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人権ドゥラメンテ  作者: タナカ瑛太
第二章「端末の中の暗殺者」
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第08話「ここは逃げられない戦場だ。いつ攻撃されてもおかしくない」  

夕方、僕が授業を終えて職員室に戻ると戦隊長が自席でクレームの電話に対応していた。いつも通り、戦隊長は戦っていた。どんなクレームも論破し、突っぱねるのがこの学校の校長こと戦隊長のやり方だ。

 相手は、僕が担任から外されたクラスの児童の母親だ。韓国人で以前も戦隊長と教育に関する考え方の違いでで口論になり、最後に戦隊長はこう言い放っていた。

「韓国へ帰れ!」

 およそ学校の責任者とは思えない言動である。

 このように火に油を注いだ結果、クレームの鬼とパワハラの鬼との仁義なき口論は一週間続いた。

 しかし、なぜか僕との相性は悪くなく、僕にクレームを寄せたことはなかった。

 今回の相手も同じである。僕が匿名でその母親に情報をリークしたのだ。内容は、「この学校の戦隊長は指導力不足教員とセクハラ教員の存在を保身のために隠ぺいしている」

というものだった。

 指導力不足というのは無論、僕のことである。セクハラ教員というのは僕の一期下で六年担任のチャラチャラしている上杉教諭兵のことである。彼は体育会系で特に上の人間に対してうまく立ち回ることに長けていた。戦隊長のお気に入りで、若い助教諭兵にセクハラをし、中央司令部まで訴えられたのだが、戦隊長の力でかばわれ、飲み会の出席禁止が言い渡されたものの今も健在である。

 戦隊長を憎み、常に弱みを探している彼女にとってその情報は恰好のエサだった。

 彼女は戦隊長を糾弾しているだろう。そして、僕も上杉教諭兵も明るみに出ることになるだろう。そうなれば僕も無事では済まないかもしれない。だが、あくまで彼女の憎しみは僕や上杉教諭兵でもなく、戦隊長に向いている。

これは賭けだ。自分が巻き添えでも構わないと僕は考えた。失うものなどもはや何もないのだから。

「さっさと韓国へ帰れ!」

 出た。またしてもこの台詞。戦隊長の専門は道徳らしいが、僕はこの男から道徳性などというものを感じたことはない。

 この日、超クレームの鬼と超パワハラの鬼との仁義なき戦争が勃発した。

 

 翌日の早朝、戦隊長へ西方司令部への出頭命令が下った。訴えのあった件について事情聴取をするらしい。中央司令部への出張は中止だろう。とりあえず僕は延命に成功した。だがまだ生き残ったわけではない。

 退庁の時、新美トモエ助教諭兵と一緒になった。

「最近、戦隊長室に呼び出されてたみたいだけど大丈夫?」

彼女は僕より一つ年下だが普通にタメ口をきく。臨時採用の教諭兵だ。そして、チャラい上杉教諭兵のセクハラ相手である。

「別に大丈夫だよ。そういえば戦隊長ってよく見ると髭伯爵に似てるよね。顔を見てると笑いそうになっちゃうよ。たまに」

「余裕だね。私にはそんな余裕ないなぁ〜。」

彼女は肩を竦めて見せた。

「何かあったの?」

「例の事件のことで戦隊長から圧力をかけられてるの」

彼女は臨時採用だ。一般企業での契約社員みたいなものである。一年毎に採用しなおされるので次採用されないように戦隊長が手を回せば事実上簡単にクビに出来る。つくづく最低の男である。

なぜ弱者はこんな理不尽な思いをしなければならないのだろう?自然の摂理と言われればそれまでだが、納得はできなかった。なぜなら自分は生きている。生きている者が生き続けようとすることも自然の摂理だ。だから生きている自分にとって障害となるものであれば排除しようとするのも当然のことである。

「そうなのか」

 僕は『僕で良ければ力になる』と言いたかったが迂闊なことは言えない。

僕等はそれぞれ車に乗り込み退庁した。

 例によって車内でベリーと会話する。

 ここならベリーと会話をしていることが他人に気づかれることはない。

「弱い者は生きてちゃいけないのかね?」

 ふと、そんな言葉をベリーにぶつける。

「エイタ。ここは逃げられない戦場だ。いつ攻撃されてもおかしくない」

 戦場。

 その言葉の意味を噛み締める。

 そうなのかも知れない。

 この世界は戦場だ。

 それも決して逃げることのできない戦場だ。

 何せ、世界全体がそうなのだから逃げようがない。

 この世界が戦場ならば、生きることは戦うこと。

 しかし、僕はあまりにも無力だ。

生きることは戦うこと。無力さを痛感したエイタの次の行動は?

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