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そして、こいをしました

「ようやく思い出したね」


てんこさんは肩で息をするいなりに近寄ると、その震える方にそっと手を置いた。


「わ、妾は……尋に昔助けてもらった。そして、一緒に遊んで一緒に笑って一緒に泣いて、そして、好きになったのじゃ……。妾は、昔から尋の事が好きだったのじゃ……!……うぅ。うえええ……」


いなりはポロポロと大粒の涙を目から零し、その涙を巫女服の裾で拭った。


てんこさんは目を逸らす事なくいなりを見つめていた。その見つめる目はどこか悔いを感じているような、でもどこか優しい目をしていた。


「妾、どうしてあんな事したんだろう。無理矢理尋との縁を結ぼうとしただなんて……」


「いなり、貴女のしようとした事は決して褒められる事ではない。縁結びの神が私利私欲の為に縁を結ぼうだなんて言語道断。だから、貴女の記憶を無くさなければならなかったし、いなりと尋くんに悪いとは思っても、いなりの記憶を無くした事を間違ってないとは思ってる」


泣きじゃくりながら後悔を口にするいなりを諭すようにてんこさんはゆったりと、でも少し厳しい口調でいなりに告げた。


いなりはピクリと身体を震わせるともう一度嗚咽を漏らした。


「でもね、一人前になったいなりに記憶を戻して私が思い出させるまでもなく、尋くんと出会うとは思わなかったけどね」


てんこさんは柔らかい口調に戻して、少し驚いたようにいなりの頭を撫でながら俺を見てにやりと笑った。


「まさか、今時お百度詣りなんてするとは思わなかったよ。しかもよりにもよっていなりのいる神社でするとはね。神様が引き離した恋なのに尋くんは知らず知らずに縁を戻すなんてね。いなりも尋くんも偶然だと思うかもしれないけど、神様が引き離した縁を結んだんだ。どんだけ強固な縁なんだろうね。私も長く生きてるけどこれ程の縁は見た事ない」


てんこさんは嬉しそうに喉を鳴らして笑った。


俺はポカンとてんこさんを見つめ、いなりは鼻を啜りながらその泣き腫らした目でてんこさんを見つめた。


「は、ははうえ、妾、尋が好きじゃ……。今、大好きじゃ……。昔の尋も大好きじゃ……。忘れたくない……」


鼻声で泣きじゃくりながら実母に対して俺への愛を呟くいなりにほんの少しむず痒くなる。


いなりの忘れたくないというその気持ちは嬉しい。


けど、目が覚めたら忘れてしまうんだよ。


俺は泣きじゃくるいなりに追い討ちをかけるべきではないのではと考え込んでその事実を口に出さずに俯いた。


きっとてんこさんも悲しげな顔をしているに違いない。


そう思っててんこさんを見ると、俺の予想とは違い、柔らかな微笑みを浮かべていた。


「もう、大丈夫。理由は……、おっと。朝が来たね。続きはまた今度教えてあげる」


てんこさんが理由を告げる前にぐらりと視界が歪む。


目が覚める時間が来たようだ。


言いたい事、聞きたい事はあるけど……もう……ダメだ。


「尋くん、いなりを思い出してくれてありがとう」


意識が消えていくその刹那、微かにてんこさんの声が聞こえたような気がした。





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