おとこのこのことが
その日はモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、食事を終え、お風呂を終え、ベッドにいなりと横になる。
俺は隣にいるいなりに声をかけた。
「なあ、いなり」
「なんじゃ?」
「手、握って寝てもいいか?」
「ふふ、甘えん坊じゃのう。でも、妾もちょうど握りたいと思ったところじゃ」
いなりに甘えると、いなりは慈愛に満ちた目で微笑んで俺の手を握ってくれた。
モヤモヤとした気持ちが、落ち着くのを感じる。安心させられる。
いなりが握る俺の左手が、じんわりと温かくなるのを感じた。
「おやすみ、いなり」
「うむ、尋おやすみ」
いなりの笑顔を見て目を瞑ると、だんだんとまどろみの中に意識を落としていった。
目が覚めると、また、ひぐらしの鳴く大音量といなり神社。
いつもの夢。
そして、また夢の舞台を鮮明に思い出しててんこさんを探そうとするが、ふと、いつもと違う感触を感じた。
左手がすごく温かい。
そっと視線をその感触へと落とすと、横になっているいなりがすやすやと眠っていた。
いつもと違う夢だ。
異変に驚きつつ、いなりをまじまじと見る。
寝るときはパジャマだったが、今は赤袴の巫女服。てんこさんと一緒だ。
「い、いなりー?」
「ん、んー……尋ー、妾もうちょっと寝るのじゃ……」
恐る恐るいなりを呼びかけると、少しうなって二度寝を要求しそのまま起きる事なく寝息を立てた。
呼びかけて返事をしたし、否定をしていない事からこのいなりは少なくとも本物だろう。
まあ、夢に対して本物っていうのもどうかと思うが。
「ふふふ、尋くんこんにちは」
「!? て、てんこさん? どこから?」
背後から声をかけられ、驚いて振り向くと、てんこさんがにっこりと笑って立っていた。
「私は神様だからね。いつでもどこでと君を驚かせるサプライズを施すよ」
てんこさんはくすくす悪戯っ子のように目を細め、俺はバクバクと早くなった心臓の鼓動を鎮めるように胸に手を当てた。
種も仕掛けもなく、ただ神だから急に現れるなんて言われちゃ信じざるを得ない。
「そんな事より、ワンちゃんを飼ったきっかけ、思い出したね」
「そうですね。でも、いろいろとモヤモヤが残ったんですけど」
「ふふ、そうだと思った。だから娘を呼んだんだ」
てんこさんは俺のモヤモヤを見通していたようだった。むしろ、それを見越していなりを呼んだらしい。
まあ、いつもと違う夢である以上てんこさんが干渉していると考えるのが普通だろう。
「さてと、じゃあいなりにも起きてもらおうかな」
てんこさんは指をパチンと鳴らすと、先程まで眠りついていたいなりは、冷水に突き落とされたかのように目をぱっちりと開いて身体を起こした。
「な、なんじゃ? え? ここどこ? 尋? ……え? お母様? どうしてここに? え?」
起こされたいなりは、状況を理解できずにパニックになりつつ、クエスチョンマークを頭に浮かべているのが安易に想像できる。
そんなパニックの中、いなりは俺とてんこさんに気付いた。
「おはよういなり。どうしてここにいるのか、今から説明してあげる。いなりにも、そして、尋くんにも」
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