記憶はいずこへ?
いなりのその反応は、本当に知らないかのようなそんな反応だった。
いなりはきょとんとした顔で俺を見つめている。どうやら冗談ではなく本当にわかっていないようだ。
「いなりと俺は昔あっているはずなんだよ。覚えていないか?」
「ううむ、覚えていないのじゃ……」
いなりは腕を組んで目を瞑りながらうなるが、思い出せないように声を絞るように呟いた。
「昔の話なんだけど、川で溺れた記憶はないか? 犬を助けようとして……」
「川? 犬? うう……ん? むむ……」
いなりは腕を組んで考えこみ唸りだす。だんだんと表情も険しくなってきた。
かなり強烈な思い出のはずなのに忘れているのはどう考えてもおかしいと思うんだが。
まさか人違い?んなわけはないと思うんだけど。
悩むいなりを心配して見つめるが、いなりの表情は一向に晴れる気配がない。
むしろだんだんと顔色が悪くなってきたくらいだ。少し青くなってきたいなりを見て流石に声をかけることにした。
「いなり、どうした? 大丈夫か?」
「……尋すまぬ。思い出そうとすればするほど頭が痛くなってくるのじゃ。なんなんじゃろう、この感じ。川で溺れたなんて、そんな記憶忘れるわけないのじゃ。なのに、なんにも思い出せない……いや、なにかずっと引っかかるのじゃ。なにかあったような、思い出したいような、大切な何かが……」
いなりは少し頭を押さえながら、今の状況を俺に伝える。
覚えていないというよりは記憶がすっぽり抜けてしまっているような状態なのだろうか。
顔色もよくないし、無理に思い出させることはないだろう。むしろ、いなりと会ったことがないというよりはいなりが思い出せない状態であることがわかっただけでも収穫だ。
最近俺が見る夢はいなりと関わる夢ばかりだ。今日の夢でさらになにかがわかるかもしれない。今無理やりいなりの記憶を思い出させることもないだろう。
「わかったよ、ありがとういなり。今思い出せないことがわかっただけでも大丈夫だ。無理して思い出すことないぞ。むしろ思い出そうとしてくれてありがとう」
「ううん、妾が思い出したかったから。むしろ尋との思い出があるはずなのに思い出せないのが悲しくて苦しいくらいじゃ」
いなりは弱弱しく笑って、残念そうにつぶやいた。
やだ、いなりってば健気で可愛い。思い出を思い出せないのが悲しくて苦しいとかいじらしすぎかよ。
しかし、どうして思い出せないんだろう。もどかしいが仕方ない。
どうか今日の夢でなにかがわかればいいんだが……。
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