後輩は信じない
ちょっとテンポを良くしてみました。
株式会社阿佐薬品。ここが、俺の勤める製薬会社である。
規模としては二百人程度の工場で、俺は作った物を包装する工程で作業する作業員だ。
俺は帽子を被り作業着に身を包んだ俺は、機械のボタンを動かし、ただ包まれていく製品を眺めて書類に問題がない記録を取る。
いつも通りの単調な作業。だが、今日の俺のやる気はひと味もふた味も違う。
頑張ろうと思う目的があればこんなにも違うのかと、ただただ自分を褒めたい。
「巣山さん! 今日は一段と気合い入ってるっすね!」
夢中で仕事をする俺を茶化すかのように、後輩である阿佐 橙子が俺の背中を叩いた。
帽子の中に髪を入れる規定だが、ルーズに少し茶髪をはみ出させて、その大きな瞳で俺をニコニコ見つめている。
はあ、注意しないとだな。
「阿佐、髪出てる。直せよ。あと、俺はいつでも気合い入ってるぞ。語弊がある言い方はやめろ」
「えー! 絶対嘘っす! 巣山さんいっつも帰りたいって言いながら作業してるじゃないっすか!」
背中をさすりつつ阿佐を咎めたが、阿佐はケラケラ笑って俺の言い分を否定する。
先輩なんだが、なめられてるよなあ。
だがまあ、素直に髪を直したあたりいけない事はきちんと正す根は真面目な奴なんだよなあ。
「俺はな、生まれ変わったんだ。これからの俺はニュー巣山だ」
「へー! 巣山さんが生まれ変わったんっすか! 良い事でもあったんすかー? 彼女でも出来たとか」
右城はニヤニヤ半笑いで口元を押さえながらバカにするような目線で俺を見つめる。
どうせ、こいつにはそんなん出来ないだろう。みたいなそんな目だ。
「出来たよ」
「またまたー! 冗談きついっすよー!」
阿佐は俺の肩をバシバシ叩いてケラケラ笑う。
全くもって信じてはないご様子。
本当に出来たんだけどなあ。なんなら妻が。
「まあ、冗談でも、仕事頑張って偉いっすね! 私も巣山さんに負けないくらい頑張るっす。頑張るからご褒美が欲しいっす」
「頑張るのは当然だろう、社会人として」
「やだー! ご褒美欲しいっす。月曜日なんすから、ご褒美ないと頑張れないっす!」
「……はあ。休憩時間にコーヒーでも奢ってやるよ。だから頑張れ」
「よっしゃ! じゃあ巣山さん、十二時に声かけて欲しいっす!」
「はいはい」
阿佐はご褒美に満足して、ニコニコ手を振って持ち場へと帰って行った。
やれやれ、困った後輩だ。まあ、あれで仕事はちゃんとしてるからな。
俺がいなりのおかげで頑張れてるように、阿佐もご褒美で頑張れるなら先輩としてやってやるか。
嵐のように現れて、嵐のように去って行った後輩の背中を見送ると、俺は手元の書類を眺めて機械のモニターの確認を再開した。
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