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一秒チャージ、いなり分

四章開幕です。

 頭の中で今日の夢の内容が繰り返し再生される。


 朝食を食べながらも上の空で、どうしても箸がもたつく。


「尋、どうしたのじゃ? さっきから食べ方が行儀悪いのじゃ」


「ああ、変な夢を見たせいかちょっと寝つきが悪くてな。すまない」


「そうなのか? 無理するんじゃないのじゃぞ?」


 行儀をいなりに注意された俺は、言い訳を言いつつも謝罪して茶碗のご飯を食べきる。


 いなりは、そんな俺を心配そうに見つめた。


「まあ、大丈夫だろう。疲れた時はいなりの写真を見て元気だすから」


「じ、自分で撮っておいて言うのもなんじゃけど、恥ずかしいから言うでない。こっそり見てほしいのじゃ」


 俺は元気の源で元気になるよと告げると、いなりは慌てて注意してくる。


 送った張本人は困ったような声を出しながら、満更でもないようににやけていた。


「心配してくれてありがとうな。今日も頑張るし、頑張れるよ。ご馳走様」


 俺はいなりに感謝を告げて手を合わせた。


 いなりが満足そうに頷いたのを見て、俺も心が満たされる。


 皿を流しに運んで水につけると、洗面所に向かう前にいなりの頭をしれっと撫でてから通っていった。


「……足りないのじゃ」


 ちょっとだけ撫でたのが不服そうないなりは、背中ごしにチクリと呟いていた。


 ……帰ってから撫でてあげよう。


 ご飯の後は歯を磨いて、髪をセットして、着替えて慌ただしく過ぎていく。


 でも、昨日と違っていなりが邪魔をしてこないから比較的スムーズだ。


 スマホ効果だろうか。やっぱり離れてても繋がれてるのは大きいんだろうな。


 俺はスマホの待ち受けにした盛れてるいなりの写真を眺め、元気を補給する。


 ウィダーよりも効率の良いチャージだ。一秒チャージが出来る。さすがいなりだな。


 なんて、相変わらずいなりの事が大好きな俺はニヤニヤしながらスマホをポケットにしまった。


 時間は七時四十分だった。そろそろ出た方が良い時間か。


 俺は行って来ますを告げにダイニングに戻っていくと、いなりが手を大きく広げて立っていた。


 why? なにをしているんだ?


「尋ー? 行って来ますといえばー?」


 なにかの合言葉のようにいなりは言って、唇を尖らせている。


 この時点でピンと来たが、まさかここまで準備万端の受け入れ態勢を整えているとは思わなかった。


 思わず笑いが溢れてしまう。


「むー、なんで笑ってるのじゃ?」


 笑われたのが不服のようで、いなりは不満そうに呟く。


 でもまあ、笑った理由は単純明白だ。


「愛おしいなって思ったからだよ」


 そう言って、いなりを抱き寄せキスをした。


 相変わらず照れる。顔が熱い。


 だけど、毎日したいくらい幸せな時間だ。


 思わずにやけるが、同様にいなりもにやりと笑っている。


 全く、バカップルなもんだ。


「ふふふ、朝の尋分チャージ完了じゃ。妾も家の事頑張るから、尋も頑張って」


 いなりの応援を受けて、俺の元気は百倍どころか千倍だ。アンパンのヒーローですら真っ青にパワーアップしてしまう。


 気合い充分に、俺は仕事へと向かった。


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