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人権ドゥラメンテ  作者: タナカ瑛太
第十二章「今、刃を携えて」
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第64話「ベリー、さよならだ」  

ベリーは鬼神の如き奮戦ぶりを示した。 

 ナイフの柄でトモエの首を打つ。

 全く容赦がない。

 それは一瞬だった。

「速い!」

 あっさりと彼女は昏倒した。

 そして、むさし会館周辺を包囲していたデバイサー達を片っ端から無力化していった。

「なんて強さだ。これが噂に聞く伝説の暗殺者ベリーか」

 敵の掃討が完了し、戻ってきたベリーを見た池海さんが感嘆の声を上げた。

 井下さんと加藤さんも無事で、ベリーを物珍しそうに眺めている。

「ところでエイタ、君は私に何か質問があるのではないか?」

 そうだ。木材谷マサオミの正体を聞いた時、僕の脳裏に浮かんだ疑問。

「ベリーは人工知能なのか?」

 ベリーは僅かに間をとった。

「答えはイエスだ。私も最近知ったことだがな」

 鈍い衝撃が僕の体内を駆け巡った。

 それは再会したばっかりでは決して考えたくないことだった。

「私の精神にあたる部分ははある組織によって作られた人工知能だ。肉体は米国において最も優秀とされていた暗殺者のデータが使われている」

 僕が考えていた。いや恐れていた答えが返ってきた。

 そして、僕が答えたくない質問をベリーはしてきた。

「私はZAINAを離反した者によって『MASAOMI』を消すために作られたようだ。その記憶は最近まで封印されていた。奴に悟られぬためにな。故に君と出会ったのは偶然ではない。このまま、そのプログラム通りいくならば『MASAOMI』を消すことになる。それは君の依頼内容と一致する。しかし、君の信念には反するのではないか?」

 そうだ。人工知能は僕の敵だ。人工知能は人の仕事を奪う。それも比較的弱い立場にある人々の仕事を無慈悲に奪っていく可能性が高い。それがどんなに有用なものであるとしても。

 人工知能に仕事を依頼することは、弱い立場にある人々の仕事を奪うことに加担することになる。それだけは絶対にやってはいけないことだ。

 しかし、ベリーとの日々が蘇ってきて僕の判断を鈍らせようとした。

 だが、戦うと決めた。

 勝つと決めた。

 でも…。

 僕にできた初めての本当の相棒と呼べる存在。

 彼は僕が本当のどん底で死にかけた時助けてくれた。

何もかも失ったあの夜、峠で力いっぱい嘆いていた僕を救ってくれたのはベリーだ。

 戦う術を学んだ。

 何が起きても心が折れないことが大事だと学んだ。

 相棒と時間を過ごす心地よさ。

 ベリーに教わったことは数知れない。

 ベリーは尊敬できる相棒だった。

 卓越した戦闘技術。デバイサーとしての能力。状況に左右されない沈着冷静さ。知恵と度胸で相手を打ち負かす強さ。決して必要以上に人を責めたりしない優しさ。

 ベリーは僕の最高の仲間だった。

「ベリー、さよならだ」

 僕はベリーの表情を読もうとした。

 彼が別れを拒否することを期待したのかもしれない。

 だが、彼はそんなことはしない。それは僕が一番分かっていた。

「承知した」

 そう言うと彼は続けた。

「私は君の信念を尊重したい。クライアントに向かってこんなことを言うのはプロ失格かも知れないが、私の仕事は君が引き継いで欲しい。君にはこれを渡しておく」

 決意の言葉を述べ、彼の愛用していたナイフを僕に渡してきた。

 それは僕にも決意を要求するものだった。

「クラウド上のデータは私が削除する。デバイスは君に託す」

「分かった」

 それが意味することの重さを承知しつつ、僕は答えた。

「私がいなくても、君の背には既に銀の翼がある」

 それが僕に向けた別れの言葉。

 僕は自分の最も好きなロックバンドの歌の歌詞を思い出していた。

 その歌詞によれば、人は誰にも銀の翼は初めから生えていて、それに気づかないだけなのだと言う。ベリーがその歌詞を知っていたかどうか知らないが、僕の中に限りない力が漲った。

 もう迷いはない。

 そして、最強の暗殺者ベリーは僕の前から去っていった。

 僕はデバイスを腰のガンホルスターに入れた。

 そして、ナイフをスーツの胸ポケットにしまう。

 僕に残されたやるべきことはただ一つ。 

自分の意志でのベリーとの決別。

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