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家族の木  作者: 恋音
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THE FIRST STORY 真一と梨花 < 父の仏像>

僕が遠縁の関係だとわかったとたんに大阪の田原家から頻繁にメールや電話がくるようになった。聡がママに言われて色々な用事を連絡してくる。寒くなったから冬布団を出した方がいい。パジャマはシルクがいいから送った。規則正しい食事をしなさい。ビタミンCのサプリメントを飲みなさい。聡が辟易しているのがわかった。


ある夜、聡から電話がかかってきた。「要はおかんは、また会いたいんや。そっちへおかん連れて行っていい?」「いいけど、ごめん、長い時間とれないんだよ。今ものすごく忙しい。」「おお、最近新聞広告出てるな。また、なんかあるん?」「うん、まあな。」「活躍してるな、うれしいわ。なあ、いっぺん、家に行ってもいい?おかん、兄ちゃんの暮らしぶり凄い心配してんねん。」


「暮らしぶりって、そんなにいいわけないだろうが!」「何ゆうてんの?自虐趣味もあったんか。とにかく都合のいい日おしえてほしいんや。とにかく、ちょっとでも顔見たら、あとは、歌舞伎座へ連れて行ったら、それで得心しよるから。」


とりあえず、食事をするということで僕の部屋に来てもらうことにした。面倒なことになったと思ったが、最初で最後のつもりで了承した。食事はママのお持たせである。僕は、自分の飯を作ることはあるが人に食べさせるほどのものを作る能はなかった。上等のあられとお茶を準備した。恐ろしく緊張したものだ。


当日はママのお持たせの寿司をつまんで、結局ママにお茶を入れてもらっておしゃべりをした。食事が終わると、ママが「暮らしぶりをみて安心しました。落ち着いた暮らしぶりやね。男の一人暮らしとしては上等やわ。聡やったらこうはいけへん。」といわれてホッとした。


「実は、真ちゃんのお父さんからの預かりもんがあるねんよ。落ち着いた暮らしぶりやから渡しても大丈夫と思うわ。」といって、小さな風呂敷包みを出した。風呂敷包みの中には、古いがしっかりした木箱が入っていた。ママは合掌してから、おずおずと箱を開けた。箱の中には小さな仏像が納められていた。


「あんたのお父さんから、私の父が預かったものやねん。あんたのお父さんは、あんたのことが心配で心配でしょうがなかったけど、病気になってからは自由に家から出ることもでけへんかったんよ。私の父が、お家の方へお見舞いに行ったときに、真一に渡してほしいって預かったんがこの仏さんなんよ。」僕も聡も、「ふ~ん」としか言いようがなかった。


「私も、仏像のことはようわからへんから、材質も値段もわからへん。まあ金属やとは思うけど。売って、どのくらいになるもんかもわからへんけど、できたら一緒に暮らしてほしいのよ。この仏さんが、あんたを守りはるから。真ちゃんのお父さんやから」


僕は、「そうですか。そうします。」と答えただけだった。言葉が出なかった。暮らしぶりを見たかったのは、仏像を売り飛ばされないかの確認だった。


ママと聡が帰ってから、僕は、しげしげと仏像を眺めた。僕は母方の仏壇を預かっていた。父の形見をこの仏壇に納めていいものかどうかもわからない。とりあえずは寝室のベッドサイドに置くことにした。守ってもらえるのなら、一番そばにいてほしいと思った。


30年の時を経て、突然に僕の人生に舞い降りてきた、父の思い、血族の人々。この人たちは、僕の人生にどのように影響するのだろう。面倒なしがらみになるのか?力強い味方になるのか?どちらでもないのか?


今は、温かくて温かい、ただ、ただ、温かい血流が体をめぐっていた。

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