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いつも通りの阿佐。

 今の俺は怪しい人だろう。緩む口角を抑えきれずに俺は機械を動かしながら仕事を着々とこなす。


 朝から気分が良かった。遅刻ギリギリではあったしなんなら朝礼には全然間に合わなかったから課長からは白い目で見られたが、そんな事は些細な事だ。


 朝の貴重な時間をいなりと楽しく過ごす以外に使う程、有意義な時間はあろうか。いや、ない。


「巣山さん! 今日も一段と気合入ってるっすね!」


「うわっ、阿佐か! 尻を撫でるな」


 頑張ってる俺の背後から、阿佐が茶化すように尻を撫でてきた。


 ここが電車なら俺は嬌声をあげてたよ。男でも艶かしくあげてやるよ。


 俺は尻を隠すように手で覆い阿佐に抗議すると、阿佐は悪びれる素振りすら見せずにおっさんのような笑みを浮かべていた。


「いやあ、そこにきゅっと小振りないいケツがあったもので、つい魔がさしたっす」


「お前はおっさんか、セクハラで訴えるぞ。あとケツとか言うな。お尻と言いなさい」


「へいSiri! 巣山さんは本当に嫌がってるっすか?」


「そのSiriじゃない!」


「嫌よ嫌よも好きのうちです」


「Siriはそんな事言わん。って、物真似うますぎないか?」


 セクハラ親父と化した阿佐と漫才のようなやり取りをしながら、お互いにケラケラと笑い合う。


 昨日の告白を断ったから阿佐はどうなるかと思っていたが、意外と大丈夫なようだ。


 ギクシャクするかもしれないと思っていたが、いつも通りに接してくれてありがたく思うと同時に、阿佐のその強さに感心すら覚える。


「んー? どうしたんすか? そんなにまじまじと見つめて。もしかして視姦っすか?」


「誰がするか!」


「なんでっすか! 私が巣山さんの立場ならこんな安産型の良いケツの後輩いたら毎日ジロジロ見るっす!」


「お前は俺をなんだと思ってるんだ。あと、さっきも言ったがお尻と言いなさい」


「へい、Siri」


「それはもういい」


 前言撤回。感心こえて呆れた。


 物凄いパワフルな阿佐の逆セクハラに辟易しながら、ため息をついて機械へ視線を向けた。


「あー、面白かった。さて、巣山さん、本題いいっすか?」


「え、今のところ前菜なの? 俺もうお腹いっぱいなんだけど」


「何言ってるんすか巣山さん。メインディッシュはここからっすよ」


 阿佐はにやにやといやらしい笑みを浮かべて、手を開いて全ての指をいやらしく開いたり閉じたりしている。


 今からが本題なら、一体俺は何をされるんだろうか。



「私考えたんっすけど、巣山さんのプライベートの一番が彼女なら、仕事場の一番は私になろうかなと思ったんすよ。いやー、我ながら天才だと思ったっす」


「……どう言う事? ちょっと理解できない」


「だーかーらー、プライベートの巣山さんをゲットするのはとりあえず諦めたっす。でも、仕事場の巣山さんの一番、つまり右腕っすね。巣山さんの一番頼れる後輩の座をもらうっす。そうすれば職務中と休憩含む最低九時間の巣山さんの一番はゲット出来る方向にシフトチェンジしたんすよ!」


 ……この子は何を言ってるんだろう。


 そんなに年齢は変わらないとは思うが、これがジェネレーションギャップというやつだろうか。


「そ、そうか。まあ、現状一番頼れる後輩はお前だから、一番で良かったな」


 言ってる意味はよく分からないが、得意げな阿佐に若干引きながら満面の苦笑いを浮かべて適当な語彙で褒める。


「まじっすか! やったっす! じゃ、満足したんで戻るっす」


 適当に褒めた事ですら満足したのか、阿佐はくるりと踵を返して持ち場に戻った。


 と、思ったらまたこちらを振り向いた。


「いろいろ気を使ってくれてありがとっす! 今のお言葉で私頑張れるっす」


 特に気を使ったつもりはないが、阿佐が頑張れる事を言えたのならそれは良かったと言うものだ。


 なにせ、一番頼れる後輩だからな。


 俺は少し足取り軽やかな後輩の背中を見てから、また機械へと視線を向けた。


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