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お百度詣りをする人なんて俺だけ。

 社内のスピーカーはチャイムを鳴らし、本日の業務終了を告げる。


 俺は片付けを終えてタイムカードを切ると、少し乾いた喉を潤すべく休憩室へと向かった。


「今日も疲れたー」


 会社の自販機の前でうだうだと言いながら、五百円を投入する。


 いくらいなりのおかげでご機嫌なスタートを切っても疲れるものは疲れる。


 カコンと小気味良い音が鳴って冷えた微糖のコーヒーが受け取り口に落下し、俺はしゃがみ込んだ。


「じゃ、私はミルクティーで」


「は?」


 なにやら俺の頭の上で聞こえたかと思えば、ピッと音が頭上から聞こえ、俺は慌てて手を引く。


 その瞬間、もう一度カコンと、いや、俺の缶コーヒーに次の缶が落下してガコンと鈍い音が響いた。


 あぶねえ……。


「なにしやがる阿佐!」


 顔を見なくても分かるその犯行に俺は猛抗議すべく、缶コーヒーとミルクティーを取ってから文句を言いながら立ち上がった。


「なにって、悪戯っすよ。あ、巣山さんご馳走様でーす」


「あげるって言ってないんだが」


 悪びれもせず悪戯を自供して右手を差し出す阿佐に、俺は呆れながらミルクティーを手渡した。


 阿佐は受け取るや否やプルタブを開けてのどを鳴らして飲み始めた。


 俺はお釣りを取り出してポケットにねじ込むと、缶コーヒーのプルタブを開けて飲み始めた。


「美味いっすねえ、先輩のおごりの缶ジュースはまた格別の味わいっす」


「おごるつもりじゃなかったんだがなあ」


 ニコニコの阿佐を尻目に俺はため息をこぼして肩を落とした。


「まあまあ、可愛い後輩におごることが出来て先輩も幸せでしょ。ところで巣山さんはそのまま直帰っすか?」


「いや、今日はちょっと寄りたいところがあるんだ」


「へえ、どこっすか?」


「稲荷神社にちょっとな。御礼参りってやつかな」


「あの縁結びのとこっすね。ケッ、これだからリア充って奴は。あー、甘いですこと。このミルクティーより甘いっすわ」


 俺が稲荷神社に寄ると言うと、縁結びの神社と知ってたであろう阿佐はやさぐれたように唇を尖らせ、ミルクティーを一気に飲み干しゴミ箱に空き缶を勢いよくオーバースローで捨てた。


 察しのいい後輩ですこと。


 俺はやさぐれモードと化した阿佐を見つめて苦笑いを浮かべると、阿佐は天を仰いで唸った。


「あー、私もお賽銭叩いて縁結んでもらおっかなー」


「オススメはお百度詣りだぞ」


「ふっ、巣山さん冗談きついっす。いつの時代の人間っすか? そんなんする人は馬鹿しかいないっすよ」


 愚痴をこぼす阿佐に俺は実体験からのアドバイスを送ると、阿佐は鼻で笑い、俺のやった行為を罵られる。


 思わぬ言葉のナイフが胸に突き刺さったが、まあ、そりゃそうだ。普通はしない。多分、俺しかしない。


「まあ、ほんとに錯乱して頭がおかしくなってどうしようもなくなったらお百度詣りでもしに行くっす」


 言葉の散弾銃かな?


 ダダダッと俺の心を撃ってくるその言葉の弾丸に胸が苦しくなったが、俺は泣くのを我慢した。偉い、俺。


「そ、そろそろ、か、帰ろうか、あはは、あははは」


「巣山さん、どもりまくってどうしたんすか?」


「なななな、なんでもないよ」


 泣くのは我慢したが動揺は我慢する事が出来なかった俺は、怪訝そうに見つめる阿佐にジョイマンみたいに返答しといた。


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