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いなりとラインをしたいから

好きな人とラインしたいですよね

 作業着から、着てきたパーカーを腕でまくり、ジーンズに着替えて帰る準備は万端。


 リュックを背負って、定時を少しだけ超えた十八時の時刻でタイムカードを押す。


 よし、今日の業務は終了。お疲れ、俺。


 いつもであれば、今から帰ってご飯の事を考えないとな。と侘しい気持ちになるのだが、今日からは違う。


 いなりがご飯を作って待ってるかもしれない。


 いなりと何を作るか考えられるかもしれない。


 いなりが家にいると考えるだけでその帰り道は特別になりそうだ。


 そうだ、今から帰るって連絡しよう。


 俺は自分のスマホをポケットからまさぐって、はたと気付いた。


 ……いなりスマホ持ってなくないか?


 これは盲点だった。


 現代日本においては、スマホや携帯などのツールはほとんどの人が持ってて当たり前だからなあ。


 でも、良い機会だしいなりにスマホ持ってもらった方がいいかもしれん。


 むしろ持って欲しい。いなりとラインしたい。


 考え始めるといなりとやりとりしたい欲求が高まって止まらない。


 絶対にやけちゃうよな。なんてニヤニヤしてしまう。


「巣山さん? どしたんすか? めっちゃ気持ち悪い顔して……」


 どうやら、俺がタイムカードの前でうだうだしてる間に阿佐も帰り支度を完了したようだ。


 スポーツブランドの白いTシャツと、黒いスキニーという爽やかなファッションに身を包んだ阿佐が、爽やかとは程遠いドン引きした顔で俺を見ていた。


 失礼な。


「いや、ちょっとやりたい事が出てきたのさ。そうだ、阿佐はスマホ二台持ちだったっけ?」


「え? そうっすけど、なんなんすか?」


 ドン引きされているが、俺はめげずに阿佐に質問する。


 ちょうど聞きたかった事を聞ける。ありがたい。


「それってどうしてるんだ? 格安シムとかってやつ?」


「そうっす。私は仕事とプライベートは分けたい派なので。もちろん巣山さんはプライベートに登録してるっす」


「いや、俺は会社の先輩なんだが……。まあいいや。その格安シムって、すぐ出来るの?」


「通話しなけりゃ即日っすよ。今やラインでも電話出来るから金かけて電話するよりも安上がりっす。シムカードを買って、スマホにさせばそれだけで使えるっす」


 阿佐のおかげで、目当ての情報を集める事が出来た。


 なんだったら、今日中に出来そうじゃないか。


 これで、いなりとラインが出来る! ふふふ。


「……巣山さん、ほんと気持ち悪いっすよ」


「き、気持ち悪いとは失敬だな。こんなにも爽やかな笑顔の青年に向かって」


「鏡見るっすか? 確か鞄に……」


「ごめんなさい! そこまでしなくていいから!」


 俺の笑顔をドン引きする阿佐に、異議を唱えるものの、速攻でカウンターをくらう。


 阿佐が自身のハンドバッグを漁ろうとした瞬間、頭を下げて止めるように説得。


 その変わり身の早さは実に二秒。社会人として鍛えられただけはある。


「ちゃんと認めたらいいんすよ。……それより、巣山さんも二台持ちでもするんすか?」


「ん? いや、安くするのを検討しただけだよ」


 本当はいなりの為だが、言ったところで信じてはもらえないだろう。


 阿佐とは仕事中の件もあったから適当に誤魔化す。


 阿佐はふーんと興味なさそうに相槌を打った。


「まあ、電気屋さんで相談したらいいと思うっすよ。困ったらラインしてくれてもいいっす」


「……俺、はじめて阿佐が頼りになるって思ったかもしれん」


「ええ、今っすか? 仕事の時もほら、頼れるでしょう?」


「うーん、思い出せんなあ」


「そ、そんなあ……」


 本当に役に立った。ありがとう。と言いたいところだがこいつは調子に乗るので絶対口には出さない。


 明日もまたジュースでも奢ってやるか。


 素直ではない感謝を心の中で思いながら俺と阿佐は帰路に着く。


 阿佐と別れたら電気屋に直行だ、と密かな野望も胸に秘めて。



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