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おや? 阿佐の様子が。

 本日の作業はつつがなく終了し、残業の心配もない程あっけなく終わっていく。


 あとは実家に帰るだけなんだが、その前にだ。


 俺は片付けをしている阿佐に近付いていった。


 気付く気配はない。黙々と筆記用具を片付けている阿佐の背中にふと悪戯心が芽生えて、そっと息を殺して近づいた。


「わっ!」


「きゃあ!?」


 阿佐らしからぬ高い悲鳴を上げて、阿佐は振り向いた。


 うーむ、ちょっとした罪悪感。もっと野太い声で驚いて、何するんすか! って言われるのを期待していたのだが。


 どことなく今日の阿佐はうわの空だったし、もしかしたら引きずっていたのかもしれない。


「ひ、ひどいっすよ」


「そのなんだ、すまん」


 ちょっぴり涙目の阿佐に謝罪を述べて、頬をかいた。


 真面目に申し訳ないとは思うが、まあ阿佐だからな。反省もちょっとだけだ。


「ちょっと大人しくしてて欲しいっす。終わったら、応接室借りてるのでそこで話したいっす」


「え、応接室借りたの? 大丈夫だったの?」


「今日はお客さんも来てないし打ち合わせもないっすからね。それにほら、私っすから」


 客も打ち合わせもないなら借りれるかと納得したが、阿佐はさらに駄目押しの納得理由を口にした。


 確かに阿佐だったら借りれるよな、なんならパパパワーで。パパパワーなら、新たに阿佐の為だけの応接室とか作りそうだな。と、娘ラブの部長を思い出し苦笑いを浮かべた。


「ちなみに、なんの話をしたいの?」


「……巣山さん、今聞いちゃうっすか? 女子としては今の巣山さんのポイント相当低いっす」


「え、今聞くのってそんなにまずい事?」


「はい。世が世なら、切り捨て御免っす」


「そんな重罪なの!?」


 俺が軽々しく今日のテーマを阿佐に聞いたのは切り捨て御免レベルの重罪らしい。


 逆に何を聞かされるのか不安になってしまう。


 阿佐の今日一日の空元気も相まって、あまり良いお話ではないのだろう。


 軽口を叩いてはいるが、大事な後輩の変化なんてわかる。


「まあ、童貞巣山さんっすかね。仕方ないと思って諦めてやるっす」


「めっちゃ上から目線だな。それに童貞巣山さんって、逆に世が世なら切り捨ててやるわ」


「望むところっす。切り捨てて、ズタズタのミンチにしてやるっす」


 やだ、この子物騒。


 ニヤリと笑って猟奇的な事を言う阿佐に、俺は背筋を冷やした。


 どんだけ闇を抱えてるんだこいつは。


 先程よりもより心配の感情が芽生えて、可哀想なものを見る目で阿佐を見つめる。


 阿佐は俺の視線に気付く事なく黙々と片付けていき、最後にケースのファスナーを閉じた。


「よし、終わりっす。お待たせしたっす。じゃあ、巣山さん、応接室まで行きましょう」


 阿佐は筆記用具の入ったケースを掴んで、くるりと背中を翻す。


 俺はその背中に付いて行き、なんの相談があるのか脳内でシュミレータをはじめた。


 解決できるといいんだけど。阿佐のおかしな様子を振り返りながら、強くそう思った。

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