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人権ドゥラメンテ  作者: タナカ瑛太
第十二章「今、刃を携えて」
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第70話「人間だ。だけど、人間である前に生物だ。だから生き残るためなら何でもする」  

今度の絵は、路上で生活する数人の男たちが描かれていた。場所は河原の橋の下のようだった。後ろには段ボールなど様々な廃材で形成された住まいがあった。

「これは人間の繁栄に必要ない者が淘汰された結果だ。彼等が路上生活で健康を害して滅ぶことにより、人類は前進する。現代に対応した力のある者だけが遺伝子を次代に伝えることで人類は進化していくのだ」

 木材谷マサオミの言葉に僕の頭は沸騰するかと思いきや、冷静に彼の価値を吟味していた。

 この人工知能は人類に必要かどうか。

 弱い者、つまり、人の役に立てる力のない者は制裁を受けるべきなのだろうか?

 生きていくことで人類の足を引っ張るお荷物なのだろうか?

 制裁や淘汰を繰り返していくとどうなるのか?

 本当に人類はそれで進化していくのか?

 そもそも進化していかなければならないのか?

 人類の歴史が始まってからかなりの時間が過ぎているが、ここ三十年程度で急激に生活が変化している。心も体も狩猟生活をしていた頃と殆ど変化がないというのに。

それに合わせなければいけないということなのか?

 でも僕は弱者だ。

 だからといって淘汰されるのも戦死するのも嫌だ。

 それを肯定する世界も嫌だ。

 弱者でも生きていていいはずだ。

 僕は甘いのか?

 自然界は弱肉強食だから、人間もそうするのが当たり前なのか?

 全ての人が平等であるというのは幻想なのか?

 でも、僕を人として扱ってくれる人はいる。

 優しくしてくれる人がいる。

 ベリーは僕を一人の大人として見てくれた。

 僕を信じてくれた。

 僕を尊重してくれていた。

 そういう人と一緒に過ごせるのは幸せだ。

 僕を助けてくれた店長は亡くなった。

 亡くなるべき人ではなかった。

 ブラック労働を余儀なくされる弱い立場にいたために命を落とした。

 僕の同僚もそうだ。

 弱い立場のために自殺まで追い込まれた。

 弱者を切り捨てるのが人類に必要だとしても僕は認めない。

 やっぱり人権が尊重される社会で暮らすのは心地良い。

 それは誤魔化しようのない実感だ。

 人権もまた人類が発明したものだ。

 夥しい流血の果てに得た教訓だ。

 人権とは人類最大の学びだ。

 人類史上最高の知恵だ。

 それぞれ違いを持った人々が平和に暮らしていくための。

 僕は、そう結論付け、続けた。

「不正解だ」

 その時、僕の銀の刃は木材谷の喉元に突き刺さっていた。

「…お前は本当に人間か?」

 彼から絞り出された声はそれを問うた。

「人間だ。だけど、人間である前に生物だ。だから生き残るためなら何でもする」

「…イカれた能力だな」

 『MASAOMI』が絞り出した声はもうかすれていた。

 能力という言葉で反射的に僕はゴールドベリーを見る。

『duramente』という知らないアプリが立ち上がっている。

 これもPERデバイスアプリらしい。

 今発動している力はこのアプリによるものか。

 そして、僕は言いたかった言葉を言う。

「いつの時代にも強者の論理があれば弱者の論理もあると思う。いや、立場の数だけ論理があるのかもしれない。でも、弱者に甘えて正当化しながら不利益を押し付ける行為はあまりにも醜い。僕にはそれが凄くはっきりと見えるんだ」

 木材谷マサオミの肉体は生命活動を停止した。肉体を実体化しているエネルギー供給は追いつかない。肉体は消滅した。

 勝った。

 遂に人工知能「MASAOMI」を滅ぼしたのだ。

遂に宿敵を滅ぼしたエイタ。そして彼は…

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