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自分勝手な告白

「じゃあ、巣山さん、聞きたい事があるので座って欲しいっす」


 応接室に通された俺は、阿佐に促されるまま扉の奥の方のソファに座らされる。


 阿佐は扉に貼られたプレートを空室から使用中へと変更し、扉を閉めて鍵をかけた。


 やばい、なぜかはわからないが退路を断たれてしまった。


 軽い気持ちでいたら軟禁されてしまった件というラノベのタイトルにもありそうな状況に、若干笑顔が引きつった。


「なあ、阿佐。なんで鍵を閉めるんだ?」


「巣山さんを逃がさない為っす」


「そんなヤンデレみたいな事を急に言われると怖いんだけど」


「ふふふふふふ」


 やだ、この子ヤンデレなの?


 肯定も否定もせず、ただ含み笑いをする阿佐に若干恐怖を覚えつつ、俺は姿勢を正して座り直した。


 ふざけるのも楽しいが、あまりふざけて帰る時間が遅くなるのも避けたい。


 俺が姿勢を正すのと同時に阿佐も姿勢を正して、ふざけた雰囲気から一転、真面目な表情になった。


「今回聞きたい事は巣山さんが結婚を考えてる人がいると小耳に挟んだ事っす。それって本当なんすか?」


「……ああ、部長から聞いたのか?」


「ソースは秘密っす。質問に答えて欲しいっす」


「そうだな。以前もちらっと言ったが、彼女というか、婚約者というかがいる」


 阿佐の質問に、俺は包み隠さず答える。


 嘘をついてもしょうがないし、実際信じてもらえなかったから言ってなかっただけで、阿佐が信じてたら普通に言ってた事でもある。


 あまりにもあっさり俺が質問に答えて拍子抜けしたからか、阿佐はポカーンと口を開けていた。


 信じられないものを見るような目は、失礼だと言わざるを得ない。


「……んすか」


「え?」


「なんでなんすか! 巣山さんの癖に!」


 突如、阿佐は立ち上がって俺を指差しとんでもない罵倒をヒステリックに叫ぶ。巣山さんの癖には中々ひどいだろう。


「阿佐、流石にその言い方は良くない」


「言い方なんてどうでもいいっす! 私は……、私は……!」


「阿佐?」


「私は……巣山さんの事が好きっす。入社してから阿佐薬品のボンボン娘じゃなく、一人の人間として、一人の後輩としてたくさん助けてくれた巣山さんが大好きっす。それなのに、あんまりっす」


 阿佐は瞳に涙を溜めてひとしきり怒鳴り散らすと、鍵を開けて扉を開き、応接室から飛び出してしまった。


 あまりの出来事に思考が追いつかず、立ち上がるタイミングが遅れてしまい、阿佐の姿を見失う。


 ……すまん、いなり。今日の帰りはさらに遅れそうだ。


 心の中でいなりに謝罪を漏らしながら、頭の中で阿佐の先程の台詞が繰り返し響く。


 人生で二回目の告白だった。


 阿佐の涙を思い出して胸が痛くなるのを感じる。


 俺は胸元を握り締めて、阿佐が落ち込んだ時に良く行くところを頭に浮かべた。


 あそこに行けばきっといる。根拠はないが、阿佐がいると確信して、俺は走り出した。

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