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ちいさなおとこのことおんなのこがいました

夢のお話です。昔々の思い出のお話。

 ぼんやりとした視界がどんどんと明瞭なものと変化していき、はっきりと夕暮れの空とひぐらしの声が俺の五感を包む。


 これは……昨日見た夢の続きだろうか。


 起きた時には忘れていたけれど、今はなんとなく思い出せる。


 何かが俺の記憶を呼び起こしているのだろうか。


「やくそく! いつか、わらわをぜったいにむかえにきて!」


「もちろん!」


 小さい頃の俺と、女の子が俺の目の前で指切りをしていた。


 小指を絡ませて、鼻水と涙でぐちゃぐちゃの顔同士で別れを惜しみあってるようだ。


 クソッ、なんなんだ? この女の子は誰なんだ?


 俺はこの子の名前をなんと呼んだんだ?


 思い出そうと頭を抱えるが、その記憶にはもやがかかったかのように思い出すことが出来ない。


「迎えに来たわよ」


「あ、ははうえ……」


 突然現れた赤い袴の巫女服を着ている、目の覚めるような金髪で腰まであるロングヘアの女性が女の子に対して呼びかける。


 その女性の表情は柔和で、優しく目を細めて女の子を見つめていた。


 しかし、どこから現れたんだ?


 どう考えても周りに人はいなかった。俯瞰で見てる俺が気付かなかった。


 この女の子に母と呼ばれたこの人はなんなんだ?


「お別れは済ませたの?」


「うん……。でも、おわかれしたくないのじゃ……」


 女性は、ポンと女の子の頭を撫でながら尋ねて、女の子は悲しそうにグズつく。


 女性は困ったような顔をして、諭すように女の子に言い聞かせる。


「ダメよ。辛いかもしれないけど、貴女にはするべき事がある。それまでは、我慢なさい。……ごめんね、尋くん。辛い思いをさせて」


 女性は女の子に言い聞かせた後、小さい俺の頭に空いてる方の手を乗せて撫でる。


 小さい頃の俺は過呼吸になるほどしゃっくりをして、むせるほど泣いていた。


「でも、いつかきっと会える。きっと縁を結ぶわ。だって、あの子も私も君を気に入ってるからね。きっと迎えに来てあげて。……それまでは、ほんの少しだけお別れ」


 女の人はにっこりと笑みを浮かべて、泣いている小さい俺に語りつつ手をかざした。


 その瞬間、小さい俺は糸が切れたように倒れ、女性が抱え込んだ。


 あんた何してんだ!


 そう叫び声をあげる前に、またしても視界がボヤけて行く。


 クソッ、あんたは一体……誰……だ……?





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 ジリリリと、けたたましい音が俺を眠りから叩き起こす。


 目覚まし時計は七時を告げており、月曜日の悲しさを感じさせる。


 なんか懐かしい夢を見ていたのになあ。と、心の中でぼやいて、目覚まし時計を止める。


 大きな欠伸を一つ。そして、視線を落とす。


 俺の左手にはいなりの右手が繋がれていた。


 ……月曜日も悪くないかもしれない。頑張ろうと思えるのだから。


 いなりの手の温もりを感じて小さく笑みをこぼした。

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