは無いのだが・・・)、もう10分以上は(体感で)竿を支えているのだが、一向に綱引きが終わらない。もう一度振り向くと、横になってTVでも観ているどこかの親父のように見える佐須くんが居た。
そろそろ限界だと思った。フライフックが伸びて、ほんとにすっぽ抜けし、無様に尻餅をついたところを、彼に笑われる様子が脳裏によぎる。そして、急にラインテンションが抜けた時に、信じられない光景が広がった。
「ピチ、ピチ、ピチ」・・・目の前に、頭身の詰まったライギョの様なグレーの塊がうねっていた。大きさでは、軽く自己記録級、種別だと日本記録級でもあった。そもそもこんなサイズは(日本には)まず居ない、黒い斑点がちりばめられ、側線にそってはやや黄色の縦線が走り、頭の先には小指の様なお髭が10本。よく見ると、ビー玉の様な小さい目が付いていた。すかさず佐須くんが飛び起き、水苔を魚に振りまいた。まるで、湯切りしてソースを混ぜたカップ焼きそばに、青のりでも振るように・・・
「・・・佐須くん、ひょっとして、こうなることを予知出来たの?」小さな毛ばりを外しながら、そう聞いてみる。
「予知能力なんて無いですし、我々は釣りなんてしませんよ。」と、マイペースの佐須くん。
「言ったでしょう、ここは猟場の一つなんです。いつもは泥を放り込んで、酸欠で飛び出てくるのを待つんですよ。初めに頭を出していたのも、乾期で水が少なく、穴の中が息苦しいからなんです。」
「なんで、その水苔みたいなものを掛けたの?」
「こうすると、ヌメリが固まって、逃げられなくなるんですよ。一族の知恵です。」
よく聞くと、水苔?自体も食べられるらしい。
何はともあれ、食料確保は成功であった。
とりあえずはそこら辺の石でかまどを組んで、焼いて食べるだけである。既に味はどうでも良いが、普通に考えると、” 泥鰌=おいしい!”であった。手ごろな栗石を探していると、何と、もう既に完成した『石のかまど』を見つける。
「さすがは、佐須君! さ~す~が~わ~佐須くん!! ちゃんとかまどもあるんだね~。ちょっと借りるよ。半身はあげるからね~」と、鼻歌交じりでかまどの中の灰を掻き出す。なんと、燃え残った枯草の中に、新聞らしき紙辺を見つけた。どうやら佐須くん達は、あちらの新聞紙を、火付けに上手く利用しているようだ。
「まさか、そんな親父ギャグが言いたくて、この名前を付けたんじゃないでしょうね~(怒)」少しすねたような佐須くんの声も上の空で、料理の準備を急いだ。
近くに上手い事枯れ枝(たぶん流木)があったので、ナイフで削って竹串の代わりにし、おろした大ドジョウの半身をいくつかの切り身に分けて、近くのきれいな穴の水で軽く洗い、食塩を振ってから枝に刺した。
かまどの栗石の隙間に串を何本か並べ、かき集めた枯草にライターで着火する。枯れ枝の残りを火種に慎重にくべていく。あとは、火が消えないように枯れ枝を追加しながら、遠火でじっくり火を通すだけであった。
手持ちぶたさになり、さっき見つけた新聞紙の燃え残りに目をやった。なんとはなしに日付けに目を向けると、見慣れぬ『令和』の年号が・・・・・・なんじゃこりゃ?
私は叫んだ。「 この世界は、パラレルワールドだったのか~~~!!!」
全部書き終えて、マウスを掴もうとしたら、転がしてしまい、変なスイッチが入ってしまいました。
画像を巻き戻しても、(途中から)真っ白の画面に(泣)。
書き直して編集入れますが、最初の文面とは、似て違ったものに。。。